上 下
14 / 33
幼少期

ルキ

しおりを挟む
そして私の「人生初の友達を作ろう作戦~ルキと話せるようになろう編~」が幕を開けたのであった。
私はその日作戦を決行することにし、朝早くに目覚めた。
作戦その1 とりあえず意味もなく話しかけてみる
ルキは毎日誰よりも朝早くに起き、掃除等の当番制の家事、又は川で自主練をしている。
今日は前日に確認を取ってもらって(オヴギガから、もちろん喜んで手伝ってくれた。)家事当番ではないことが分かっているので、川にいるはずだった。
私はそさくさと川に向かう。
外に出るとまだあたりは白く鈍い光をまとっており、肌寒い風が身震いをさせた頃だった。
草木が茂る獣道を抜けるとシャッシャッと風を切る音とともにゆったりと流れる細く浅い川が見えてくる。
探していた当人はそんな川の隣で剣を持ち一心に振っていた。
その真剣な面差しからは彼が努力家であることを表していた。
見っけ!今日は剣か…。
ここ数日、彼を観察してこの朝の自習が剣と魔法、交互に行われていることを私は知っていた。
キュリアスの弟子たちは大抵、剣士か魔法使いのどちらかであることが多い。
そもそも魔法剣士の素質を持ちながら冒険者として活動することができるレベルの者も数が少ないため、いくらキュリアスが魔法剣士でもその弟子たちすべてが魔法剣士ではない。
その中でルキは魔法剣士としての素質があるらしく、そのせいものあって私とパートナーを組まされてもいる。
私はいつもの体で木の陰に身を潜めた。
すっかり観察ストーカーの癖がついてしまっていることに本人は気が付いていなかった。
ど、どのタイミングで行けばいいんだろう…。
私は一生懸命剣を振っているルキを見て、なんだか話しかけづらいなと思った。
こんな時はどうすればよかったんだっけ…。
私にとって今一番頼りにできるものは前世の記憶だった。
何となく読んだ本………確か「これで君も友達ゲッチュ」という明らかにふざけてる題名の本を思い出してみる。
えーっと、こういう時は一緒にやろうよと相手と同じことをして、共通の話題を生み出すだったかな?
って、生み出すもなにも私たちは同じ師の元で修行しているパートナーだった。
「……ええええええっとぉぉ…ひゅっ、ひゅきひゃんっぅ!」
しまった、心の準備を忘れていた、動揺してかみかみじゃないか。
そう思ったのもすでに遅く会話(一方的)は進んでいく。
ルキは上ずったユリカの声などものともせず「なに?」と問うように剣を振る手を止め、こちらに振り向く。
「えっと…、一緒に剣の鍛練しても良いですか?」
パートナーなのだからと、自分に言い聞かせおそるおそる聞いてみる。
「………」
あれ、返事がないぞ…。
つかの間沈黙があると、ルキは突然持っていた剣を構えて川の向こうを睨んだ。
「来る…。」
「ふぇ?…しゃ…しゃべっ…!?」
やったと歓声を挙げる暇もなく私はルキの言った言葉の意味を瞬間的に理解した。
そう、来るのだ、何かが。
剣を構えるルキを横目に自分も愛剣を構える。
「戦うのですか?これは強いですよ、師匠たちに報告するべきです。」
今の状況で一番の最善策はそれだ、なのにも関わらずルキは動こうとしない。
「………」
何を考えているのか…、でもルキが戦うつもりならば1人にさせておく訳にもいかず…。
「しょうがないですね、わかりました。私も戦います、良いですよね?」
「………だ」
「良いですよね?私たち仮にもパートナーですしね?!」
ちょっと大袈裟に、食い気味で言うとなにも言わなくなった。
あ、やった、勝った。
などとなにと勝負しているのかもわからないまま私は上機嫌で敵を迎えた。

