112 / 179
護りの指輪
2
しおりを挟む
「手筈は整っておりますので、ご安心ください」
武子はそれだけ答えると、にこりと微笑む。ここまできて"作戦"の内容を教えてくれない彼女を、希美はじれったく思う。意外と秘密主義なのだろうか。
「分かったよ。とにかく、希美のことはあいつが守ってくれるんだな?」
「もちろんでございます。それより旦那様、奥様をお守りくださるようお願いいたします」
「あ、ああ……」
利希は少しうろたえたものの、ちゃんと頷く。希美は何だか可笑しくなるが、笑わないでおいた。
「それでは、お気を付けて行ってらっしゃいませ」
武子に見送られ、車は走り出した。別荘までは高速道路を経て、およそ2時間の道のりだ。
「二人とも、武子さんと何を話したの? 最近、内緒話が多いわねえ」
麗子が疑わしげな眼差しで父娘を見てくる。彼女に余計な心配をさせないよう、ボディガード云々については伝えていない。
「何でもないよ。なあ、希美」
「えっ、ええ。ご馳走がいっぱい食べられていいですねえ、なんて言ってたの。ほら、武子さんってグルメだから」
「……そうなの? まあ、いいですけどね」
まだ何か訊きたそうだが、着物の衿を直す仕草をすると、彼女は窓の外に顔を向けた。
(やれやれ。いろんな意味で疲れるわ)
希美はふっと息をつき、ゆううつな表情を浮かべた。
パーティーはビュッフェ形式で、3時間の予定とのこと。個人の誕生会といっても、実際は会社関係者を招待したレセプションパーティーの意味合いが強い。
つまり半分はビジネスであり、退屈するのは間違いなかった。
(でも、壮二が来るのが救いよね)
希美は華美にならないよう、黒のワンピースにジャケットを合わせたシンプルな服装を選んだ。
ただ、アクセサリーだけは特別に――
左手薬指を飾る指輪を、愛しそうに見つめる。壮二がプレゼントしてくれた、シルバーのペアリングだ。
先週末、壮二が突然ジュエリーショップに希美を誘った。
いきなりどうしたのと驚いていると、彼は希美の白い手をぎゅっと握り、熱く見つめてくる。真剣な顔つきから、必死の想いが伝わってきた。
どうやら彼は、希美を自分のものだと印を付けたいらしい。もちろん、今度のパーティーに備えてのことだ。つまり指輪は、細野幸一を希美に近付けないための魔除けである。
『考えてみれば、もっと早く指輪をプレゼントするべきでした。無骨な男ですみません』
女性と付き合った経験のない、純な男。
ジュエリーショップなど、今までの彼には縁のない場所だったろう。
『そんなこと、気にしないの』
壮二と一緒にショーケースを覗き、二人が気に入ったものを選んだ。高価でなくてもいい。彼に贈られる指輪だから嬉しい。
(とてもきれいよ……ありがとう、壮二)
滑らかなアームの内側に刻印されたのは、二人のイニシャル。無骨で一途な愛情が、希美を護っていた。
武子はそれだけ答えると、にこりと微笑む。ここまできて"作戦"の内容を教えてくれない彼女を、希美はじれったく思う。意外と秘密主義なのだろうか。
「分かったよ。とにかく、希美のことはあいつが守ってくれるんだな?」
「もちろんでございます。それより旦那様、奥様をお守りくださるようお願いいたします」
「あ、ああ……」
利希は少しうろたえたものの、ちゃんと頷く。希美は何だか可笑しくなるが、笑わないでおいた。
「それでは、お気を付けて行ってらっしゃいませ」
武子に見送られ、車は走り出した。別荘までは高速道路を経て、およそ2時間の道のりだ。
「二人とも、武子さんと何を話したの? 最近、内緒話が多いわねえ」
麗子が疑わしげな眼差しで父娘を見てくる。彼女に余計な心配をさせないよう、ボディガード云々については伝えていない。
「何でもないよ。なあ、希美」
「えっ、ええ。ご馳走がいっぱい食べられていいですねえ、なんて言ってたの。ほら、武子さんってグルメだから」
