105 / 179
グラットン
2
しおりを挟む
「グラットンに物流拠点を提供し、うまくいけば販売委託を受けるとか? 細野社長が自慢げに喋ってるらしい。まだ契約を交わしたわけでもないのに、軽々しい男だ」
利希がぶつくさ言うのを、麗子は聞こえないふりをしている。『逢引』の一件以来、細野友光の名前は禁句だった。
気まずい空気が漂い始め、希美は慌てて話の向きを変える。
「それにしても、最初は小さな会社だったのねえ」
旧本社は3階ほどの高さだった。今のグラットンは、見上げるほどの巨大ビルを一等地に構えている。
「小さな惣菜会社が、いまや堂々たる大企業に成長した。グラットンの社長はなかなかのやり手だぞ。ええと、確か名前は……」
「南村です。南村壮太」
希美の返事に、利希は「ああ」と声を上げる。
「そういえば、壮二のやつと似た名前だったな。あれっ、てことは壮二もグラットンの社長も〇〇市出身ってことか。案外、親戚かもしれんぞ」
「まさか。それはないんじゃないかしら」
利希の思い付きを、麗子が即座に否定した。
「壮二さんについては、興信所で調べてもらいました。もしもグラットンのような大企業と縁があるなら、報告書に上がるはずよ」
母の意見に希美も同意する。壮二の実家も惣菜を扱う食品会社だが、グラットンとは規模が違う。関係があるとは思えない。
「何だ、つまらん。グラットンと親戚になれたら、業務提携できるかもしれんのに」
娘の結婚を仕事に結びつけようとする発想は相変わらずだ。希美は父の発言に呆れながら、いつかの壮二を思い浮かべる。
あれは、父の命令で御殿場のカントリークラブまで二人で出かけた時……
壮二はグラットンの社長と名前が一字違いであり、それを先輩にからかわれると、困ったように話した。
(その上、出身地も同じだったのか。名前については吹っ切れたみたいだけど、グラットンのことは話題に出さないほうがいいかも)
つらつら考えるうちに、ホテルに到着した。
いよいよ両家の顔合わせが始まる。つまり、結婚に向けての大きな一歩。
希美は気分を切り替え、両親とともに車を降りた。
利希がぶつくさ言うのを、麗子は聞こえないふりをしている。『逢引』の一件以来、細野友光の名前は禁句だった。
気まずい空気が漂い始め、希美は慌てて話の向きを変える。
「それにしても、最初は小さな会社だったのねえ」
旧本社は3階ほどの高さだった。今のグラットンは、見上げるほどの巨大ビルを一等地に構えている。
「小さな惣菜会社が、いまや堂々たる大企業に成長した。グラットンの社長はなかなかのやり手だぞ。ええと、確か名前は……」
「南村です。南村壮太」
希美の返事に、利希は「ああ」と声を上げる。
「そういえば、壮二のやつと似た名前だったな。あれっ、てことは壮二もグラットンの社長も〇〇市出身ってことか。案外、親戚かもしれんぞ」
「まさか。それはないんじゃないかしら」
利希の思い付きを、麗子が即座に否定した。
「壮二さんについては、興信所で調べてもらいました。もしもグラットンのような大企業と縁があるなら、報告書に上がるはずよ」
母の意見に希美も同意する。壮二の実家も惣菜を扱う食品会社だが、グラットンとは規模が違う。関係があるとは思えない。
「何だ、つまらん。グラットンと親戚になれたら、業務提携できるかもしれんのに」
娘の結婚を仕事に結びつけようとする発想は相変わらずだ。希美は父の発言に呆れながら、いつかの壮二を思い浮かべる。
あれは、父の命令で御殿場のカントリークラブまで二人で出かけた時……
壮二はグラットンの社長と名前が一字違いであり、それを先輩にからかわれると、困ったように話した。
(その上、出身地も同じだったのか。名前については吹っ切れたみたいだけど、グラットンのことは話題に出さないほうがいいかも)
つらつら考えるうちに、ホテルに到着した。
いよいよ両家の顔合わせが始まる。つまり、結婚に向けての大きな一歩。
希美は気分を切り替え、両親とともに車を降りた。
0
お気に入りに追加
145
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる