上 下
58 / 62

58話 僕は思い悩む②

しおりを挟む
 大勢の前でリアは僕のものだと宣言したし、今日のデートではいわゆる恋人繋ぎをしてリアは僕のものだと知らしめた。
 この指南書がなければ、手を繋ぐことすらなかったかもしれない。

 僕が目下挑戦中なのは次の項目だ。

【お付き合い中級編 その⑧二回目のキスはしたか?】

 そうだ、二回目のキスだ。
 一度目は目的が明確だったのと勢いもあって実践できたが、二回目がなかなかうまくできなかった。

 できることなら毎日したいくらいなのだが、如何せん僕は不器用なのでそういう流れに持っていけていない。

 予習のためにも上級編まで目を通してはいるが、こちらはさらに過激だ。
 同じキスでも、濃厚で具体的な方法まで書かれている。この項目が該当のものだ。

【お付き合い上級編 その⑤恋人をメロメロにさせよう!】

 メロメロになるのは間違いなく僕だと断言できる。この指南書の通りのキスをして、自分を保てるのかすらわからない。

 そもそもこの本は大衆向けであるから貴族の教育とはまだ別なのかもしれない。閨のことまで丁寧に説明されていた。

 僕とリアは結婚するまでは清く正しい関係でいなければいけないが、後々参考になりそうだ。
 ただ、なかなか刺激的なのでジークがいない時にこっそり読んでいる。

「ライオネル様の場合は、シチュエーションがよくてもヘタレすぎて行動に移せないので、いっそハーミリア様に気付いてもらうのはいかがですか?」
「リアに気付いてもらうか……だが、気付いてもらった後はどうすればいいのか。思い切って口づけさせてくれと頼んでみるか?」
「いやいやいやいや、直接頼むのだけはやめてください。ライオネル様の鬼気迫る様子で頼んだら雰囲気とか台無しですよ。絶対にやっちゃダメです」
「そ、そうか……」

 やはりジークに相談して正解だった。
 次にダメなら真剣に頼んでみようかと思っていたのだ。

「いいですか、ベストなのはハーミリア様に空気で察してもらって、ご対応いただくことです。ハーミリア様が目を閉じて待ってくだされば、さすがにライオネル様も本懐を遂げられるでしょう?」
「リアが瞳を閉じて……う、うん、大丈夫だと、思う」

 まずい想像しただけで、心臓がバクバクとうるさい。僕を見上げて瞳を閉じたリアはなんて危険なんだっ!

「はー、あんまり気が進みませんが練習しますか?」
「頼めるのか!?」
「ライオネル様のためですから、協力しますよ」

 嫌そうなジークには申し訳ないが、やはり練習しないと自信がないので頼むことにした。

「それじゃあ、私がライオネル様役を一旦やりますから、その後同じように私にやってみてください」
「わかった」

 僕の方が身長が高くてやりづらいという理由で、ジークは立ったままで僕はソファーに座ったまま教えてもらう。
 確かにリアは僕の肩より少し低いくらいだから、この高さがちょうどいいようだ。

「くっそ、これがお嬢様なら役得なのに……ていうかいっそ実地訓練するのに……!」

 ジークがなにか呟いているけど、よく聞こえない。きっとジークなりにいろいろと考えくれているのだと思う。

「はあ、よし。いきますよ、ライオネル様」
「ああ、よろしく頼む!」

 ジークは僕が腰掛けているソファーの前にやってくる。
 ソファーに片膝を乗せて、僕を挟み込むようにソファーの背もたれに手をついた。

 ジークの瞳は真剣そのもので、これが女性だったなら確かに胸がときめくだろう。ジークの紅い瞳が熱に浮かされたみたいに揺れていた。

「なにを考えてるんですか? 余計なことは考えちゃダメでしょう?」
「いや、余計なことなど……」

 ここでジークの人差し指が僕の唇に触れて、言葉を続けさせてもらえない。

「今は私のことだけ見て、私のことだけ考えてください」

 そう言って、ゆっくりと紅い瞳が近づいてくる。
 僕は思わず目を閉じた。

「はいっ! こんな感じです! どうですか?」
「っ! こ、これはなかなか難しいな……!」
「うーん、そうですねえ、全部を同じにしなくてもいいんですけど、空気の作り方はこんな感じです。さすがに通信機は映像も入っちゃうんで使えないですし、後は練習して頑張ってください」

 一瞬で切り替えたジークが「場所交代です」と言って、ソファーに腰を下ろす。
 さっきのやり方でリアにアピールできるように、練習をするしかない。

「ジーク、ダメなところは遠慮なく言ってくれ」
「わかりました。今回はさっさと終わらせたいんで、遠慮しません」

 その後、本当にズケズケと遠慮なく的確な指摘をもらい、なんとかジークの許可が出るまで頑張った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

本日は、絶好の婚約破棄日和です。

秋津冴
恋愛
 聖女として二年間、王国に奉仕してきたマルゴット。  彼女には同じく、二年前から婚約している王太子がいた。  日頃から、怒るか、罵るか、たまに褒めるか。  そんな両極端な性格の殿下との付き合いに、未来を見れなくなってきた、今日この頃。  自分には幸せな結婚はないのかしら、とぼやくマルゴットに王太子ラスティンの婚約破棄宣が叩きつけられる。  その理由は「聖女が他の男と不貞を働いたから」  しかし、マルゴットにはそんな覚えはまったくない。  むしろこの不合理な婚約破棄を逆手にとって、こちらから婚約破棄してやろう。  自分の希望に満ちた未来を掴み取るため、これまで虐げられてきた聖女が、理不尽な婚約者に牙をむく。    2022.10.18 設定を追記しました。

ある日愛する妻が何も告げずに家を出ていってしまった…

矢野りと
恋愛
ザイ・ガードナーは三年前に恋人のロアンナと婚姻を結んだ。将来有望な騎士の夫ザイと常に夫を支え家庭を明るく切り盛りする美人妻のロナは仲睦まじく周りからも羨ましがられるほどだった。 だがロナは義妹マリーの結婚式の翌日に突然家を家を出て行ってしまう。 夫であるザイに何も告げずに…。 必死になって愛する妻を探す夫はなぜ妻が出て行ってしまったかを徐々に知っていくことになるが…。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。

前世の推しが婚約者になりました

編端みどり
恋愛
※番外編も完結しました※ 誤字のご指摘ありがとうございます。気が付くのが遅くて、申し訳ありません。 〈あらすじ〉 アマンダは前世の記憶がある。アイドルが大好きで、推しが生きがい。辛い仕事も推しの為のお金を稼ぐと思えば頑張れる。仕事や親との関係に悩みながらも、推しに癒される日々を送っていた女性は、公爵令嬢に転生した。 推しが居ない世界なら誰と結婚しても良い。前世と違って大事にしてくれる家族の為なら、王子と婚約して構いません。そう思っていたのに婚約者は前世の推しにそっくりでした。 推しの魅力を発信するように婚約者自慢をするアマンダに惹かれる王子には秘密があって… 別サイトにも掲載中です。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

亡くなった王太子妃

沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。 侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。 王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。 なぜなら彼女は死んでしまったのだから。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

【完結】悪役令嬢の妹ですが幸せは来るのでしょうか?

まるねこ
恋愛
第二王子と結婚予定だった姉がどうやら婚約破棄された。姉の代わりに侯爵家を継ぐため勉強してきたトレニア。姉は良い縁談が望めないとトレニアの婚約者を強請った。婚約者も姉を想っていた…の? なろう小説、カクヨムにも投稿中。 Copyright©︎2021-まるねこ

処理中です...