「……そうなの? まあ、いいですけどね」
まだ何か訊きたそうだが、着物の衿を直す仕草をすると、彼女は窓の外に顔を向けた。
(やれやれ。いろんな意味で疲れるわ)
希美はふっと息をつき、ゆううつな表情を浮かべた。
パーティーはビュッフェ形式で、3時間の予定とのこと。個人の誕生会といっても、実際は会社関係者を招待したレセプションパーティーの意味合いが強い。
つまり半分はビジネスであり、退屈するのは間違いなかった。
(でも、壮二が来るのが救いよね)
希美は華美にならないよう、黒のワンピースにジャケットを合わせたシンプルな服装を選んだ。
ただ、アクセサリーだけは特別に――
左手薬指を飾る指輪を、愛しそうに見つめる。壮二がプレゼントしてくれた、シルバーのペアリングだ。
先週末、壮二が突然ジュエリーショップに希美を誘った。
いきなりどうしたのと驚いていると、彼は希美の白い手をぎゅっと握り、熱く見つめてくる。真剣な顔つきから、必死の想いが伝わってきた。
どうやら彼は、希美を自分のものだと印を付けたいらしい。もちろん、今度のパーティーに備えてのことだ。つまり指輪は、細野幸一を希美に近付けないための魔除けである。
『考えてみれば、もっと早く指輪をプレゼントするべきでした。無骨な男ですみません』
女性と付き合った経験のない、純な男。
ジュエリーショップなど、今までの彼には縁のない場所だったろう。
『そんなこと、気にしないの』
壮二と一緒にショーケースを覗き、二人が気に入ったものを選んだ。高価でなくてもいい。彼に贈られる指輪だから嬉しい。
(とてもきれいよ……ありがとう、壮二)
滑らかなアームの内側に刻印されたのは、二人のイニシャル。無骨で一途な愛情が、希美を護っていた。
0
お気に入りに追加
143
あなたにおすすめの小説
どうぞ二人の愛を貫いてください。悪役令嬢の私は一抜けしますね。
kana
恋愛
私の目の前でブルブルと震えている、愛らく庇護欲をそそる令嬢の名前を呼んだ瞬間、頭の中でパチパチと火花が散ったかと思えば、突然前世の記憶が流れ込んできた。
前世で読んだ小説の登場人物に転生しちゃっていることに気付いたメイジェーン。
やばい!やばい!やばい!
確かに私の婚約者である王太子と親しすぎる男爵令嬢に物申したところで問題にはならないだろう。
だが!小説の中で悪役令嬢である私はここのままで行くと断罪されてしまう。
前世の記憶を思い出したことで冷静になると、私の努力も認めない、見向きもしない、笑顔も見せない、そして不貞を犯す⋯⋯そんな婚約者なら要らないよね!
うんうん!
要らない!要らない!
さっさと婚約解消して2人を応援するよ!
だから私に遠慮なく愛を貫いてくださいね。
※気を付けているのですが誤字脱字が多いです。長い目で見守ってください。
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
【完結】婚約者と幼馴染があまりにも仲良しなので喜んで身を引きます。
天歌
恋愛
「あーーん!ダンテェ!ちょっと聞いてよっ!」
甘えた声でそう言いながら来たかと思えば、私の婚約者ダンテに寄り添うこの女性は、ダンテの幼馴染アリエラ様。
「ちょ、ちょっとアリエラ…。シャティアが見ているぞ」
ダンテはアリエラ様を軽く手で制止しつつも、私の方をチラチラと見ながら満更でも無いようだ。
「あ、シャティア様もいたんですね〜。そんな事よりもダンテッ…あのね…」
この距離で私が見えなければ医者を全力でお勧めしたい。
そして完全に2人の世界に入っていく婚約者とその幼馴染…。
いつもこうなのだ。
いつも私がダンテと過ごしていると必ずと言って良いほどアリエラ様が現れ2人の世界へ旅立たれる。
私も想い合う2人を引き離すような悪女ではありませんよ?
