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番外編
サタンの試練(2)
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「それで、どこから説明すればいいですか。あなたには協力してもらいたい。こちらから提供できる情報は、なるべく提供しようと考えています。」
僕は書斎の椅子に腰掛けて、前置きについて話し始めた。神が複数存在すること、それは「原初の神」と「継承されゆく神」の二者であること、後者は僕が殺し、その立場を乗っ取ったこと、どこから説明すれば良いのか測りかねていたからだ。
サタンはそれについて、手を組みながら答えた。
「情報が欲しいのはそちらの方だろう。大方、新参者の神なんだろう?何故かは知らないが、何かが上手く継承されてないように見えるからな。」
「そこまでご存知なら、背景を詳しく説明する必要はないですね。わかりました。」
「そもそも僕は、これまでの『継承されゆく神』ではありません。新たに『原初の神』より権能を賜った者です。」
「へぇ……!デミウルゴスが、そんなことをねぇ。」
「デミウルゴス……?」
「ああ、『原初の神』の名の一つだ。気にしなくていい。」
「それで?『継承されゆく神』は今どうなってる?」
「継承は絶えました。僕が末代の神を殺したので。」
「なるほどねぇ……それでお前は悪魔を名乗るのか。」
「僕は、正当な継承者ではありませんから。今は継承者のふりをして、天界を継承者の代わりに治める、偽神です。」
「なるほどなぁ。それで、同じ悪魔同士コンタクトを取ろうって、わざわざ御足労いただいたわけか。」
「そういうことですね。」
そこまで話したところで、ドアがノックされ、アリオクがお茶を運んでくる。カップに注がれる紅茶は、地獄で出てくるものとは思えないほど良い香りだ。
そしてアリオクが去り、僕が紅茶にミルクを入れ、ひと回しして口をつけたところで、サタンは口を開いた。
「それで、お前は何を私に求めてるんだ?」
「協力と情報提供です。僕は悪魔について何も知らない。ただ神と敵対する者をそう呼ぶのだと、なんとなくで名乗っただけです。」
「だから、聞かせてください。悪魔がどういうものなのか。そして僕らと手を取れる存在なのかどうか。」
ふむ……とサタンは顎に手を当て少し考えた後、意味深にこう呟いた。
「お前は神を殺したと言ったが……我々が敵対するべき神は、まだ生きている。」
「……どういう意味ですか。」
「お前は『悪』をどういうものだと考える?」
「……それは、人を殺したり、傷つけたり、人の幸せを奪うことだと思います。」
「それはかなり狭い『悪』だな。『悪』はもっと広範に存在する。」
「『悪』とは、『拒絶』だ。与えられたものを拒むことだ。」
「お前さんはホムンクルスだったらしいな。なら、それが染み付いてよくわからんだろうが……そこの堕天使。お前は、神から与えられた『何か』を『拒絶』したから、堕天したんじゃないか?」
サタンはニカさんに話を振った。ニカさんは沈黙でそれを肯定する。ニカさんは異性愛を拒絶した者のため、サタンの指摘は正しいものであった。
「だが、『拒絶』にも色々あってな……『拒絶しなければ生きられない』という状況での『拒絶』は、『悪』としては浅い。お前がホムンクルスとして、神を拒絶しなければ生きられなかったように。」
「……何が言いたいんですか。」
「お前は本当の意味での『敵対者』ではないということだ。本当の『拒絶』は、自らの意志で行われるものだ。そうでなくてはならない。」
「つまり……こうだ。お前に試練を与えよう。」
「試練?」
「そうだ。お前が本当の悪魔か試すための試練だ。私がお前と協力するかどうかは、その結果次第だな。」
「もちろん、受けるかどうかは自由だ。やるか?」
ニカさんの方をちらと見た。ニカさんはアイコンタクトで懐疑の意志を送ってくる。だが、それを押し除けてでも、僕は真の「拒絶」に興味を示していた。
「やります。本当の悪魔だと、あなたに示してみせましょう。」
僕はそう言い放った後、不安そうなニカさんに向けて言った。
「ニカさん、言いたいことはわかりますよ。神の権能が目当てかもしれない、罠かもしれないということでしょう?」
「その懸念はわかります。彼が何を考えているのか、僕にもよくわかりませんから。けれど。」
「わからないからこそ、恐れず踏み込まなければならない。そうは思いませんか?」
そこまで言うと、ニカさんは黙って肩をすくめた。
「本当に……コンさんは言い出したら聞かない人だから。」
「わかったよ。ただしサタンが怪しい動きをしたら、俺がすぐに止めるからな。」
僕はその答えに微笑んで、サタンの方に向き直った。サタンは僕らの懸念を汲み取るように説明する。
「心配するな、神から権能を奪うことなど、いくら元天使とは言え不可能だ。」
「とは言え、権能は試練の邪魔になる。少しだけ、封じさせてもらうぞ。」
