夫のつとめ

藤谷 郁

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お見通し

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「ええと……」

 なんと言えばいいのやら。いくら武子が相手でも、ベッドでの詳細は語れるものではない。
 しかし、それ抜きで今夜のことを説明するのは不可能だ。

「はいはい、さようでございましょうとも。童貞とは、思うようにならないものですから」
「そうなのよ……って、武子さん。私、まだ何も言ってないんだけど?」

 希美はハッとして、幼い頃から見守り続けてくれる、親代わりともいえる家政婦を見返す。
 すべて承知していると、彼女は頷いた。
 つまり、思いどおりにいかなくとも、お嬢様は満足していると――

「わ、私はでも、落ちたんじゃないから! 壮二なんかに、誰がっ」
「シィーッ、お静かに、お嬢様。奥様がお目覚めになってしまいます」

 武子に注意され、希美は自らの手で口を塞ぐ。
 真夜中の屋敷はシンと静まり返り、話し声が大きく響いてしまう。

「武子さん、私はね……」
「お話は後ほど。とにかく、早めにケアしなければ痛みが酷くなってしまいます。手当てと、ストレッチをいたしましょう」

 希美は声を落として続けようとしたが、「そうね」と返事をすると、観念して口をつぐんだ。玄関ドアを開ける武子の前を、火照った頬を隠すようにして通り過ぎた。

 体格が立派な男でも、案外見かけ倒しの場合がある。例えば、いくら鍛え上げた肉体であろうと、油断してトレーニングを怠ったり、暴飲暴食など不摂生をすれば、すぐに筋力は落ちる。内臓の働きも弱まり、踏ん張りがきかなくなるのだ。

 その点、南村壮二はタフだった。
 パワーだけでなく、持久力もガチマッチョに負けていない。彼の身体は実に健康的で、力が充実していた。普段から自己管理して、体調をベストの状態に保つ努力をしているに違いない。

「なるほど、ただ若いというだけではなさそうですねえ」

 希美の腰に湿布を貼りながら、武子は感心の声を上げる。湿布の表面はひんやりとするが、炎症を起こした箇所に作用し、直に熱くなった。

「くぅっ、効く……うう……っ」
「一流アスリートおすすめの湿布でございます。明日にはかなり痛みが引くはずですよ」
「うーん、助かるわあ。一時はどうなることかと思った」

 希美は自室に戻ると、武子の助けを借りてストレッチを行い、今は手当を受けている。その間、今夜のデートについて彼女に聞いてもらった。
 肝心なプロポーズの顛末はもちろん、武子が興味を寄せる壮二の体格やスタミナに関しても、きちんと報告する。
 大体察しているようなので、ベッドでの生々しい行為については詳細を省いたが……

「我々アスリートに比べればスリムでしょうが、可能性を感じさせる、なかなか良いお身体をお持ちのようで」
「まあ、ガッカリするほどではなかったけどね」
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