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みなみかぜ
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(中華そばに使う液体調味料か……どんな味なんだろ)
口コミで評判になるくらいだから、美味しいに違いない。ラーメンは希美の大好物。味を想像して、よだれが出そうになる。
それにしても、食品を扱う商売なのだから『みなみかぜ』はノルテフーズと同業者。いや、それよりも……と、希美は他の企業を思い浮かべた。
株式会社グラットン――
エスニック調味料を中心に売上を伸ばす会社だ。どちらかといえば『みなみかぜ』は『グラットン』に業種が近い。
(何だか不思議。社長の名前といい、壮二とグラットンは縁があるのかしら)
両親の店は現在も営業を続けている。もちろん借金は完済し、壮二の奨学金も一括返済したと報告書はまとめている。
「壮二さんは、とにかく真面目な人ね。友人関係も調べてもらったけど特に問題ないし、何より女性関係が真っ白なのが素敵。大学時代は遊んでる暇なんてなかったんでしょうね。誰かと違って」
麗子は皮肉っぽく言うが、その『誰か』はここにいない。夫の利希は朝からゴルフの練習場に出かけて留守だった。
「私、壮二さんを気に入ったわ。こうなったら一日でも早く会いたいわねえ。それに、彼のご両親にも、ぜひご挨拶がしたいわ」
「そ、そうね、お母様」
正直、ここまで母が気に入るとは思わなかった。真面目で、しかも浮気しそうにない男は、それだけで好感度抜群なのだ。
「でもお母様、期待しすぎないでね。壮二は本当に平凡な男だから。外見もスペックも普通だし、実際に会ってがっかりなんてことにならないように……」
「あら、そんなこと分かってるわよ」
麗子はホホホと笑う。
「普通だからいいのよ。あと、この間ちらっと見たけど、それなりにいいお顔してるわよ、壮二さん。服装をきちんとすれば雰囲気が変わるタイプね。優しそうで、可愛くて、理想的な息子だわ」
(か、可愛いって……というか、もう息子扱いしてる!?)
もしかしたら母は、娘婿ではなく息子として壮二を観察したのかも。どちらにしろ、これは相当気に入っている。希美は安心して、報告書を封筒に戻した。
「ねえ、希美。結婚のお話、早く進めましょうよ。お父さんも今のところ賛成してるみたいだし、気が変わらないうちに、ね?」
「ん、分かった。その辺りは壮二と相談しておく」
秘書課に異動したての彼をせっつきたくないが、確かに早く進めるべきだ。利希の気の変わりやすさを、希美もよく分かっている。
話を終えたところで、ノックの音がした。
「お嬢様。そろそろお出かけのお時間です」
ドアを開けたのは家政婦の武子。希美の予定は彼女に知らせてあった。
「ああ、もうこんな時間。お母様、エステに行ってきますね」
「ええ、どうぞごゆっくり。壮二さんのために、もっともっと、きれいにおなりなさい」
ご機嫌な母親を見て、武子が嬉しそうに微笑む。
彼女は希美を玄関まで送ってくれた。
「お母様ったら、壮二を気に入ったみたい」
「それは素晴らしい。奥様も旦那様も、南村さんとのご結婚に賛成ということでございますね」
空は明るく、庭の新緑がきらきらと輝いている。世界は希美の味方だった。今ならどんな願いでも叶えられそうな気がする。
「今日は陽射しが強いですよ。お車にされては?」
「大丈夫、日傘があるもの。それに、私は運転下手だし、電車のほうが早いから」
「さようでございますか。では、気を付けて行ってらっしゃいませ」
「ありがとう、武子さん」
希美はバス停へと歩きながら、先ほどの報告書を反芻した。予想どおりの内容だが、壮二の両親と商売に関しては興味を引かれた。
「『みなみかぜ』……か。それにしても、評判の中華スープが気になるわね。どんな味なのか、壮二に会ったら聞いてみようっと」
