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番外編
サタンの試練(5)
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「……はっ!」
僕が意識を取り戻した時には、僕はサタンの書斎にいた。ニカさんに膝枕された状態で、僕は眠っていたようだ。
サタンはその様子を見て、淡々と声をかけた。
「試練は終わりだ。お疲れ様。」
「チョキは……!チョキはどうなったんですか!」
サタンは少し顔を伏せた後、変わらない声の調子で答えた。
「あれは現実だ。チョキに殺された者は現実を生きていた者たちだし、チョキもあの爆発で死んだ。」
「当然お前も死んだ。だから意識がここに戻ってきた。」
「そうですか……。」
落ち込む僕に向かって、サタンは励ますように言った。
「チョキは死んだが、確かに救われた。名前をもらったし、最後に楽しい遊びができた。お前はよくやったよ。」
「……あなたは、そう思うんですね。」
サタンは膝を組んで、僕に問いかけた。
「お前に尋ねよう。権能を取り戻して、何故チョキをすぐに殺さなかった?人々を守りたいなら、それが最良の選択肢だったはずだ。」
「そんなの決まってるじゃないですか。」僕ははっきりとした声で答えた。
「恵まれた人々のことなんてどうでもいいからですよ。それより、何も知らないホムンクルスに、少しでも何か教えてあげたかった。」
「学校に居て、殺された人々は、神の元で幸せに暮らせます。けれどホムンクルスはそうではないんです。神に触れる機会すら与えられずに死んでいく。」
「僕はそういった者たちにしか興味がないのです。神の光届かぬ者に、少しでも救いあれと思うのです。」
「……ああ。」サタンは黒猫の姿の時のように、目を細めて言った。
「それでこそ悪魔だ。」
「試練は合格だ。おめでとう。」
「それで、お前は私に何を求める?」
「……この地獄に人影がないのは、最後の審判がまだ来ていなくて、悪魔しかいないからですね?」
「そうだ。最後の審判の後に、ここは光届かぬ人で溢れ返る。」
「私はその時に備え、地獄を管理する者だ。」
「……その時には僕も、必ずここに来ます。僅かでも地獄の人々に救いがもたらされるように。」
「地獄に落ちた者を救うのは容易ではない。節度を持って行わねば、身を滅ぼすぞ。」
「そうですね。それでも、僕の帰るべき場所はここだと思うのです。」
「その時に、どうか僕に力を貸してください。」
「いいだろう。同胞としてお前を暖かく迎え入れると約束しよう。」
「私としても、心強い仲間だ。」
「ありがとうございます。」
「では僕はこれで、失礼します。試練、勉強になりました。」
「ああ、来たる日にまた会おう。」
そう告げて、僕とニカさんは、サタンの屋敷を後にした。
「……サタンの試練の、一部始終を見ていた。」
「あのまま学校に留まっても、良かったんじゃないか?俺のことは気にしないでさ。」
天国への帰路を、ニカさんと共に行く。ニカさんの言葉に、僕は驚いたように返した。
「何言ってるんですか、僕もニカさんと一緒じゃなかったら寂しいですよ。」
「……それに、確かに学校は、恵まれた場所の者が行く、楽しい場所だと思います。けれど。」
「学校に行けなかった生、ニカさんと出会えた生も、悪くなかったと、今は思うんです。これは学校に行ったからこそ、強く思います。」
「……そうか。」
ニカさんは肯定するように、僕の手を握った。僕はニカさんに問いかける。
「最後の審判の後に、ニカさんも、一緒に地獄に来てくれますか。」
「地獄に落ちた人々を救うのはきっと、正しいことではないと思うのです。正しい生の価値を奪ってしまうから。」
「でも、僕はそうしたいんです。僕がなんでもできるようになって、したいと思ったことがそれなんです。」
ニカさんは、少し困ったように微笑んで言った。
「本当に、コンさんは……優しすぎる子だな。」
「もちろん。俺もどこまでも付き合うよ。」
「……!ありがとう、ございます!」
僕は嬉しくて、ニカさんに抱きついた。空中でくるくる舞って、ひと段落ついた頃に、もう一回ハグした。
「やっぱり、隣に人が居てくれるって、嬉しいです。僕一人じゃ、心細かったと思います。」
「……俺もだよ。」
「二人で地獄で、生きていこうな。」
「はい!」
こうして僕らの地獄探訪は幕を引いた。
僕はやるべきことを見つけて、ニカさんとも共有できた。
