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ドライブ日和
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しおりを挟む首都高速に乗ったのは10時過ぎ。東名を休憩なしで走れば11時30分には御殿場インターに到着する。
「ゴルフ場のホテルはインターから10分くらいか。昼食会が開かれるのは正午だから間に合うけど、ぎりぎりだわ」
壮二がナビを確認し、心配そうな目を向けてきた。
「もしかして、希美さんも出席されるんですか?」
「ええ。海山商事の社長親子と、情報交換と親睦を兼ねての食事会。ノルテフーズの製品について、私が一番詳しいからと呼び出されたの。先にデータを送ってあるから、準備は臼井さんがしてくれてるけど」
「じゃあ、社長の忘れ物というのは?」
不意の質問に、ギクッとする。
もともと壮二には、『社長に忘れ物を届けに行く』という名目で、静岡行きを説明してあった。
「もちろん、忘れ物を届けるためだけど、ついでにってことでね」
「なるほど。それで、社長はなにを忘れ物されたのですか?」
結構突っ込んでくる。
無視するわけにもいかず、希美は急いで頭を回転させた。
「それはその……ほら、お父様ったらお腹を壊しちゃったらしくて、えー、腹巻きを」
「腹巻き?」
眉根を寄せる壮二に、希美は適当な理由をひねり出す。
「大したことないのよ。お父様ってば冷え症だから、いつもこうなの。お母様が編んだ腹巻きを愛用してるんだけど、忘れたから持ってこいですって。いやになっちゃう」
実際、父利希は、妻に編んでもらった毛糸の腹巻を愛用し、出張に出かけるさいは常に携行している。忘れると不安になり、秘書に持ってこさせることもあるので、希美はとっさに思いついたのだ。
「そうだったんですか。社長が腹巻きを愛用……」
元イケメンの利希は社員の前では格好をつけ、ダンディを売り物にしている。腹巻きについては一部の重役と秘書しか知らないトップシークレットだ。
(ま、いいわよね。壮二もいずれ身内になるんだから)
希美は心中で、ぺろりと舌を出した。
「それは初耳ですが、奥さんの手編みというのはいいですね。愛情がこもっていそうで」
羨ましそうに言われ、希美は苦笑する。
実は、こもっているのは愛情ではなく、怨念だったりする。かっこ悪い腹巻き姿を見て浮気相手が幻滅するのを、母は願っているのだ。
「昨夜も話したでしょう。あの二人は仲良し夫婦じゃないわ」
それが原因で、ハイスペックな浮気男を避け、地味な壮二を夫に選ぶことになった。きちんと話したはずなのに。
「ええ。それでも、愛情はあると思いますよ」
「……」
『愛情』を信じ切っている横顔から、希美は目を逸らした。
壮二の両親はよほど円満なのだろう。仲の悪い夫婦というのがどんなものか、想像できないのだ。
「とにかく、そういうこと。さて、かなり近付いてきたわね」
「あ、はい。順調にいけば、予定より早く着きそうですよ」
忘れ物うんぬんについては、うまくごまかせたようだ。
それにしても、壮二はあんがい細かいことを憶えていて、しかも追及してくるタイプだと知った。
ベッドでも希美の身体をよく観察し、どこをどうすれば感じるのか学習していた……
なんてことを考えてしまい、希美はぶるぶると頭を振る。
「きれいな青空だなあ。絶好のドライブ日和ですね」
爽やかに笑う壮二に、ヨコシマな影は見当たらない。希美とドライブするだけで、満足なのだろう。
(仕事じゃなくて、デートならよかったのに)
希美はため息をつくと深くシートにもたれ、ウズウズする身体を持て余した。
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