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29話 国王の提案③
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* * *
アマリリスが去った後の国王の執務室では、今まで見たことがないほどルシアンは嬉しそうに笑みを浮かべている。幼い頃から優秀だったがどこか冷めた表情のルシアンが、唯一の女性に出会い幸せそうに笑うのを国王は父として喜ばしく思っていた。
しかも相手は侯爵家の娘で身分も問題なく、周りの心を読み手のひらで転がすほど聡明だ。さらに使用人まで気にかける慈悲深さと、国王である自分にも怯まない豪胆さも持っている。
「ルシアン、私が手を貸せるのはここまでだ。アマリリスの心しかと掴むのだぞ」
「もちろんですよ、父上。必ずリリスの心を僕で染め上げます」
ルシアンがアマリリスのことを父に話したのは、ダーレンが婚約破棄を告げたパーティーの三日前だった。
それまで調査を重ねてきたアマリリスの資料と、婚約者だった令嬢の不貞の証拠を持参してきてこう言ったのだ。
『父上、僕はアマリリス・クレバリーを妻にします』
『なにを言っておる、お前はすでに婚約者が——』
『こちらは彼女の不貞の証です。王族の婚約者として不適格なので、先方の有責で婚約破棄します』
提出された不貞の証拠を見て国王は愕然とした。信頼していた臣下の娘であったが、何年も前から他の男と通じており深い関係にあると書かれている。物的証拠も揃っており、疑いようがなかった。
『だが、アマリリスは稀代の悪女と呼ばれている。そんな令嬢では許可できんな』
『あれは演技です』
『なに? 演技だと?』
ルシアンから幼い頃のアマリリスの立ち居振る舞いを聞き、これまでの調査報告書に目を通した国王は低い声で唸る。
『ううむ……これが事実であれば、クレバリー侯爵にもなんらかの処罰が必要だ』
『それは僕が対応します。ですがアマリリスが悪女のふりをしているというのは、ご納得いただけましたね?』
『ああ、だがアマリリスもダーレンと婚約を結んでいる。どちらにしてもお前の希望は通らないであろう』
『ダーレンは三日後のパーティーで、アマリリスに婚約破棄を告げると情報が入りました』
『ふむ……そういうことか』
口角を上げたルシアンは、その才能を活かしアマリリスを絡めとる計画を提案してきた。まずは婚約破棄後にアマリリスの身柄を確保し婚約を打診するつもりだが、難色を示すようであれば他の方法で王城に引き止め婚約者候補とする内容だった。
『よかろう。では詳細を詰めるぞ』
『ありがとうございます。父上』
花が咲くような笑みを浮かべ、ルシアンは作戦会議を進めていく。その様子を見た国王は密かに驚いていた。
(こんなにも誰かに固執するルシアンは初めてだ)
なんでもそつなくこなすルシアンは穏やかではあるが、なにかに対して情熱を見せることがなかった。非情な決断もあっさりと決断し淡々と実行していく。それは為政者として必要な要素ではあるが、ルシアンの心が見えず心配もあったのだ。
(やっとルシアンの本音を聞いた気がするな……)
人間らしいルシアンの行動に、国王として、父としてなにをしてでも応えたいと強く思う。
こうしてアマリリスにとって理不尽な命令が下されることになった。
アマリリスが去った後の国王の執務室では、今まで見たことがないほどルシアンは嬉しそうに笑みを浮かべている。幼い頃から優秀だったがどこか冷めた表情のルシアンが、唯一の女性に出会い幸せそうに笑うのを国王は父として喜ばしく思っていた。
しかも相手は侯爵家の娘で身分も問題なく、周りの心を読み手のひらで転がすほど聡明だ。さらに使用人まで気にかける慈悲深さと、国王である自分にも怯まない豪胆さも持っている。
「ルシアン、私が手を貸せるのはここまでだ。アマリリスの心しかと掴むのだぞ」
「もちろんですよ、父上。必ずリリスの心を僕で染め上げます」
ルシアンがアマリリスのことを父に話したのは、ダーレンが婚約破棄を告げたパーティーの三日前だった。
それまで調査を重ねてきたアマリリスの資料と、婚約者だった令嬢の不貞の証拠を持参してきてこう言ったのだ。
『父上、僕はアマリリス・クレバリーを妻にします』
『なにを言っておる、お前はすでに婚約者が——』
『こちらは彼女の不貞の証です。王族の婚約者として不適格なので、先方の有責で婚約破棄します』
提出された不貞の証拠を見て国王は愕然とした。信頼していた臣下の娘であったが、何年も前から他の男と通じており深い関係にあると書かれている。物的証拠も揃っており、疑いようがなかった。
『だが、アマリリスは稀代の悪女と呼ばれている。そんな令嬢では許可できんな』
『あれは演技です』
『なに? 演技だと?』
ルシアンから幼い頃のアマリリスの立ち居振る舞いを聞き、これまでの調査報告書に目を通した国王は低い声で唸る。
『ううむ……これが事実であれば、クレバリー侯爵にもなんらかの処罰が必要だ』
『それは僕が対応します。ですがアマリリスが悪女のふりをしているというのは、ご納得いただけましたね?』
『ああ、だがアマリリスもダーレンと婚約を結んでいる。どちらにしてもお前の希望は通らないであろう』
『ダーレンは三日後のパーティーで、アマリリスに婚約破棄を告げると情報が入りました』
『ふむ……そういうことか』
口角を上げたルシアンは、その才能を活かしアマリリスを絡めとる計画を提案してきた。まずは婚約破棄後にアマリリスの身柄を確保し婚約を打診するつもりだが、難色を示すようであれば他の方法で王城に引き止め婚約者候補とする内容だった。
『よかろう。では詳細を詰めるぞ』
『ありがとうございます。父上』
花が咲くような笑みを浮かべ、ルシアンは作戦会議を進めていく。その様子を見た国王は密かに驚いていた。
(こんなにも誰かに固執するルシアンは初めてだ)
なんでもそつなくこなすルシアンは穏やかではあるが、なにかに対して情熱を見せることがなかった。非情な決断もあっさりと決断し淡々と実行していく。それは為政者として必要な要素ではあるが、ルシアンの心が見えず心配もあったのだ。
(やっとルシアンの本音を聞いた気がするな……)
人間らしいルシアンの行動に、国王として、父としてなにをしてでも応えたいと強く思う。
こうしてアマリリスにとって理不尽な命令が下されることになった。
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