僕らは結局は、地獄に生きる者なのだ。それを再確認し、それでも二人で生きていく。その未来を見据えて、僕らは来たる終末を待ち続けることにした。
僕が意識を取り戻した時には、僕はサタンの書斎にいた。ニカさんに膝枕された状態で、僕は眠っていたようだ。
サタンはその様子を見て、淡々と声をかけた。
「試練は終わりだ。お疲れ様。」
「チョキは……!チョキはどうなったんですか!」
サタンは少し顔を伏せた後、変わらない声の調子で答えた。
「あれは現実だ。チョキに殺された者は現実を生きていた者たちだし、チョキもあの爆発で死んだ。」
「当然お前も死んだ。だから意識がここに戻ってきた。」
「そうですか……。」
落ち込む僕に向かって、サタンは励ますように言った。
「チョキは死んだが、確かに救われた。名前をもらったし、最後に楽しい遊びができた。お前はよくやったよ。」
「……あなたは、そう思うんですね。」
サタンは膝を組んで、僕に問いかけた。
「お前に尋ねよう。権能を取り戻して、何故チョキをすぐに殺さなかった?人々を守りたいなら、それが最良の選択肢だったはずだ。」
「そんなの決まってるじゃないですか。」僕ははっきりとした声で答えた。
「恵まれた人々のことなんてどうでもいいからですよ。それより、何も知らないホムンクルスに、少しでも何か教えてあげたかった。」
「学校に居て、殺された人々は、神の元で幸せに暮らせます。けれどホムンクルスはそうではないんです。神に触れる機会すら与えられずに死んでいく。」
「僕はそういった者たちにしか興味がないのです。神の光届かぬ者に、少しでも救いあれと思うのです。」
「……ああ。」サタンは黒猫の姿の時のように、目を細めて言った。
「それでこそ悪魔だ。」
「試練は合格だ。おめでとう。」
「それで、お前は私に何を求める?」
「……この地獄に人影がないのは、最後の審判がまだ来ていなくて、悪魔しかいないからですね?」
「そうだ。最後の審判の後に、ここは光届かぬ人で溢れ返る。」
「私はその時に備え、地獄を管理する者だ。」
「……その時には僕も、必ずここに来ます。僅かでも地獄の人々に救いがもたらされるように。」
「地獄に落ちた者を救うのは容易ではない。節度を持って行わねば、身を滅ぼすぞ。」
「そうですね。それでも、僕の帰るべき場所はここだと思うのです。」
「その時に、どうか僕に力を貸してください。」
「いいだろう。同胞としてお前を暖かく迎え入れると約束しよう。」
「私としても、心強い仲間だ。」
「ありがとうございます。」
「では僕はこれで、失礼します。試練、勉強になりました。」
「ああ、来たる日にまた会おう。」
そう告げて、僕とニカさんは、サタンの屋敷を後にした。
「……サタンの試練の、一部始終を見ていた。」
「あのまま学校に留まっても、良かったんじゃないか?俺のことは気にしないでさ。」
天国への帰路を、ニカさんと共に行く。ニカさんの言葉に、僕は驚いたように返した。
「何言ってるんですか、僕もニカさんと一緒じゃなかったら寂しいですよ。」
「……それに、確かに学校は、恵まれた場所の者が行く、楽しい場所だと思います。けれど。」
「学校に行けなかった生、ニカさんと出会えた生も、悪くなかったと、今は思うんです。これは学校に行ったからこそ、強く思います。」
「……そうか。」
ニカさんは肯定するように、僕の手を握った。僕はニカさんに問いかける。
「最後の審判の後に、ニカさんも、一緒に地獄に来てくれますか。」
「地獄に落ちた人々を救うのはきっと、正しいことではないと思うのです。正しい生の価値を奪ってしまうから。」
「でも、僕はそうしたいんです。僕がなんでもできるようになって、したいと思ったことがそれなんです。」
ニカさんは、少し困ったように微笑んで言った。
「本当に、コンさんは……優しすぎる子だな。」
「もちろん。俺もどこまでも付き合うよ。」
「……!ありがとう、ございます!」
僕は嬉しくて、ニカさんに抱きついた。空中でくるくる舞って、ひと段落ついた頃に、もう一回ハグした。
「やっぱり、隣に人が居てくれるって、嬉しいです。僕一人じゃ、心細かったと思います。」
「……俺もだよ。」
「二人で地獄で、生きていこうな。」
「はい!」
こうして僕らの地獄探訪は幕を引いた。
僕はやるべきことを見つけて、ニカさんとも共有できた。
僕らは結局は、地獄に生きる者なのだ。それを再確認し、それでも二人で生きていく。その未来を見据えて、僕らは来たる終末を待ち続けることにした。
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