そうサタンが言うと、僕はぐらりと一瞬眩暈のような間隔を覚えた後、意識を失った。
僕は書斎の椅子に腰掛けて、前置きについて話し始めた。神が複数存在すること、それは「原初の神」と「継承されゆく神」の二者であること、後者は僕が殺し、その立場を乗っ取ったこと、どこから説明すれば良いのか測りかねていたからだ。
サタンはそれについて、手を組みながら答えた。
「情報が欲しいのはそちらの方だろう。大方、新参者の神なんだろう?何故かは知らないが、何かが上手く継承されてないように見えるからな。」
「そこまでご存知なら、背景を詳しく説明する必要はないですね。わかりました。」
「そもそも僕は、これまでの『継承されゆく神』ではありません。新たに『原初の神』より権能を賜った者です。」
「へぇ……!デミウルゴスが、そんなことをねぇ。」
「デミウルゴス……?」
「ああ、『原初の神』の名の一つだ。気にしなくていい。」
「それで?『継承されゆく神』は今どうなってる?」
「継承は絶えました。僕が末代の神を殺したので。」
「なるほどねぇ……それでお前は悪魔を名乗るのか。」
「僕は、正当な継承者ではありませんから。今は継承者のふりをして、天界を継承者の代わりに治める、偽神です。」
「なるほどなぁ。それで、同じ悪魔同士コンタクトを取ろうって、わざわざ御足労いただいたわけか。」
「そういうことですね。」
そこまで話したところで、ドアがノックされ、アリオクがお茶を運んでくる。カップに注がれる紅茶は、地獄で出てくるものとは思えないほど良い香りだ。
そしてアリオクが去り、僕が紅茶にミルクを入れ、ひと回しして口をつけたところで、サタンは口を開いた。
「それで、お前は何を私に求めてるんだ?」
「協力と情報提供です。僕は悪魔について何も知らない。ただ神と敵対する者をそう呼ぶのだと、なんとなくで名乗っただけです。」
「だから、聞かせてください。悪魔がどういうものなのか。そして僕らと手を取れる存在なのかどうか。」
ふむ……とサタンは顎に手を当て少し考えた後、意味深にこう呟いた。
「お前は神を殺したと言ったが……我々が敵対するべき神は、まだ生きている。」
「……どういう意味ですか。」
「お前は『悪』をどういうものだと考える?」
「……それは、人を殺したり、傷つけたり、人の幸せを奪うことだと思います。」
「それはかなり狭い『悪』だな。『悪』はもっと広範に存在する。」
「『悪』とは、『拒絶』だ。与えられたものを拒むことだ。」
「お前さんはホムンクルスだったらしいな。なら、それが染み付いてよくわからんだろうが……そこの堕天使。お前は、神から与えられた『何か』を『拒絶』したから、堕天したんじゃないか?」
サタンはニカさんに話を振った。ニカさんは沈黙でそれを肯定する。ニカさんは異性愛を拒絶した者のため、サタンの指摘は正しいものであった。
「だが、『拒絶』にも色々あってな……『拒絶しなければ生きられない』という状況での『拒絶』は、『悪』としては浅い。お前がホムンクルスとして、神を拒絶しなければ生きられなかったように。」
「……何が言いたいんですか。」
「お前は本当の意味での『敵対者』ではないということだ。本当の『拒絶』は、自らの意志で行われるものだ。そうでなくてはならない。」
「つまり……こうだ。お前に試練を与えよう。」
「試練?」
「そうだ。お前が本当の悪魔か試すための試練だ。私がお前と協力するかどうかは、その結果次第だな。」
「もちろん、受けるかどうかは自由だ。やるか?」
ニカさんの方をちらと見た。ニカさんはアイコンタクトで懐疑の意志を送ってくる。だが、それを押し除けてでも、僕は真の「拒絶」に興味を示していた。
「やります。本当の悪魔だと、あなたに示してみせましょう。」
僕はそう言い放った後、不安そうなニカさんに向けて言った。
「ニカさん、言いたいことはわかりますよ。神の権能が目当てかもしれない、罠かもしれないということでしょう?」
「その懸念はわかります。彼が何を考えているのか、僕にもよくわかりませんから。けれど。」
「わからないからこそ、恐れず踏み込まなければならない。そうは思いませんか?」
そこまで言うと、ニカさんは黙って肩をすくめた。
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「わかったよ。ただしサタンが怪しい動きをしたら、俺がすぐに止めるからな。」
僕はその答えに微笑んで、サタンの方に向き直った。サタンは僕らの懸念を汲み取るように説明する。
「心配するな、神から権能を奪うことなど、いくら元天使とは言え不可能だ。」
「とは言え、権能は試練の邪魔になる。少しだけ、封じさせてもらうぞ。」
そうサタンが言うと、僕はぐらりと一瞬眩暈のような間隔を覚えた後、意識を失った。
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