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7話 ライオネル様の視線が突き刺さりますわ!①
しおりを挟むやっと待ちに待ったランチタイムがやってきた。
ほんの少ししか口を開くことしかできないので、昼食は野菜ジュース一択だ。無理やり飲んで紛らわした。
「…………」
「…………」
ライオネル様の視線が痛いほど刺さってくる。
毎日欠かさず婚約者の義務として、昼食を一緒に摂ってくださるライオネル様がなにか言いたそうにしている。
こんな律儀な婚約者も珍しい。どんなにわたくしが嫌いでも浮気の心配はなさそうだ。
あまりの気まずさから、二本目の野菜ジュースに手が伸びる。さすがに固形物を口に入れられないので、多めに用意してあった。
だけど……こんなに見つめられるなんて、あああ、今日は何て素敵な日なの!!
ライオネル様の鋭く怜悧な瞳がわたくしに向けられてるなんて、こんな感動を味わえるなんて思わなかったわ!!
けれどわたくしから言葉を発することができず、昼休みの時間があっけなく過ぎていく。
ああ、もう至福のランチタイムが終わってしまうのね。ライオネル様がなにか言いたそうになさってるのはわかるのだけど、どうされたのかしら?
婚約者の気持ちを推し量れないなんてまだまだ修行が足りませんわ。
なおもジッと見つめてくるライオネル様に、どうしたのかと尋ねたかったけど、紙もペンも教室に置いてきてしまっていて筆談もできない。
クラスが違うから次にライオネル様にお会いするのは帰りの馬車になる。
そうだわ、帰りまでにお手紙を書いてお渡しすれば、わたくしの気持ちはお伝えできるわね。そうすれば余計なご心配をおかけしなくて済むわ。
結局最後までお互い無言のまま、それぞれの教室へと戻ったのだった。
帰りの馬車の中は、重苦しい沈黙に包まれていた。
つい先ほど予想外の出来事に見舞われて、わたくしの精神状態は限界を迎えようとしている。
いつも意地悪の一環だろうけど、ある女生徒がすれ違いざまにわたくしにぶつかってきたのだ。しかも歯の痛みがある左肩にだ。
その衝撃で、一気に痛みが倍増して一瞬意識が飛びかけた。ここまでの痛みを乗り切った自分を褒めてあげたい。
すでに帰りの時間で、ライオネル様が待つ馬車へと向かうだけだったのが幸いだ。
保健室へ行って治癒魔法をかけてもらったけどまったく治らないし、いったいどうしてしまったというのか。
もうすぐ屋敷に戻れるからと自分を奮い立たせて、なんとか馬車に乗り込んだのだ。
だけど、先ほどの痛みが尾を引いていて笑顔を貼り付けることしかできない。
「ハーミリア。なぜ、いつものように話さない?」
「…………」
確かにいつものわたくしなら、婚約者である貴方へ嬉々として話しかけまくっておりましたわ——でも、どんなにお話ししたくとも、今は無理ですの。
「……具合が悪いのか?」
「…………」
ああ! せっかくこんなにもライオネル様が話しかけてくださってるのに、返答できない自分が恨めしいですわ!!
「ハーミリア?」
いつもの怜悧な瞳は不安げに揺れて、わたくしを見つめている。
あー、ダメですわ。
もう痛みのあまり頭が朦朧としてきて、なにも考えられません。
朝からずっと歯が痛くて口も開けませんし、なあーんにも話せませんわっ!!
朝から続く痛みと衝撃を受けるほどの激痛に、淑女教育もぶっ飛びそうだった。でもここで私が痛みに泣き喚いたらライオネル様にご迷惑がかかってしまう。
こんな密室で嫌いな女に泣かれたら、地獄以外のなにものでもないだろう。ライオネル様に迷惑だけはかけまいと、必死に痛みに耐えていた。
それきりライオネル様も口を開くことはなかった。
馬車を降りるときはもう立ち上がるのもつらかったけど、なんとかライオネル様を見送る。
頭がうまく働かず、事前に書いておいた手紙の存在も忘れてしまった。最後の気力を振り絞っていたけど馬車が見えなくなったところで、わたくしはその場に倒れ込んだ。
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