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やきもち
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「よく見ると南村さんって体格がいいのね」
「意外にスポーツマンだったりして。だからスーツが似合うのかも」
遠慮なく壮二を愛でる女たち。
希美の中で、独占欲が渦を巻き始めた。かつてないほど強い、頭がくらくらして倒れそうなほどの激しい感情である。
壮二の実体を知るのは、私だけだったのに――
「はい、終わりました。あとは大丈夫ですか?」
脚立を下りた壮二の周りに女たちが集まり、口々に礼を言う。
華やかな空気に囲まれ、さすがの彼も戸惑った様子。これまでにない扱いに困惑したようで、慌てて脚立を片づけにいった。
「すみません、お待たせしました」
希美のもとに戻ってくると、彼は上着を羽織り、身だしなみを整える。
名残惜しそうな視線に見送られながら、二人はオフィスを出た。
「……あの、希美さん?」
「……」
社長室の戸締りをしたあと廊下を歩き、エレベーターに乗り込んでからも、希美は口を利かなかった。
壮二の顔を見ることもしない。
気持ちが昂りすぎて、どうすればいいのかわからないのだ。
困らせるつもりなんてないのに。
(そうよ。いつもどおり、余裕の態度でいればいい。壮二は私の婚約者。いくらモテても絶対に浮気なんてしないし、私だけを好きだってわかってるんだから)
それでも、感情を押さえられない。理屈をこねてもどうにもならなかった。
「希美さん」
「……」
(ごめん、壮二。でも、今何か言えばあなたを傷つけてしまうかもしれない)
エレベーターの扉が開く。希美は顔を見られたくなくて、俯いたまま先に降りた。
「え……?」
5、6歩進んだところで、そこが1階ロビーではないことに気づく。薄暗いホールには誰もおらず、階数を確認すると3階だった。
「ご、ごめんなさい。間違えたわ」
「いいえ。ボタンは僕が押しました」
思わず壮二を見上げる。光のかげんか、少し怖い表情に見えて、希美はビクッとした。
「ど、どうして3階に……用事でもあるの?」
「ええ」
壮二がいきなり腕を伸ばし、希美の手首をつかんだ。
「な、何を……」
「来てください」
3階は会議室が並ぶフロアだ。ライトが消された廊下は暗く、人影もない。
第2会議室と表示されたドアの前まで来ると、壮二は胸ポケットからカードキーを取り出して解錠した。
さっき壮二が、会議室の鍵を守衛に戻すと言ったのを希美は思い出す。彼はノブを掴んで押し開き、中に希美を連れ込んだ。
「そ、壮二。あ……」
ドアがロックされると同時に、唇を塞がれる。息もできないくらいの、深いキス。
「……んっ、んん……」
まるで、怒っているかのような強い拘束。彼の舌に攻め入られ、希美は苦しげに喘いだ。
「や、だめ、壮二……ちょっと、待って……」
壮二は許さなかった。情熱的なキスを繰り返し、希美から抵抗する力を奪う。
やがて希美は自ら彼の首に腕を回し、求めに応じた。全身が熱くなり、何も考えられなくなる。夢中で互いを貪り、燃える身体を密着させた。
気が付くと、彼の広い胸にもたれ、目を閉じていた。背中をさする手つきは優しく、愛しくてたまらないという風に、希美を慰めている。
3階のボタンを押したのは壮二。最も早く二人きりになれる空間を選び、連れてきたのだ。
「意外にスポーツマンだったりして。だからスーツが似合うのかも」
遠慮なく壮二を愛でる女たち。
希美の中で、独占欲が渦を巻き始めた。かつてないほど強い、頭がくらくらして倒れそうなほどの激しい感情である。
壮二の実体を知るのは、私だけだったのに――
「はい、終わりました。あとは大丈夫ですか?」
脚立を下りた壮二の周りに女たちが集まり、口々に礼を言う。
華やかな空気に囲まれ、さすがの彼も戸惑った様子。これまでにない扱いに困惑したようで、慌てて脚立を片づけにいった。
「すみません、お待たせしました」
希美のもとに戻ってくると、彼は上着を羽織り、身だしなみを整える。
名残惜しそうな視線に見送られながら、二人はオフィスを出た。
「……あの、希美さん?」
「……」
社長室の戸締りをしたあと廊下を歩き、エレベーターに乗り込んでからも、希美は口を利かなかった。
壮二の顔を見ることもしない。
気持ちが昂りすぎて、どうすればいいのかわからないのだ。
困らせるつもりなんてないのに。
(そうよ。いつもどおり、余裕の態度でいればいい。壮二は私の婚約者。いくらモテても絶対に浮気なんてしないし、私だけを好きだってわかってるんだから)
それでも、感情を押さえられない。理屈をこねてもどうにもならなかった。
「希美さん」
「……」
(ごめん、壮二。でも、今何か言えばあなたを傷つけてしまうかもしれない)
エレベーターの扉が開く。希美は顔を見られたくなくて、俯いたまま先に降りた。
「え……?」
5、6歩進んだところで、そこが1階ロビーではないことに気づく。薄暗いホールには誰もおらず、階数を確認すると3階だった。
「ご、ごめんなさい。間違えたわ」
「いいえ。ボタンは僕が押しました」
思わず壮二を見上げる。光のかげんか、少し怖い表情に見えて、希美はビクッとした。
「ど、どうして3階に……用事でもあるの?」
「ええ」
壮二がいきなり腕を伸ばし、希美の手首をつかんだ。
「な、何を……」
「来てください」
3階は会議室が並ぶフロアだ。ライトが消された廊下は暗く、人影もない。
第2会議室と表示されたドアの前まで来ると、壮二は胸ポケットからカードキーを取り出して解錠した。
さっき壮二が、会議室の鍵を守衛に戻すと言ったのを希美は思い出す。彼はノブを掴んで押し開き、中に希美を連れ込んだ。
「そ、壮二。あ……」
ドアがロックされると同時に、唇を塞がれる。息もできないくらいの、深いキス。
「……んっ、んん……」
まるで、怒っているかのような強い拘束。彼の舌に攻め入られ、希美は苦しげに喘いだ。
「や、だめ、壮二……ちょっと、待って……」
壮二は許さなかった。情熱的なキスを繰り返し、希美から抵抗する力を奪う。
やがて希美は自ら彼の首に腕を回し、求めに応じた。全身が熱くなり、何も考えられなくなる。夢中で互いを貪り、燃える身体を密着させた。
気が付くと、彼の広い胸にもたれ、目を閉じていた。背中をさする手つきは優しく、愛しくてたまらないという風に、希美を慰めている。
3階のボタンを押したのは壮二。最も早く二人きりになれる空間を選び、連れてきたのだ。
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