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6話 王城へ連行されました①

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 アマリリスはクレバリー侯爵家のタウンハウスから一時間ほど歩いて、王都の中心部までやってきた。

 太陽は徐々に下り始め、背の高い時計塔に隠れてしまっている。時刻は十六時をすぎたところだが、今ならまだ最終の乗り合い馬車に間に合うはずだ。

 気候が暖かい南に行こうか、異文化の栄える東に行こうか、それとも商業の発達している西に行こうか。北は寒いけど魚介類がおいしいと聞く。

 このフレデルト王国を追い出されたとしても、生きていければどこでもいいとアマリリスは思った。

 どこへ養子に出されたのかも知らない兄たちに、どこかで会えたら嬉しいがそれは望み薄だろう。

 それにアマリリスは行き先も慎重に決めなければならない。みんなが用意してくれた金貨を無駄にしたくないからだ。

(できることなら、使用人たちが困った時に手を差し伸べられるような職業がいいわ。クレバリー侯爵家が没落するのも時間の問題だし……せめて勤め先を紹介できるようなお仕事がいいわね)

 今のアマリリスが使えるのは、クレバリー家の図書室で詰め込んだ知識と、帳簿の付け方、相手の心理状態や性格を捉えてうまく転がすことくらいだ。

 そして使用人たちに手を差し伸べる時に、絶対的に必要なのはお金だ。それから馬鹿にされないだけの社会的地位。仕事を紹介する伝手もあった方がいい。

 さらに女性でもバリバリ働ける仕事となると……デザイナーか商人か。もしくは教師か。冒険者もありだ。

 デザイナーはセンスと被服の勉強が必要だけど、あいにくどちらも持ち合わせていない。そもそもアマリリスは両親が亡くなってからおしゃれをしたことがない。

 教師にしても、貴族が通うような高等学院や専門的な学院を卒業しないと働くことすらできない。魔法の知識があれば、魔法学の教師はできるけれど魔法はからきしだ。剣も使えないから冒険者も消えた。

「そうなると商人ね……それなら西の国へ行こう。計算は得意だし、どこかの商会で雇ってもらえるでしょう」

 今後の方向性が定まれば、行き先も自然と決まる。乗り合い馬車は、王都を囲む城壁の東西南北にそれぞれの乗り口があるので、西を目指して足を進めた。

 ここからならアマリリスの足でも、王都を十字に走る大通りを一時間ほど歩けば馬車の乗降口に着く。途中で安売りしているパンをいくつか買って、ひとつはすぐに食べて後は残して道中に備えた。

 乗り合い馬車の乗降口に着き、切符を購入する列に並ぶ。行けるところまで馬車で行って、そこからさらに馬車を乗り換えてひたすら西を目指すつもりだ。

 いよいよアマリリスの番だと思ったところでガシッと腕を掴まれた。

 驚いて振り向くとロイヤルパープルの制服を着た騎士が、ものすごく険しい顔でアマリリスを睨んでいる。

 ロイヤルパープルは王家の色だ。近衛騎士の制服も、国王が羽織るマントも、王冠に飾られる宝玉もすべて気品あふれる鮮やかな紫が使われる。

 ということは、この騎士は近衛騎士に違いない。それがなぜ、このような場所にいてアマリリスの腕を掴んでいるのか。

「あ、あの……なにかご用でしょうか?」

 人違いではないかと思い、アマリリスは恐る恐る尋ねてみた。

「貴女様がアマリリス・クレバリー侯爵令嬢でお間違いないか?」
「……はい」

 人間違いではなかった。アマリリスはその回転の速い頭で考えられる可能性を弾き出す。

(もしかして、さっきのパーティーでやらかしたから捕まった? いや、それくらいなら近衛騎士が出てくることはないわね。それならもしかして、不敬罪? 王族の出席するパーティーでやらかしすぎた!?)

 周りをよく見たら、この騎士の後ろにも同じ制服を着た騎士がふたり控えている。ここで逃げることは難しそうだとアマリリスは観念した。

「失礼いたしました。王都から出られるご様子でしたので、慌てて引き止めてしまいました」
「どういったご用件でしょう。私は自ら犯した失態の責任を取るために、一刻も早く国から出ていきたいのですが」
「申し訳ございません。パーティーでのことはなんの問題もありませんので、このまま私とご一緒願います」
「え? どういうこと……?」

 あれだけダーレンの逆鱗を刺激しまくったのに、問題ないとはどういうことなのかアマリリスがどんなに考えても理解できなかった。

 そもそもロイヤルパープルの騎士たちを動かせる人物なんて王族しかいない。

(と、いうことは。王族自ら悪女である私に罰を与えるつもり……? そこまで悪いことはしていないと思うけど……!)

 アマリリスは全力で抵抗を試みるも、騎士が掴んだ右腕はびくりともしない。

「ちょっと待って、私はおとなしく国を出て行きますから、どうか——」
「申し訳ございません。なんとしてもお連れせねばならないのです」

 申し訳なさそうに眉尻を下げているのに、騎士はアマリリスの腕を決して離さない。屈強な騎士に反抗できるわけもなく、アマリリスは馬に乗せられ、来た道を戻ることになった。

 向かう先は明らかに王城。

(こうなったら、どんな処罰でも受け入れるしかないけど……できるだけ穏便に済みますように……!)

 無駄だろうとは思いつつ、アマリリスは心からそう祈った。


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