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私のテスト返却とお弁当
しおりを挟む学年末のテストがようやく終わった。テスト期間の間に私の部屋の片付けと積読の消化も終わったし、たぶんテストの点数もおわってる。しばらく勉強のことは考えないことにしよう。きっと私に勉強は向いていないんだと思う。だったら何が向いているのって感じだけど、なんかもう私には才能とかひとつも存在しないような気がする。生きてるだけで精一杯、みたいな?
とりあえずテストの点数は先輩としての威厳を守るためにもいずるくんには見せないようにしなくちゃならない。そして私の心を守るためにいずるくんの点数も見てはいけない。絶対いい点数取ってるもん、分かってはいても目の当たりにしたらきっと落ち込む。
なにはともあれ学校の行事は一年分すべて出尽くして、あとは春休みまでなあなあに日々を消化するだけだ。テストの日は学校がお昼前に終わっちゃっていずるくんの手作りお弁当食べられなかったから、今日は久しぶりのいずるくんの手作り卵焼きが楽しみで、朝からるんるんで家を出た。
いずるくんの美味しいお弁当と交換してもらうために持って来た自分のお弁当には、いつものおにぎりにひと手間加えて海苔で顔を作ってみた。……と言ってもお母さんに教えてもらいながらやったし、あまりに私が下手くそだったからほとんどお母さんがやってくれたんだけど。お弁当箱の蓋に油を塗ると海苔が蓋にくっつかないから顔が崩れにくいんだってさ。本当に効果があるのかはわかんないけど。
午前中の授業で早速帰ってきたテストはいつも通りといえばいつも通りな点数で、四つ折りにしてさっさと鞄に仕舞い込んだ。
そうやって憂鬱の塊をいくつか鞄の中に抱え込んで、ようやく楽しみにしていた昼休みだ。お弁当を美味しく食べるためにもテストの点数は一旦忘れてしまうことにしよう。
お弁当の袋を手慰みにぶらぶらと振りながらいつもの談話室に行けば、いずるくんが先に席に座って待っていてくれた。近づけばすぐに目が合って、空いている方の手で控えめに手を振った。
「お待たせー」
「早かったですね」
「うん」
いずるくんが優しい笑顔で迎えてくれるから、なんだか嬉しくなる。
ぶら下げていたお弁当の袋を机に置いて、いずるくんの向かいに座る。袋の中からお弁当箱だけ取り出して、いずるくんのと交換した。いつもは蓋を取ってから交換するんだけど、今日は開けてびっくりして欲しいからわざと蓋を開けずに渡してみた。
「ありがとうございます、いただきます」
「うん、食べて!」
いずるくんがお弁当箱の蓋を開けるのを、ドキドキしながら見守る。……と、おにぎりの上に乗せた海苔が中途半端に蓋に引っ張られた後、力なく隣の卵焼きの上に着地した。お母さん蓋に油塗れば大丈夫ってあんなに自信満々だったのに、そうでもないじゃん。
「あー、ごめんね?」
「えっ、いえ……あっ」
海苔が蓋に張り付いてズレてしまったおむすびの顔パーツをお箸の先でちょちょいとつまんで元に戻す。うーん、まあ、応急処置としてはこんなかんじかな?
「朝はもっとかわいくできてたんだけどなぁ。残念」
「かっ! かわいいですよ!! 世界一です!!」
「えー、そう?」
ほっぺを赤く染めていずるくんが褒めてくれるから、それはそれでまんざらでもない。確かに、改めて見るとちょっとブサイクなのが逆に愛嬌あってかわいいかもしれない。うん、世界一はちょっと言い過ぎだけど、これはこれでアリかも。
いずるくんがおむすびの顔を崩したくなさそうにお箸を右往左往させているのが見れて満足だ。朝から頑張った甲斐があった。家を出るのが遅くなって学校まで走ったから中身がぐちゃぐちゃになってないか心配だったけど、それも大丈夫そうでよかった。さすがお母さんのお弁当だ。振っただけじゃ動かないくらい隙間無く詰めてある。
さて、おまちかねのいずるくんのお弁当だ。今日はこのお弁当を食べるために学校に来たと言っても過言じゃないからね。
「ふふっ。じゃあいただきます」
「あっ、どうぞ、お召し上がりください」
もちろんまずは、ずーっと食べたくて待ち焦がれていたいずるくん特製の卵焼きから。
「んー! 美味しい!!」
「よかった……」
身体中の細胞に染み渡る美味しさだ。これから一生毎食この卵焼きでもいいくらい。世界中の卵焼きがいずるくんのお手製になればいいのに。まあ、そんなの無理だけど。
もちろん卵焼き以外のおかずも美味しいし、なんならただのご飯すらもうちのご飯より美味しい気がする。何が違うんだろう、品種? 水かな? 何か特別なおまじないでもしてるならぜひ教えてもらいたいくらい。
いずるくんはとうとうおむすびをどう食べるのか決めたみたいだった。どうしても海苔で作った顔を崩すのが嫌なようで、おむすびをまるごと食べようと四苦八苦している。あんなに口を大きく開いたいずるくんの顔を見たのは初めてで、小さく吹き出したらいずるくんも自分の顔に気づいたみたいで、頬を赤くして誤魔化すように目を逸らしてた。その様子がとってもかわいいかった。
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