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45話 僕のハーミリアを守るために③
しおりを挟むたったこれだけの訓練なのに、不器用な僕は二週間も費やしてしまった。
ふとした瞬間に思い出すのはリアの弾けんばかりの笑顔だ。
太陽みたいに笑うリアの笑顔を直視できなくていつも視線を逸らしていたけど、瞼を閉じれば鮮明に浮かび上がる。
「リアは今なにをしているのか……そうか、そろそろキャンピングスクールだっだな。海辺を一緒に散歩したかった……」
王女がこのタイミングで脅してこなければ、波打ち際で戯れるリアを堪能できたものを……いや、人のせいにしてはいけない。僕が不器用で時間がかかっているのがいけないんだ。
待て、転移魔法を使えるようになったら、いつでもリアと海辺で散歩できるのではないか!?
そうだ! ランチタイムもふたりっきりの時間が増えるんだ!
転移魔法でリアとふたり、どこへでも行けるんだ!!
そんな風に挫けそうな心を自分で励まし、炎属性の魔法も極め、聖属性の魔法も極め、ついに転移魔法の魔法を使いこなせるようになった。
気が付けば他の属性のコントロールも以前よりうまくなっていて、魔法に関しては誰にも負けないような気がする。
他のマジックエンペラー相手ならわからないけど、まあ、いい勝負ができると思う。
「やっと会える……リア!」
僕は転移魔法でマジックエンペラーの認定を受けるべく、魔法連盟に転移した。
戻ってきたのは受付の前だ。ここなら誰かがいるだろうし、目の前に僕が現れれば話が早い。
「はあ、やっと戻れた。あ、すみません。魔境の森から戻ってきたので、マジックエンペラーの認定をお願いします」
「えええ——!? えっ、ちょ、ちょっと待ってください——!!」
受付の女性は大慌てでどこかへ走り去っていった。
それから五分後、目の前にあの時の試験官が現れた。最初の時とは違って満面の笑みを浮かべている。
「おお! マジでライオネルか! てか、無茶苦茶早いな!?」
「あ、あの時の……早いかどうかはわかりませんが、戻りましたので認定をお願いします」
「くくっ、相変わらずクールだねえ。マジックエンペラーの試験は、クリアするまでに三カ月から半年はかかるんだ。異例の速さなんだぜ? 少しは喜んだらどうだ?」
そう言いながら、マジックエンペラーしか着ることが許されない、濃紫のローブを手渡される。これは魔道具の一種で、最初に流した魔力の持ち主しか着れないものだ。さすが魔法連盟だ、抜かりない。
それにしても、僕は不器用だからてっきり遅い方なのかと思っていた。これもリアが今まで僕の背中を押し続けてくれたおかげだ。
「喜ぶのは婚約者に会ってからにします。早く、リアに会いたい」
「おう、そうしな! ああ、ライオネル。もし困ったことがあれば魔法連盟長ナッシュ・アーレンスの名を出せ。大概なんとかなるだろう」
「いえ、そこまでは……」
「いいから! 本人がいいって言ってるからいいんだよ」
「……貴方様は世界一の魔道士、ナッシュ・アーレンス様でしたか」
「うん? 名乗ってなかったか? まあ、細かいことは気にすんな!」
濃紫のローブを羽織り、そっと魔力を流すと一瞬だけ淡い薄紫の光に包まれる。その光がまるでリアの瞳の色みたいで、思わず笑みがこぼれた。これでこのローブは僕しか着られない。やっとマジックエンペラーだと名乗ることができる。
そこで受付の女性が僕宛に手紙が届いていたと、まとめて渡してくれた。十通を超える手紙に素早く目を通して、リアの現状を理解した。
僕のリアに、手を出す男がいる?
僕とリアの婚約を王命で解消する?
そんなこと、この僕が絶対に許さない——
心の底から湧き上がる怒りは、凍えるような冷気をまとい僕の周囲を渦巻いた。でも怒りに染まる僕にはそれでも生温い。抑えきれない魔力の放出を転移魔法に変換して、僕のリアを取り戻しにいく。
「ではアーレンス様、失礼します」
悪魔よりも冷酷な微笑みを浮かべて、僕はリアのもとへと向かった。
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