1 / 59
ヴェルメリオ編
1、冤罪からの国外追放
しおりを挟む「レオン、お前は有罪だ。反論の余地はない」
俺に向けて放たれた言葉を、一瞬、理解することができなかった。
いや、理解したくなかった。
俺は祓魔師として、アルブスという組織で働いている。
つい数時間前まで、夜勤明けでのんびりと買い物を楽しんでいた。明日は休みだから、鼻歌を歌いながら市場で食材を物色していたんだ。
いつもどおり買いだめして、次の勤務まで引きこもってダラダラするつもりだった。あの何もしなくていい開放感がたまらないんだよな。
仕事はマジメに頑張ってるので、このへんは大目にみてほしい。
それなのに、いきなり拘束されて手枷をはめられ、裁判室へと放り込まれた。そのまま公開裁判がはじまり、なぜか俺が被告人で断罪されている。
憐れんだ視線をむけられているが、まったく意味がわからない。
最初にかけられた言葉は、
「レオン、お前が悪魔族に取り憑かれていることはわかってるんだ。祓魔師が悪魔族に操られていたなんて……我らの組織アルブスの恥だ」
だった。
沈痛な面持ちで苦々しくつげられる。
「え? え? 何? 俺、別に取り憑かれてないけど」
「もはや分別もつかないのだな。お前のその不気味な黒い翼も、紫の眼も悪魔族の魔力の影響なのだろう?」
「眼? 眼は生まれた時からこの色だし、みんな知ってるよな? まぁ、翼はあんまりない色かもな」
祓魔師は『フェリガの泉』という特別な場所で、天使の加護を受けたものが就ける職業だ。
聖神力というのを使って、戦ったりすることができる。この力のおかげで、襲いかかってくる悪魔族に対抗できていた。
他にも、天使のような翼を具現化して、飛び回ったりもできるのだ。
ただ、俺の翼の色は黒だった。他のみんなは白い翼なので、かなり気味悪がられていたのは知っている。
そういや、呪われてるとか言ってたヤツもいたな。基本的に一人で祓ってたから、ほとんど気にしてなかったけど。
それにしても、微妙に会話が噛み合ってないのは気のせいか?
「お前に取り憑いた悪魔族が、我が国ヴェルメリオを乗っ取ろうとしていたのはわかってるんだ! 白状したらどうなんだ!」
「…………………………は?」
たしかに、この世界の半分を悪魔族が支配していて、人族が住む島国のヴェルメリオは常に襲撃を受けていた。
だから悪魔族を撃退できる祓魔師は、福利厚生もよく、なによりも給料が高かった。俺がこの仕事をえらんだ最大の理由だ。
祓魔師が所属する組織アルブスは、天使の加護があれば誰でも入隊できた。
幸いなことに俺も大天使ルシフェルの加護を受けられたし、弟も加護を受けられたから一緒にアルブスに入ったんだ。
そして今、総帥に次ぐ実力者、シュナイクから弾糾されているのだ。薄い金色の髪に緑色の瞳がいかにもイケメンぽくてイヤミな、偉そうなヤツだ。
俺のことなどお構いなしに裁判は進められていく。
「ニコラス、例の書類を」
「はい、こちらがレオンが悪魔族と通信していた記録です。この半年はやり取りが急増しておりました」
その資料一センチくらいあるけど、俺、悪魔族と話したことすらないのに何が書いてあるんだ?
「これを裏付ける証言をするのは、タイタラスか」
「はい、先程の資料の一部ですが、レオンが通信していた現場に居合わせていました。会話内容も相違ありません」
ていうか、お前誰だよ? タイなんとかって知らんけど? え? 会ったことある??
「シュナイク様、発言してもよろしいですか?」
「バーンズか、何だ?」
「レオンの部屋を家宅捜索した際に、このような物が出てきまして……至急こちらに持ってまいりました」
家宅捜索!? いや、ちょっと、マジでそんなことしたの!? あれとかアレとか……見つかったら恥ずかいモノが散らかってるんだけど!!
俺の焦りをよそにバーンズとよばれた隊員は、シュナイクに液体の入った茶色い小瓶を渡した。
「そうか。……これは、毒か?」
「はい、総帥が受けた矢尻に塗られていたものと、同じ種類でした」
シュナイクのヤツ、見ただけで毒ってわかるのか、すげぇな。あんな小瓶、初めて見たけど。
でもさ、やっぱり、誰かと思いっきり間違えてるよな?
