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12話 アマリリスの本気①

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 アマリリスはルシアンの教育手順について考えを改めた。

 嘘を見抜くのは、ある程度貴族特有の嫌味な言い回しに慣れてからの方がいいかもしれない。今までのやり方で政務は問題なく進んでいるようだし、嫌味が理解できれば言葉の裏を読み取れるようになる。

 それから嘘の見破り方を教えた方が効率がよさそうだ。それまではアマリリスが防波堤になればいい。つくづく損な役回りだが、そこは事務官に言って給金の交渉をすることにした。お金はいくらあっても困ることはない。

 そこでルシアンが呼ばれているお茶会のパートナーとして、一緒に参加することにした。アマリリスが一緒にいれば間違いなく嫌味な貴族言葉が聞けるので、ルシアンにとってもいい勉強になるはずだ。

 幸いにも二週間後にお茶会の予定があったので、アマリリスも同行することに決めた。

「アマリリス先生、ふたりでお茶会に参加するのは初めてだね」

 お茶会の会場へ向かう馬車の中で、アマリリスとルシアンは向かい合わせで座っている。お互いに色やデザインを揃えた衣装を身にまとい、はたから見れば仲のいい婚約者のようだ。

 ちなみにこの衣装は、最初からアマリリスの部屋のクローゼットに入っていた。ルシアンの用意周到さには感心するばかりである。

「ええ、そうですね。ルシアン様と一緒にお茶会へ参加するのは初めてですが、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」

 本当に嬉しそうに薄紫の瞳を細めるルシアンの笑顔は眩しい。アマリリスより三歳上のはずなのに、ルシアンの笑顔を見ているとなぜか庇護欲をそそられる。

 簡単な打ち合わせも終わり、馬車は会場となっているバックマン公爵家へ到着した。

 今日の目的はふたつある。アマリリスの悪評を払拭し、ルシアンの評価を上げること。もうひとつは貴族特有の毒のある言い回しの真意を、ルシアンに理解してもらうことだ。

(さて、それでは本気を出しましょうか)

 この瞬間からアマリリスはつま先から頭のてっぺんまで神経を張り巡らせ、自身の行動や仕草で与える印象を操作していく。

 すでに傲慢で最低な稀代の悪女と浸透している場合、さほど難しいことはない。貞淑な淑女の振る舞いをするだけで、そのギャップによって好印象を植え付けられる。

 わかりやすいのはいかつい強面の荒くれ者が、弱っている子猫を助けた時だ。見た目やイメージと反する行動を取ることによって、大きな効果を生むのだ。

 嬉しそうにエスコートするルシアンの右腕にアマリリスが手を添えて会場に入ると、一斉に視線が集中する。最大の効果を出すためには、わずかなミスも許されない。

「我がフレデルトの若き獅子。本日は私の茶会へお越しいただき光栄の至りでございます。どうかゆるりとお過ごしくださいませ」
「バックマン公爵夫人、お招きいただき感謝いたします。本日は婚約者候補のアマリリスもパートナーとして連れてまいりました」

 こんな風にルシアンがアマリリスを紹介すれば、バックマン公爵夫人は無視することができない。一瞬だけ鼻に皺が寄り、上唇がピクリと動く。

 アマリリスはこの反応を見て、やはり自分を嫌悪していると実感した。貴族の鑑のようなバックマン公爵夫人はほとんど感情を顔に出さないが、無意識で出てしまう反応は隠しきれない。

「……そのようでございますね。アマリリス嬢、お久しぶりね」
「ご無沙汰しておりました、バックマン公爵夫人。お元気そうなお顔が見られてとても嬉しく思います」

 アマリリスはバックマン公爵夫人の性格を把握していた。
 彼女は真面目で面倒見のいい性格だ。今はパーティーでのアマリリスの言動に対して、懇意にしていたのに裏切られたと嫌悪感を抱いている。

 だからまずはこちらからの好意を見せて、悪意を向けにくくする。真面目なバックマン公爵夫人にはより効果抜群だ。

「そ……そう。ではお席にご案内いたしますわ」
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