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11話 ルシアンの実力②
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午後になり、やっとルシアンの政務が落ち着きアマリリスの部屋へと場所を変えた。ここならば、他の貴族がやってくることはほぼないため、腹黒教育に集中できる。
「よろしいですか、まず——」
「あ、その前に。僕は生徒だからルシアンと呼び捨てにしてほしいな」
「いえ、さすがに呼び捨ては無理です……ルシアン様とお呼びしますが、よろしいですか?」
「うん、それでいいよ」
この申し出を聞いて、形から入るタイプなのだとアマリリスはルシアンを分析した。
ルシアンがよく着る白系の衣装も似合ってはいるが、今後購入する衣装は黒やグレー、青などの落ち着いた色にしてもらうのもいいかもしれない。そう言った色を身にまとうことによって、色が気持ちに及ぼす効果も取り入れたい。
気持ちを落ち着かせたり集中力を高めたり、その他にもルシアンが洗練された人物で嘘は通じないと不安感を与える助けになる。
「ルシアン様は相手の言うことを素直に聞きすぎです」
「確かに……そうだと思う」
「これから私が言うことを聞いて、どう感じたのか正直にお話しください」
「わかった」
アマリリスはわかりやすい嘘をつこうと考えた。昨日、ルシアンに不意打ちされて悔しかったのもあり、ハニートラップを仕掛けるつもりで言葉を続ける。
「ルシアン様、本当は私……迎えにきてもらうのをずっと待っていたのです。クレバリー侯爵家では使用人同然の扱いでしたし、八年前に養子に出された兄たちとも音信不通で、ずっと孤独でした……」
「アマリリス……」
ルシアンは眉尻を下げて、当人であるアマリリスよりもつらそうに話を聞いている。昨夜と同じようにふたりで並んでソファーに座っているから、肘や膝が軽く触れ合い互いの体温を感じとっていた。
アマリリスの瞳は潤み、切なそうにルシアンを見上げる。その視線を受けたルシアンは、真剣な眼差しをアマリリスに返した。
「ですから王命とはいえ、このようにルシアン様のそばにいられるのは本当に奇跡なのです」
「アマリリス、僕は……」
ルシアンの淡い紫の瞳の奥に、情熱的ななにかが燻っている。正義感に駆られて明後日の方向へ動かれては困るので、アマリリスはここで切り上げることにした。
「はい、以上です。今の言葉でなにを感じましたか?」
「——え?」
ポカンとしたルシアンに、アマリリスは教育係の顔に戻って現実を突きつける。
「今の、は……」
「半分嘘で半分事実です。どこが嘘なのかわかりましたか?」
「いや。ちょっと、それどころじゃなくて……」
頬から耳まで真っ赤に染め視線を逸らすルシアンは、貴族令嬢たちが生唾を飲むほどそそられる光景だ。
しかしアマリリスにはその魅力が通じない。完全に仕事だと割り切り、多少強引でも最短でお役目を終えたいからだ。
「ルシアン様。昨日からの私の態度で、助けを待つだけの気弱な令嬢ではないと気付かないといけません。また調査されたからご存じだと思いますが、バックマン公爵夫人と使用人たちにはよくしてもらっていたので孤独ではありませんでした」
「あ、そうだった」
「それに、私がこの場にいるのは確かに奇跡的な確率かと思いますが、恋だの愛だのとは申しておりません」
「…………そう、だね」
ルシアンの落ち込んだ様子を見て、少々やりすぎたかとアマリリスの良心がチクリと痛む。しかしこう見えてアマリリスより三歳年上の王太子殿下にはこれくらいの荒療治でもしなければ問題点がわからないだろう。
「でも、アマリリス先生が孤独じゃなくてよかった。これからは僕もいるから、気兼ねなく頼ってほしい」
ほんのりと頬を染めたルシアンは、アマリリスの手を取ってキラキラとした瞳で至極真っ当なことを言い放つ。だが、アマリリスが求めているのはこういう返答ではない。
