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11話 炎剣の聖者は鬼でした

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「魔獣王リュカオンと……融合した……?」

「はい、黙ってて……スミマセン」

「ということは、いま君の中に魔獣王がいるんだな?」

 そう言うとギルド長の鋭利な殺気が、オレにむけられる。ヤバいヤバいヤバい、負ける気はしないけど、ギルド長とは戦いたくない! 討伐依頼が受けられなくなる!

「待ってください! ちょっとだけでいいので、オレの話も聞いてください!」

「……むう、そうだな。一方的な断罪は良くないな。よし、話を聞こう」

 だから、その殺気しまってくださいってば!!
 居心地悪いけど仕方ない、リュカオンと融合した時の話をした。あの時の悔しさや、憎しみが蘇ってくる。
 8年経った今でも、その色は鮮明なまま失われていない。




「そうか……あの魔物の大暴走 スタンピードの時に……私の力不足で辛い思いをさせて、申し訳ない」

 そう言ってギルド長は、オレに頭を下げた。あの時は、この人が先頭切って前線に立っていたのを知っている。

「いやいや! ギルド長は何も悪くないですよ! 魔物の大暴走 スタンピードの進行方向なんて、誰も変えられないし。オレみたいなヤツは、たくさんいましたから」

 たしかギルド長も、あの時に奥さんを亡くしたはずだ。娘さんを助けるために、犠牲になったと聞いている。それくらい、あの時の傷跡は深かった。
 だから、憎むべきは襲いかかってきた魔獣たちなんだ。

「そう言ってくれくれて、ありがとう。君は……強いな」

「まぁ、ほぼリュカオンのおかげですけどね」

 ギルド長はふわりと微笑んで、ようやく穏やかな空気が戻ってきた。
 はぁぁぁ……地下10階のダンジョンに潜るより疲れたわ。


「そうか……それなら、君がリュカオンの力を完全に掌握していると、確認させてほしい。そのために依頼をひとつ、こなしてくれるか?」

「それは構わないですけど……その、報酬とかはもらえるんですか?」

「ああ、もちろんだよ。ミリオンたちの話も聞いている。そこで、前金として3割渡そう。残りは成功して戻ってきたら払うよ」

 何だその破格の条件は!? 前金ってことは、失敗してももらえるのか!? でも、返せと言われたら困るから、念のため確認しておこう。

「あの、もし失敗したら、前金は返さないといけないんですよね?」

「いや、返す必要はないよ」

 おお! なんて素敵な好条件なんだ! さすが聖者と呼ばれてただけある!!


「失敗した時は、君ごとリュカオンをほおむるだけだから」
(ま、君なら失敗しないと思うけどね)


「ほお!? オレも!?」

「だって考えてごらんよ。持ち主が操れない魔獣王の力なんて、危険以外の何者でもないだろう?」

 ギルド長はものすごく優しげな顔で、恐ろしいことをサラリと言い放つ。

 たしかに……というか、今までも普通に使ってたから大丈夫か? なぁ、リュカオン? と、心の中で話しかけてみる。

『ふん、どれ程一緒にやってきたと思っておる』

 あぁ、そうだよな。もう5年も一緒に戦ってきたんだよな。オレも力加減とかだいぶ上手くなったし、問題ないな。

「わかりました、準備してすぐ行きます」

「成功の報告を、楽しみにしているよ」

 その穏やかな微笑みが、今では恐ろしく見えるのは、きっとオレだけじゃないはずだ。



 帰りに受付でマリーさんから、前金の3割と依頼内容の詳細を受け取った。前金はハンターカードに入金される。
 ……3割で240万ギルだった。一般家庭の年収分だ。
 見間違いじゃないかと、桁を数え直したけど、やっぱり240万ギルだった。

 慌てて依頼内容を見てみると、討伐魔獣のランクはSだった。いや、たしかにランクとか確認しなかったけどさ。たしかに、実力の確認みたいなこと言ってたけどさ。
 いきなりひとりでSランクの魔獣討伐とか、ギルド長は鬼ですか!?


「仕方ない、回復薬は多めに用意しよう……あと、携帯の食料とかも……」

 とりあえずオレは、討伐の準備を整えるべく、買い出しにむかった。


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