「なぁ、さっきからなに言ってんだ? まったく心当たりないけど。俺の話聞いてる?」
「ここまで証拠が揃っているというのに……お前は操られていて、まともに話ができないのだな……」
シュナイクがうつむき、震える肩を落とした。
悪魔族に取り憑かれて嘘ばかりついていると言いたいのか、まったく話を聞いてもらえない。
「いやいやいや、昨日の襲撃の時もガッツリ悪魔族を祓っただろ! ノエルは……総帥は何て言ってるんだ?」
「総帥は一週間前に受けた毒矢のせいで絶対安静だ。まだ動ける状況ではない。だから私が全権を委任されている」
「え、あのケガは————」
もう聞きたくないとばかりに、シュナイクは俺の言葉をさえぎった。
「レオン、お前は有罪だ。反論の余地はない」
一瞬、理解が追いつかない。いや、理解したくなかった。
そして、この対応にさすがに怒りがこみあげる。
「はぁ!? ふざけんな! まともに話も聞かないで有罪とか何なんだよ!!」
シュナイクは眉間に深いシワをよせて無言で俺を見下ろしているだけだった。
もう、話すこともないってことかよ!?
「いい加減にしろよ! 俺が何したんだ! 夜勤明けにウキウキしながら昼飯を買い込んでただけだろ! 証拠だの証言だの、全部、ぜ————んぶ嘘だらけじゃねぇか!! 嘘つきなのはお前らだろ!!」
感情がはげしく昂り、聖神力があふれだしてしまう。すこし癖のある黒髪がゆらめき、紫の瞳が薄く光る。
俺は抑える気など微塵もなく、そのまま解き放った。
だが解放された聖神力は、スルスルと何かに吸い込まれてゆく。
なんだ……力が、抜けてく……?
「ここまでだ、レオン。お前は国外追放だ……本当に残念だよ」
そのまま上級祓魔師の証である、白い詰襟のロングジャケットをひるがえして、シュナイクは裁判室をでていった。
入れ違いにグレーの隊服を着た下級の祓魔師たちに取り囲まれる。手に持っているのは転移魔法を込めた魔石だ。
必死に逃げようとして聖神力を解放するものの、腕に嵌められた手枷が吸収してしまう。もう一度と、全力で聖神力を解放するとパキンッと音がして、すこしヒビが入った。
「おいっ! 手枷が壊れそうだぞ!」
「手枷が壊れる!? えぇ! そんな、まさか……」
「急がないと! 早くしないと誰も抑えられないぞ!!」
「っ!! あせらすなよ!」
慌てふためく祓魔師たちを横目に、聖神力を解放しまくって、ヒビを大きくしてゆく。
バキンッ! パキパキパキ……ビキッ!
転移魔法の発動が早いか、手枷を破壊するのが早いか————
「クソッ! まだか!!」
そう叫んだのが誰かわからない。
淡いブルーの光に絶望感とともに飲み込まれてゆく。足元に魔法陣が浮かびあがってるのが見えた。
————間に合わなかった……
俺はまばゆい光に目を閉じた。
***
光が落ち着いたようだったので、そっと目を開けてみる。
草も生えないような不毛な大地が、地平線まで広がっていた。
そこは海の向こうの大陸、悪魔の住処と呼ばれるルージュ・デザライトだった。
10
お気に入りに追加
1,501
あなたにおすすめの小説
異世界をスキルブックと共に生きていく
大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。
2度追放された転生元貴族 〜スキル《大喰らい》で美少女たちと幸せなスローライフを目指します〜
フユリカス
ファンタジー
「お前を追放する――」
貴族に転生したアルゼ・グラントは、実家のグラント家からも冒険者パーティーからも追放されてしまった。
それはアルゼの持つ《特殊スキル:大喰らい》というスキルが発動せず、無能という烙印を押されてしまったからだった。
しかし、実は《大喰らい》には『食べた魔物のスキルと経験値を獲得できる』という、とんでもない力を秘めていたのだった。
《大喰らい》からは《派生スキル:追い剥ぎ》も生まれ、スキルを奪う対象は魔物だけでなく人にまで広がり、アルゼは圧倒的な力をつけていく。
アルゼは奴隷商で出会った『メル』という少女と、スキルを駆使しながら最強へと成り上がっていくのだった。
スローライフという夢を目指して――。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。
晴行
ファンタジー
ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
無能テイマーと追放されたが、無生物をテイムしたら擬人化した世界最強のヒロインたちに愛されてるので幸せです
青空あかな
ファンタジー
テイマーのアイトは、ある日突然パーティーを追放されてしまう。
その理由は、スライム一匹テイムできないから。
しかしリーダーたちはアイトをボコボコにした後、雇った本当の理由を告げた。
それは、単なるストレス解消のため。
置き去りにされたアイトは襲いくるモンスターを倒そうと、拾った石に渾身の魔力を込めた。
そのとき、アイトの真の力が明らかとなる。
アイトのテイム対象は、【無生物】だった。
さらに、アイトがテイムした物は女の子になることも判明する。
小石は石でできた美少女。
Sランクダンジョンはヤンデレ黒髪美少女。
伝説の聖剣はクーデレ銀髪長身美人。
アイトの周りには最強の美女たちが集まり、愛され幸せ生活が始まってしまう。
やがてアイトは、ギルドの危機を救ったり、捕らわれの冒険者たちを助けたりと、救世主や英雄と呼ばれるまでになる。
これは無能テイマーだったアイトが真の力に目覚め、最強の冒険者へと成り上がる物語である。
※HOTランキング6位
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる