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御曹司(その2)
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壮二はちらっと希美を見やり、ポッと頬を染めた。
大の男がはにかむ姿は妙なものだが、壮二の場合あまり違和感がない。希美が純潔を奪った"花嫁"だからかもしれない。
「私を信じなさい。冗談の一つや二つ、いちいち気にしないの」
「そうですよね。つい、深読みしちゃって……すみませんでした」
素直に頷く、いつもどおりの壮二になった。希美は内心、やれやれと胸を撫で下ろす。
(それにしても、あんなセックスをしておいて『純潔を奪われた』なんておかしくない? 私が襲われたようなもんでしょ)
機嫌を直したらしい壮二を横目に、腰の辺りをさすった。武子のおかげで今はかなり楽だが、昨夜は痛くてたまらなかった。
壮二の言動は根本的にどこかずれている。
(まあいいわ。仕事の前にややこしいこと考えるのはやめよう。とにかく、コイツは私のものってことね)
「さ、行くわよ。社長がお待ちかねだわ」
「はいっ、希美さん」
未来の夫をリードして、仕事の現場へと向かった。
◇
◇
◇
◇
仕事の現場。それは、もう一つの戦いの場でもあった。
ノルテフーズの社長は、仕事がらみで希美を呼び出したのだが、その真の目的は別のところにある。父親として娘の結婚相手を吟味するためだ。
壮二を運転手にと指名して目的をカモフラージュしたつもりだろうが、希美には分かっている。圧迫面接を切り抜けて、彼を婚約者として認めさせなければならない。
(まあ、お父様がなんと言おうが、結婚するけどね)
しかし、隣りに立つ壮二を見るとやや不安になる。「面接は得意です」などと自信ありげだったが、「心の準備」だけではどうにもならないと、気付いたのだろう。
ロビーをのしのしと歩いてくる社長の姿を目の当たりにし、さすがに緊張の面持ちである。
「おう、ご苦労さん。急に呼び出して悪かったな」
まったく悪いと思ってないのがまるわかりの笑顔で、二人を出迎えた。利希はポロシャツにゴルフスラックスというラフな格好をしている。
「お疲れ様です、北城さん。南村くんも……」
背後から臼井秘書が顔を出し、苦笑いを浮かべた。社長の真の目的を、彼も察しているようだ。希美は壮二とともに挨拶を交わした。
「臼井さんこそ、お疲れ様でした。交代しますので、お休みになってください」
「ありがとうございます。では、これを」
臼井はファイルを差し出した。海山商事との資本提携に関する資料だろう。
「え?」
希美が受け取ろうとしたが、なぜか彼は壮二に持たせようとする。
「ちょっと臼井さん。そう……南村さんは私の荷物持ちじゃないわよ」
鞄を持ってくれるのは、壮二の親切である。そこのところを勘違いされては困る。
「いや、違うんです。社長が、南村くんに渡せと」
「は?」
「そうだ、俺の命令だ。今日一日、南村には秘書として働いてもらうからな」
底意地の悪い言い方で、利希が口を挿んだ。
臼井にファイルを押し付けられた壮二はぽけっとして、どういうことなのかまるで理解できない様子。
「秘書ですって?」
希美はぎょっとして、父を睨みつけた。
大の男がはにかむ姿は妙なものだが、壮二の場合あまり違和感がない。希美が純潔を奪った"花嫁"だからかもしれない。
「私を信じなさい。冗談の一つや二つ、いちいち気にしないの」
「そうですよね。つい、深読みしちゃって……すみませんでした」
素直に頷く、いつもどおりの壮二になった。希美は内心、やれやれと胸を撫で下ろす。
(それにしても、あんなセックスをしておいて『純潔を奪われた』なんておかしくない? 私が襲われたようなもんでしょ)
機嫌を直したらしい壮二を横目に、腰の辺りをさすった。武子のおかげで今はかなり楽だが、昨夜は痛くてたまらなかった。
壮二の言動は根本的にどこかずれている。
(まあいいわ。仕事の前にややこしいこと考えるのはやめよう。とにかく、コイツは私のものってことね)
「さ、行くわよ。社長がお待ちかねだわ」
「はいっ、希美さん」
未来の夫をリードして、仕事の現場へと向かった。
◇
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◇
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仕事の現場。それは、もう一つの戦いの場でもあった。
ノルテフーズの社長は、仕事がらみで希美を呼び出したのだが、その真の目的は別のところにある。父親として娘の結婚相手を吟味するためだ。
壮二を運転手にと指名して目的をカモフラージュしたつもりだろうが、希美には分かっている。圧迫面接を切り抜けて、彼を婚約者として認めさせなければならない。
(まあ、お父様がなんと言おうが、結婚するけどね)
しかし、隣りに立つ壮二を見るとやや不安になる。「面接は得意です」などと自信ありげだったが、「心の準備」だけではどうにもならないと、気付いたのだろう。
ロビーをのしのしと歩いてくる社長の姿を目の当たりにし、さすがに緊張の面持ちである。
「おう、ご苦労さん。急に呼び出して悪かったな」
まったく悪いと思ってないのがまるわかりの笑顔で、二人を出迎えた。利希はポロシャツにゴルフスラックスというラフな格好をしている。
「お疲れ様です、北城さん。南村くんも……」
背後から臼井秘書が顔を出し、苦笑いを浮かべた。社長の真の目的を、彼も察しているようだ。希美は壮二とともに挨拶を交わした。
「臼井さんこそ、お疲れ様でした。交代しますので、お休みになってください」
「ありがとうございます。では、これを」
臼井はファイルを差し出した。海山商事との資本提携に関する資料だろう。
「え?」
希美が受け取ろうとしたが、なぜか彼は壮二に持たせようとする。
「ちょっと臼井さん。そう……南村さんは私の荷物持ちじゃないわよ」
鞄を持ってくれるのは、壮二の親切である。そこのところを勘違いされては困る。
「いや、違うんです。社長が、南村くんに渡せと」
「は?」
「そうだ、俺の命令だ。今日一日、南村には秘書として働いてもらうからな」
底意地の悪い言い方で、利希が口を挿んだ。
臼井にファイルを押し付けられた壮二はぽけっとして、どういうことなのかまるで理解できない様子。
「秘書ですって?」
希美はぎょっとして、父を睨みつけた。
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