(あー、これはゴールまで遠いわ)
翌日からの教育をどうするべきか、アマリリスの悩みは尽きないのだった。
「よろしいですか、まず——」
「あ、その前に。僕は生徒だからルシアンと呼び捨てにしてほしいな」
「いえ、さすがに呼び捨ては無理です……ルシアン様とお呼びしますが、よろしいですか?」
「うん、それでいいよ」
この申し出を聞いて、形から入るタイプなのだとアマリリスはルシアンを分析した。
ルシアンがよく着る白系の衣装も似合ってはいるが、今後購入する衣装は黒やグレー、青などの落ち着いた色にしてもらうのもいいかもしれない。そう言った色を身にまとうことによって、色が気持ちに及ぼす効果も取り入れたい。
気持ちを落ち着かせたり集中力を高めたり、その他にもルシアンが洗練された人物で嘘は通じないと不安感を与える助けになる。
「ルシアン様は相手の言うことを素直に聞きすぎです」
「確かに……そうだと思う」
「これから私が言うことを聞いて、どう感じたのか正直にお話しください」
「わかった」
アマリリスはわかりやすい嘘をつこうと考えた。昨日、ルシアンに不意打ちされて悔しかったのもあり、ハニートラップを仕掛けるつもりで言葉を続ける。
「ルシアン様、本当は私……迎えにきてもらうのをずっと待っていたのです。クレバリー侯爵家では使用人同然の扱いでしたし、八年前に養子に出された兄たちとも音信不通で、ずっと孤独でした……」
「アマリリス……」
ルシアンは眉尻を下げて、当人であるアマリリスよりもつらそうに話を聞いている。昨夜と同じようにふたりで並んでソファーに座っているから、肘や膝が軽く触れ合い互いの体温を感じとっていた。
アマリリスの瞳は潤み、切なそうにルシアンを見上げる。その視線を受けたルシアンは、真剣な眼差しをアマリリスに返した。
「ですから王命とはいえ、このようにルシアン様のそばにいられるのは本当に奇跡なのです」
「アマリリス、僕は……」
ルシアンの淡い紫の瞳の奥に、情熱的ななにかが燻っている。正義感に駆られて明後日の方向へ動かれては困るので、アマリリスはここで切り上げることにした。
「はい、以上です。今の言葉でなにを感じましたか?」
「——え?」
ポカンとしたルシアンに、アマリリスは教育係の顔に戻って現実を突きつける。
「今の、は……」
「半分嘘で半分事実です。どこが嘘なのかわかりましたか?」
「いや。ちょっと、それどころじゃなくて……」
頬から耳まで真っ赤に染め視線を逸らすルシアンは、貴族令嬢たちが生唾を飲むほどそそられる光景だ。
しかしアマリリスにはその魅力が通じない。完全に仕事だと割り切り、多少強引でも最短でお役目を終えたいからだ。
「ルシアン様。昨日からの私の態度で、助けを待つだけの気弱な令嬢ではないと気付かないといけません。また調査されたからご存じだと思いますが、バックマン公爵夫人と使用人たちにはよくしてもらっていたので孤独ではありませんでした」
「あ、そうだった」
「それに、私がこの場にいるのは確かに奇跡的な確率かと思いますが、恋だの愛だのとは申しておりません」
「…………そう、だね」
ルシアンの落ち込んだ様子を見て、少々やりすぎたかとアマリリスの良心がチクリと痛む。しかしこう見えてアマリリスより三歳年上の王太子殿下にはこれくらいの荒療治でもしなければ問題点がわからないだろう。
「でも、アマリリス先生が孤独じゃなくてよかった。これからは僕もいるから、気兼ねなく頼ってほしい」
ほんのりと頬を染めたルシアンは、アマリリスの手を取ってキラキラとした瞳で至極真っ当なことを言い放つ。だが、アマリリスが求めているのはこういう返答ではない。
(あー、これはゴールまで遠いわ)
翌日からの教育をどうするべきか、アマリリスの悩みは尽きないのだった。
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