ざわざわと前から来る風で揺れる草木たちと、慌てたようにここから離れていく動物たちを見ると、いまから来るであろうものはとんでもないやつであるということが分かる。
俺は俺で前から来る魔力に押されて冷や汗をかいている。
ーーー俺、なんでこんなことしてるんだろうな…。
おい込められる気持ちがするからか、急にそんな風な考えが頭をよぎる。
俺は、強くなりたかった。
お腹を痛めて俺をこの世に誕生させてくれた親であった人たちは、物心つく前に俺を捨てていった。
別に親であっただろう人たちが憎いわけでもない、会ったこともないような人物たちを憎む趣味なんて持ち合わせていない。
ただ、生きたくて、生きていたくて。
小さすぎてよく覚えてはいないが、スリ、万引き、人殺し、いろいろやったと思う。
この中で俺は強くなれば生きていけるのだと知った。
ひたすらに剣を降って、鍛練して。
いつしか魔法が使えるようにもなっていた。
それからはとても生きやすくなったものだ。
魔法は素晴らしいくらいに俺の力になってくれた。
そうやって悪いことばかりしていたら、ある日突然俺は負けた。
そして剣を突きつけられて言われた。
「お前、生きたいか?」と。
俺はもちろんと言う様に睨み付けた。
「いいね、その目。来い、お前にお似合いの職業があるから。」
その人は…、キュリアスは俺を血生臭い場所から連れ出し、剣と魔法を教えてくれている。
なのになんでなのか、ちっとも楽しくなんてなかった。
生きていられさえすれば良い、強くなれれば良い、そう思っていたのに。
不思議と最近は満たされない感じがしてイライラとした。
そんな風に日々を退屈に過ごしていたら、キュリアスが勝手に俺にパートナーをつけた。
ちびなガキで幸せそうにニコニコと笑うものだから、なにがそんなに面白いのだろうかと気がつけば目を追っていた。
そうしていたらイライラしてるのが少しましになった気もしたし、退屈しのぎになった。
話しかけられてもなんと返したら良いかもわからない、今まで仕事などで必要最低限の会話以外したことないものだから。
俺は俺の気持ちが分からなくなる。
自分は何がしたいのだろうか。
今朝もそうだ、朝の自主練中に敵が襲いかかってくると分かると否や、急に戦ってみたくなった。
前はそんな命知らずなことしようなんて思わなかったのに。
ほんと、俺、どうしたんだろうな…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

アリステール

public p
ファンタジー
死んだことは覚えてないけど知らない世界にいた 格が足らないから鍛えなおしてきなさいと言われ地球とは別の世界へ生まれなおすことになる ゲームみたいな世界で動力とかいう力があるらしい? わからないことだらけだけどなんとかするしかない。そんな主人公アリスの物語 ※小説家になろう で同時更新中 -----以下の情報は■■■■■に監視されています----- 管理とは? ■■■■■はその存在すら知覚できないほどの上位生物により作られました 地球の■■■■をはじめに、動力があり未知の生物が跋扈する■■■■、地球の前身とも似た■■■■■が管理されています 生物の核をなす魂、その魂そのものが■■■■■を死による転生をもって渡り歩き、魂の価値を高めていくために行われます

悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~

こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。 それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。 かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。 果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!? ※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

神の使いでのんびり異世界旅行〜チート能力は、あくまで自由に生きる為に〜

和玄
ファンタジー
連日遅くまで働いていた男は、転倒事故によりあっけなくその一生を終えた。しかし死後、ある女神からの誘いで使徒として異世界で旅をすることになる。 与えられたのは並外れた身体能力を備えた体と、卓越した魔法の才能。 だが骨の髄まで小市民である彼は思った。とにかく自由を第一に異世界を楽しもうと。 地道に進む予定です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

退屈な人生を歩んでいたおっさんが異世界に飛ばされるも無自覚チートで無双しながらネットショッピングしたり奴隷を買ったりする話

菊池 快晴
ファンタジー
無難に生きて、真面目に勉強して、最悪なブラック企業に就職した男、君内志賀(45歳)。 そんな人生を歩んできたおっさんだったが、異世界に転生してチートを授かる。 超成熟、四大魔法、召喚術、剣術、魔力、どれをとっても異世界最高峰。 極めつけは異世界にいながら元の世界の『ネットショッピング』まで。 生真面目で不器用、そんなおっさんが、奴隷幼女を即購入!? これは、無自覚チートで無双する真面目なおっさんが、元の世界のネットショッピングを楽しみつつ、奴隷少女と異世界をマイペースに旅するほんわか物語です。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...