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まさかの嫉妬
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自室に戻り、出勤の仕度をしながら両親のやり取りを反芻した。
どういうわけか、ソワソワする。
(考えられないことだけど、もしかしてお父様は……)
「奥様に嫉妬されたのでしょう」
「うわっ!」
いつの間に入ってきたのか、武子が後ろにいた。その上、心中をずばりと言い当てられて、希美は驚きのあまり口紅を取り落とした。
「た、武子さん」
武子はにこりと微笑んだ。そして腕まくりをすると、パワフルな動きでベッドのシーツを取り換え始める。
希美は鏡に向き直り、メイクを続けた。口紅を引く手が、少し震えている。
「や、やっぱり、そう思う?」
「はい。北城家にお勤めして28年。旦那様のあのような態度を見るのは初めてでございます。明らかにあれは、嫉妬です。奥様が他の男性の名を親しげに呼び、楽しそうにされるのが気に入らないのでしょう」
あの父が母に嫉妬? そんなことがあり得るのか。
「だって、お父様はお母様と、政略結婚で仕方なく結婚したのよね?」
メイクは完了した。髪を結い上げ、黒のバレッタで留めてから武子に見向くと、彼女はシーツをまるめて脇に抱えていた。
「そのはずです。奥様が仰るには」
さんざん聞かされてきた、父との結婚の理由。しかし、あらためて考えてみると、父に確かめたことは無いのだ。
もしかしたら、妻と娘に明かされていない事実があるのでは?
「でも、今さらよね」
今さら確かめたところで、なんになる。両親の不仲により形成された希美の結婚観が揺らぐことはない。
「もう行くわ。急がないと遅刻しちゃう」
「はい、お嬢様。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
希美は武子に見送られ、玄関へと速足で歩いた。
(そんなはずない。そんな、ばかなこと)
武子にはああ言ったものの、希美は困惑した。
一体、どういうわけだろう。
――君が昔誰と付き合っていようと、俺には関係ないがね。
父が母のことを『お母さん』ではなく『君』と呼んだ。
希美はその声に、特別な響きを感じるのだった。
どういうわけか、ソワソワする。
(考えられないことだけど、もしかしてお父様は……)
「奥様に嫉妬されたのでしょう」
「うわっ!」
いつの間に入ってきたのか、武子が後ろにいた。その上、心中をずばりと言い当てられて、希美は驚きのあまり口紅を取り落とした。
「た、武子さん」
武子はにこりと微笑んだ。そして腕まくりをすると、パワフルな動きでベッドのシーツを取り換え始める。
希美は鏡に向き直り、メイクを続けた。口紅を引く手が、少し震えている。
「や、やっぱり、そう思う?」
「はい。北城家にお勤めして28年。旦那様のあのような態度を見るのは初めてでございます。明らかにあれは、嫉妬です。奥様が他の男性の名を親しげに呼び、楽しそうにされるのが気に入らないのでしょう」
あの父が母に嫉妬? そんなことがあり得るのか。
「だって、お父様はお母様と、政略結婚で仕方なく結婚したのよね?」
メイクは完了した。髪を結い上げ、黒のバレッタで留めてから武子に見向くと、彼女はシーツをまるめて脇に抱えていた。
「そのはずです。奥様が仰るには」
さんざん聞かされてきた、父との結婚の理由。しかし、あらためて考えてみると、父に確かめたことは無いのだ。
もしかしたら、妻と娘に明かされていない事実があるのでは?
「でも、今さらよね」
今さら確かめたところで、なんになる。両親の不仲により形成された希美の結婚観が揺らぐことはない。
「もう行くわ。急がないと遅刻しちゃう」
「はい、お嬢様。お気をつけて行ってらっしゃいませ」
希美は武子に見送られ、玄関へと速足で歩いた。
(そんなはずない。そんな、ばかなこと)
武子にはああ言ったものの、希美は困惑した。
一体、どういうわけだろう。
――君が昔誰と付き合っていようと、俺には関係ないがね。
父が母のことを『お母さん』ではなく『君』と呼んだ。
希美はその声に、特別な響きを感じるのだった。
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