壮二の顔を思い浮かべ、楽しい気分になる。鼻歌を歌いながら、明るい未来へと進んだ。
口コミで評判になるくらいだから、美味しいに違いない。ラーメンは希美の大好物。味を想像して、よだれが出そうになる。
それにしても、食品を扱う商売なのだから『みなみかぜ』はノルテフーズと同業者。いや、それよりも……と、希美は他の企業を思い浮かべた。
株式会社グラットン――
エスニック調味料を中心に売上を伸ばす会社だ。どちらかといえば『みなみかぜ』は『グラットン』に業種が近い。
(何だか不思議。社長の名前といい、壮二とグラットンは縁があるのかしら)
両親の店は現在も営業を続けている。もちろん借金は完済し、壮二の奨学金も一括返済したと報告書はまとめている。
「壮二さんは、とにかく真面目な人ね。友人関係も調べてもらったけど特に問題ないし、何より女性関係が真っ白なのが素敵。大学時代は遊んでる暇なんてなかったんでしょうね。誰かと違って」
麗子は皮肉っぽく言うが、その『誰か』はここにいない。夫の利希は朝からゴルフの練習場に出かけて留守だった。
「私、壮二さんを気に入ったわ。こうなったら一日でも早く会いたいわねえ。それに、彼のご両親にも、ぜひご挨拶がしたいわ」
「そ、そうね、お母様」
正直、ここまで母が気に入るとは思わなかった。真面目で、しかも浮気しそうにない男は、それだけで好感度抜群なのだ。
「でもお母様、期待しすぎないでね。壮二は本当に平凡な男だから。外見もスペックも普通だし、実際に会ってがっかりなんてことにならないように……」
「あら、そんなこと分かってるわよ」
麗子はホホホと笑う。
「普通だからいいのよ。あと、この間ちらっと見たけど、それなりにいいお顔してるわよ、壮二さん。服装をきちんとすれば雰囲気が変わるタイプね。優しそうで、可愛くて、理想的な息子だわ」
(か、可愛いって……というか、もう息子扱いしてる!?)
もしかしたら母は、娘婿ではなく息子として壮二を観察したのかも。どちらにしろ、これは相当気に入っている。希美は安心して、報告書を封筒に戻した。
「ねえ、希美。結婚のお話、早く進めましょうよ。お父さんも今のところ賛成してるみたいだし、気が変わらないうちに、ね?」
「ん、分かった。その辺りは壮二と相談しておく」
秘書課に異動したての彼をせっつきたくないが、確かに早く進めるべきだ。利希の気の変わりやすさを、希美もよく分かっている。
話を終えたところで、ノックの音がした。
「お嬢様。そろそろお出かけのお時間です」
ドアを開けたのは家政婦の武子。希美の予定は彼女に知らせてあった。
「ああ、もうこんな時間。お母様、エステに行ってきますね」
「ええ、どうぞごゆっくり。壮二さんのために、もっともっと、きれいにおなりなさい」
ご機嫌な母親を見て、武子が嬉しそうに微笑む。
彼女は希美を玄関まで送ってくれた。
「お母様ったら、壮二を気に入ったみたい」
「それは素晴らしい。奥様も旦那様も、南村さんとのご結婚に賛成ということでございますね」
空は明るく、庭の新緑がきらきらと輝いている。世界は希美の味方だった。今ならどんな願いでも叶えられそうな気がする。
「今日は陽射しが強いですよ。お車にされては?」
「大丈夫、日傘があるもの。それに、私は運転下手だし、電車のほうが早いから」
「さようでございますか。では、気を付けて行ってらっしゃいませ」
「ありがとう、武子さん」
希美はバス停へと歩きながら、先ほどの報告書を反芻した。予想どおりの内容だが、壮二の両親と商売に関しては興味を引かれた。
「『みなみかぜ』……か。それにしても、評判の中華スープが気になるわね。どんな味なのか、壮二に会ったら聞いてみようっと」
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