喜んで、身を引かせていただきます!
短編予定です。
設定緩いかもしれません。お許しください。
感想欄、返す自信が無く閉じています
双子の妹に全てを奪われた令嬢は訳あり公爵様と幸せになる
甘糖むい
恋愛
同じ父と母から生まれたシャルルとミシャル。
誰もがそっくりだと言った2人は瞳の色が違う以外全て瓜二つだった。
シャルルは父の青と、母の金を混ぜたエメラルドのような瞳を、ミシャルは誰とも違う黒色。
ミシャルの目の色は異端とされ、彼女は家族からも使用人からも嫌がられてしまう。
どれだけ勉強しても刺繍に打ち込んでも全ての功績はシャルルのものに。
婚約者のエドウィンも初めこそミシャルに優しかったが、シャルルの方へと心動かされ、婚約者をシャルルに変更したいと望む。
何もかもが嫌になったミシャルは身体ひとつで呪われた屋敷と噂の公爵邸に足を踏み入れ、
行方知れずになってしまう。
ミシャルが行方不明となって死んだと思っていたシャルル達の前にミシャルが再び姿を現した時。
ミシャルはシャルルが欲しいものを全て手にして幸せそうに微笑んでいた。
聖女なので公爵子息と結婚しました。でも彼には好きな人がいるそうです。
MIRICO
恋愛
癒しの力を持つ聖女、エヴリーヌ。彼女は聖女の嫁ぎ制度により、公爵子息であるカリス・ヴォルテールに嫁ぐことになった。しかしカリスは、ブラシェーロ公爵子息に嫁ぐ聖女、アティを愛していたのだ。
カリスはエヴリーヌに二年後の離婚を願う。王の命令で結婚することになったが、愛する人がいるためエヴリーヌを幸せにできないからだ。
勝手に決められた結婚なのに、二年で離婚!?
アティを愛していても、他の公爵子息の妻となったアティと結婚するわけにもいかない。離婚した後は独身のまま、後継者も親戚の子に渡すことを辞さない。そんなカリスの切実な純情の前に、エヴリーヌは二年後の離婚を承諾した。
なんてやつ。そうは思ったけれど、カリスは心優しく、二年後の離婚が決まってもエヴリーヌを蔑ろにしない、誠実な男だった。
やめて、優しくしないで。私が好きになっちゃうから!!
ブックマーク・いいね・ご感想等、ありがとうございます。
魔がさした? 私も魔をさしますのでよろしく。
ユユ
恋愛
幼い頃から築いてきた彼との関係は
愛だと思っていた。
何度も“好き”と言われ
次第に心を寄せるようになった。
だけど 彼の浮気を知ってしまった。
私の頭の中にあった愛の城は
完全に崩壊した。
彼の口にする“愛”は偽物だった。
* 作り話です
* 短編で終わらせたいです
* 暇つぶしにどうぞ
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
私のバラ色ではない人生
野村にれ
恋愛
ララシャ・ロアンスラー公爵令嬢は、クロンデール王国の王太子殿下の婚約者だった。
だが、隣国であるピデム王国の第二王子に見初められて、婚約が解消になってしまった。
そして、後任にされたのが妹であるソアリス・ロアンスラーである。
ソアリスは王太子妃になりたくもなければ、王太子妃にも相応しくないと自負していた。
だが、ロアンスラー公爵家としても責任を取らなければならず、
既に高位貴族の令嬢たちは婚約者がいたり、結婚している。
ソアリスは不本意ながらも嫁ぐことになってしまう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる