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35話 輝くほどの美しさ②
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「さて、書類はこれで終わりかな?」
「ああ、そうだな。次は……」
「カッシュ、次は僕の仕事を手伝ってほしい」
「ルシアンの仕事? 他になにかあったか?」
首をひねるカッシュに、残忍な悪魔の如き笑みを浮かべてルシアンは言葉を続ける。
「リリスは僕の最愛なのはわかってると思うけど、その彼女を傷つけた人間たちがいるんだ」
「あー、そう。そっちの仕事か」
「うん。僕はね、奴らを許す気は毛頭ないんだよ」
ダーレンはバックマン公爵家から勘当され、クレバリー侯爵家に身を寄せている。強欲な一家ごとまとめて処分しようとルシアンは計画していた。
「ルシアンがそんな風に怒るのを初めて見るな」
「そう?」
「いつも飄々としていて、負の感情とは無縁なのかと思っていた」
「まあ、それはそうなのかもね。リリス以外の人間に興味ないし」
「はあ、はっきり言うねえ……ということは、俺もどうでもいい人間のひとりかよ」
カッシュもまた王太子を理解している数少ない友人だと思っていたので、ポロッと心の声がこぼれてしまった。女々しい言葉になってしまったが、ルシアンもカッシュを友人だと思ってくれていると信じていたから、ルシアンの言葉はショックだったのだ。
「うーん、カッシュは友人だと思っているけれど、リリスと比べたら——」
「わかった! 比べなくていい。友人だと思っているなら、それでいいんだ」
カッシュがもう聞きたくないとばかりに言葉を挟んだので、ルシアンもそれ以上は続けなかった。
(リリスと比べたら、どんな物もどんな人間も、この世界ですら色褪せてしまうけど)
それほどまでにルシアンから見たアマリリスは眩しく女神のような存在だ。ルシアンの婚約者はアマリリスの花言葉である、『輝くほどの美しさ』を体現している。
「で、計画は立ててあるのか?」
「これからだよ。今のクレバリー侯爵家の状況を知ってる?」
「ダーレンが身を寄せているとは聞いたが……内情までは掴んでいない」
「ふふ、実はこんなことになっているんだ——」
ルシアンはクレバリー侯爵家の内情を正確に把握していた。それは使用人として忍ばせている影からの情報だから間違いない。
現在はダーレンとエミリオの間で後継者問題が勃発しそうだと、ルシアンは掴んでいた。現在はエミリオが嫡男で後継者として育てているようだが、その進捗は芳しくないと聞く。
教育をまともに受けていないアマリリスの方が博識で、領主としての才があると報告を受けていた。
それに財務状況もよろしくない。クレバリー侯爵はバックマン公爵家との繋がりを利用しようとしていたが、それはダーレンが勘当されたことで使えなくなった。
アマリリスが去ってからますます悪化の一途を辿り、没落まで秒読み段階と言える。
それらをカッシュに説明し、どうしたら気が済むような処分できそうか思案した。
「ここで本当の後継者が出てきたら、面白くなると思わない?」
「本当の後継者って……あ!」
「ふふふ、さてどうやって奴らを追い込もうか。ギリギリまで足掻かせて絶望の底に叩き落とそうかな。あとで周知するのも面倒だし、目立つところがいいよね?」
「目立つところって……夜会かパーティーか?」
「うん。リリスだって夜会で婚約破棄されたんだし、文句は言えないよね」
極上の笑みを浮かべ、どんどん瞳から光を消していくルシアンを見て、カッシュはポツリと呟いた。
「本当にルシアンだけは敵にしたくないよ」
「ああ、そうだな。次は……」
「カッシュ、次は僕の仕事を手伝ってほしい」
「ルシアンの仕事? 他になにかあったか?」
首をひねるカッシュに、残忍な悪魔の如き笑みを浮かべてルシアンは言葉を続ける。
「リリスは僕の最愛なのはわかってると思うけど、その彼女を傷つけた人間たちがいるんだ」
「あー、そう。そっちの仕事か」
「うん。僕はね、奴らを許す気は毛頭ないんだよ」
ダーレンはバックマン公爵家から勘当され、クレバリー侯爵家に身を寄せている。強欲な一家ごとまとめて処分しようとルシアンは計画していた。
「ルシアンがそんな風に怒るのを初めて見るな」
「そう?」
「いつも飄々としていて、負の感情とは無縁なのかと思っていた」
「まあ、それはそうなのかもね。リリス以外の人間に興味ないし」
「はあ、はっきり言うねえ……ということは、俺もどうでもいい人間のひとりかよ」
カッシュもまた王太子を理解している数少ない友人だと思っていたので、ポロッと心の声がこぼれてしまった。女々しい言葉になってしまったが、ルシアンもカッシュを友人だと思ってくれていると信じていたから、ルシアンの言葉はショックだったのだ。
「うーん、カッシュは友人だと思っているけれど、リリスと比べたら——」
「わかった! 比べなくていい。友人だと思っているなら、それでいいんだ」
カッシュがもう聞きたくないとばかりに言葉を挟んだので、ルシアンもそれ以上は続けなかった。
(リリスと比べたら、どんな物もどんな人間も、この世界ですら色褪せてしまうけど)
それほどまでにルシアンから見たアマリリスは眩しく女神のような存在だ。ルシアンの婚約者はアマリリスの花言葉である、『輝くほどの美しさ』を体現している。
「で、計画は立ててあるのか?」
「これからだよ。今のクレバリー侯爵家の状況を知ってる?」
「ダーレンが身を寄せているとは聞いたが……内情までは掴んでいない」
「ふふ、実はこんなことになっているんだ——」
ルシアンはクレバリー侯爵家の内情を正確に把握していた。それは使用人として忍ばせている影からの情報だから間違いない。
現在はダーレンとエミリオの間で後継者問題が勃発しそうだと、ルシアンは掴んでいた。現在はエミリオが嫡男で後継者として育てているようだが、その進捗は芳しくないと聞く。
教育をまともに受けていないアマリリスの方が博識で、領主としての才があると報告を受けていた。
それに財務状況もよろしくない。クレバリー侯爵はバックマン公爵家との繋がりを利用しようとしていたが、それはダーレンが勘当されたことで使えなくなった。
アマリリスが去ってからますます悪化の一途を辿り、没落まで秒読み段階と言える。
それらをカッシュに説明し、どうしたら気が済むような処分できそうか思案した。
「ここで本当の後継者が出てきたら、面白くなると思わない?」
「本当の後継者って……あ!」
「ふふふ、さてどうやって奴らを追い込もうか。ギリギリまで足掻かせて絶望の底に叩き落とそうかな。あとで周知するのも面倒だし、目立つところがいいよね?」
「目立つところって……夜会かパーティーか?」
「うん。リリスだって夜会で婚約破棄されたんだし、文句は言えないよね」
極上の笑みを浮かべ、どんどん瞳から光を消していくルシアンを見て、カッシュはポツリと呟いた。
「本当にルシアンだけは敵にしたくないよ」
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