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ヴェルメリオ編

9、畑は荒らしちゃいけません

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 窓から入ってくる明るい光を感じて、意識がだんだん覚醒していく。フカフカのベッドの中でレオンはゆっくりと手足を伸ばした。

「う————ん、はぁ……あれ? いま何時だ?」

 目をあけて見渡した部屋が、いつもより明るく感じる。ガバッと起き上がると、ベリアルが着替えを用意しているところだった。

「あ、レオン様、おはよ。いま九時をすぎたくらいかな」

「おはよう。……寝坊したな」

 最近は自給自足することを目標に、城内や城の周りを開拓していた。今日も早起きするつもりだったのに、ベッドの寝心地がよすぎて起きれない。

 いや、最高なんだ。だけど、グダグダ大好きな俺には気持ちよすぎてダメなんだ。本当に目が覚めないんだ。ビックリだ。
 仕方ない、いっそこの時間から活動することにしよう。前みたいに勤務時間も決まってないしな、のんびりでいいか。

「起こした方がよかった?」

「いや、大丈夫だよ。」

 サクッと朝食を食べて、今日もいそいそと開拓に向かう。土に肥料をまぜて種を植え、仕上げはベリアルに魔力を注入してもらう。
 俺は見事に耕した畑の前で、大きな達成感を感じていた。
 これで美味しい野菜が採れるのだ。規模を増やして販売できれば、そこから利益がとれそうだ。そうしたら、美味しい野菜も食べられるし、人を雇う余裕もできるだろう。

 城のなかで手伝うって言っても、ベリアルに断られちゃうしなぁ。城の外で頑張るしかないんだよなぁ。
 ベリアルはいつも忙しそうにしているから、早くなんとかしてやりたい。

 ただ……悪魔族って、人族みたいに働いてくれるのか? そこが最大の疑問点だ。今のところ、働いてる悪魔族って見たことないんだよな。
 もしかして、あれだけ魔力の扱いが上手ければ、仕事をしなくても生きていけるのか……それは、かなり羨ましい。



「お前が殲滅せんめつ祓魔師エクソシストねっ!!」

 突然どこかで聞いたような、忘れたい呼び名が聞こえてきた。振り返ると一人の悪魔族がいた。若葉色の肩までの髪に黄金色の瞳をしている、十五歳くらいの線の細い美少女だ。
 フリルやリボンのついたダークグリーンのワンピースがよく似合っている。

 このパターン、デジャヴか……!

ベリアルとの出会いを思い出す。憤怒のオーラを放っているのも同じだ。まだそんなに日は経っていないが、すでに懐かしく感じる。

「今すぐ、ベリアルさまを解放しなさい!」

「は? いや、解放も何も……ベリアルから契約するって持ちかけられたんだけど」

「ふん、どうせ脅したか何かしたんでしょ! 騙されないわ!」

 え、ちょっと、その決めつけヒドくない? だから、俺そんな悪人じゃないのに。
 でも、ベリアルさまって言った? ベリアルの知り合いか?

「騙してないけど……ベリアルと直接話せばいいんじゃないか? 一緒に城まで来てくれる?」

「ふざけないで! そんな罠にはかからないから!」

 予想通りと言うか何と言うか、いきなり襲いかかってくる。

 てか、菜園ここでやったら、せっかく耕した畑が吹き飛んじまう! ちょ、今日の俺の仕事の成果が……あああぁぁぁぁ!!

 少女は風の防壁をつくりながら、俺に向かって攻撃を仕掛けてきた。ほとんど無意識で攻撃を避けながら、無惨に散ってゆく俺の畑たちに、ガックリと肩を落とす。


 あぁ……俺の三時間……本当に、何で悪魔族ってこんなに話聞いてくれないんだ? いっつも俺が悪いみたいに言ってきて、言ったもん勝ちなのか?
 とりあえず、俺の畑をめちゃくちゃにした責任は取ってもらおう。絶対! 必ず! コイツにやり直させる!!

 しかし、やっぱり悪魔族は魔力の扱いが、ダントツで上手いな……なんてノンキに考えていたら、いつのまにか数個の竜巻に囲まれていた。


 ……ん、待てよ? ベリアルのこと知ってるみたいだし、コイツに手伝い頼めないかなぁ……? ついでに俺の菜園に協力してもらおう。
 場合によっては緑化あの計画までいけるかも……それじゃぁ、まずは契約まで持っていくか。

 目の前まで迫った竜巻はやがて一つになり、レオンの周りを取り囲んでいた。六枚の黒い翼を目一杯ひろげて、竜巻の風向きとは逆方向に旋回しながら紫雷を放った。
 バチバチと大きな音を立てて、巨大化した竜巻はふわりとほどけ散る。

「ウソっ!?」

「お前、名前は?」

「へ……? グ、グレシル……だけど」

「なぁ、グレシル、俺と契約する気あるか?」

「っ!! イヤァァァ————!!」

 グレシルの背後に一瞬で移動して、優しく声をかける。少女は驚きのあまりビクッと大きく跳ねた後、涙目になりながら風の刃を数十個も放ってきた。

 うーん、優しく話しかけてもダメか。どうしようか? ベリアルの名前出して説得してみたほうがいいかな?

 俺に向かって飛んでくる風の刃を刀で払いながら、なるべく優しく微笑みながら近づいていく。怖がられないように、落ち着いてもらえるように。

 ……気のせいか? どんどん顔色が悪くなっていってないか? あれ、俺なんか失敗した? ……仕方ない、妥協案を提案するか。

「あのな、ベリアル一人じゃ大変だろうから、人員の補充しようと思ってるんだ。契約しなくてもいいから、ベリアルを助けてくれないか?」

 悪魔族の少女はキョトンとしている。
 え、俺また変なこと言ったか……?


(ベリアルさまが大変……って、意味わかんない! 人族なんていつもいつも、自分の欲望だけ押し付けてくるものなのに! 私たち悪魔族を、ただの都合のいい道具としてしか扱ってこなかったのに……)


 その黄金色の瞳には、穏やかに微笑むレオンが映っていた。
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