96 / 165
学園編
65 サウラスの兄
しおりを挟む
無事、国王陛下への謁見が終わりって、私はもとの学園生活を楽しんでいた。
相変わらず女友達はできないけれど、クラスの中で孤立していたわけではないので、問題はない。
そして迎えた一学期末考査は超簡単だった。
相変わらず小学生みたいな問題である。
語学に関しては外国語の教科もあったからまだいい、歴史も。
しかし、その他の教科は正直あくびが出る。
魔法が特化すると科学が遅れがちなので、私のほうが教科書よりも詳しいし、数学は中学生のまでしか教えてないし、マナーとかはお母様仕込みだし……、エトセトラ。
ちなみに、ペーパーテストではなく、実技である。
上位者は掲示されてしまうので、毎度お馴染みのサウラスがやって来る。
「またかっ!!!また満点なんだな貴様っ!?」
しかも教室でやってくれるので、さらに私から人が離れていく。
ーーーただでさえ遠い距離なのに……。
私は少し不満げにサウラスを睨み付けた。
少し眠たかったので寝ぼけた表情に見えたのかもしれない、サウラスは激怒した。
「っ!ーーーお前もっ……!!!」
「?」
何かをいいかけてはっと止めたサウラスに疑問が湧く。
お前も……?
サウラスの顔が苦しそうだ。
なんというか、いろいろ考えるところがあるといった感じ。
私は立ち上がってサウラスの腕をつかんだ。
いつかの日の逆転である。
サウラスは驚きを見せつつも振り払おうとはしなかった。
私は都合がいいとばかりに無言を決め込んだまま教室を移動する。
このままじゃ埒が明かない、そう思ったからだ。
移動した先はまたもやいつかのあの階段の裏。
最近身長が延びてきた彼には少し窮屈そうである。
「はぁ、まったく。あそこは皆が居る場なのですよ、大声は迷惑だと何度言えば分かるのですか?」
「す、すまない……」
これが一回目の注意じゃない。
彼は頭に熱がこもると少し感情的になるらしい。
まあ、個性なのだから仕方がないけれども、迷惑にならない程度にしてほしいものだ。
「……で、先程の続きはなんですの?」
「ーーーえ……」
「だから、お前もの続きですわ。まさか、教えるつもりがないとかじゃあありませんわよね?」
こんなに迷惑かけといて、その原因は言えませんとか、は?となってしまう。
私は昔からこうだ。
私の曲げられないやつ、というものだと思う。
だから可哀想とは思いつつ、ストレートに聞く、言わなければもうそれでもいい。
うぐっと詰まったサウラスだったが、しばらくするとポツリポツリと話始めた。
「……他言無用だぞ」
「判ってますわ」
「ーーー俺にはひとつ上の兄がいる。その兄は優秀でな、俺はその兄を尊敬するとともに嫉妬してた。何てったって一歳上だからな、よく比べられたんだ。俺はそれが嫌だった。だから、兄からも離れていって必死に食らいつこうと思ったんだ」
子供の心境ならば、そうだろう。
しかし、頑張って追い付こうとする気持ちがあるならばそれは凄いことだと私は思った。
前世では、社会の成長に伴い、廃れていった夢や、自信が無くなっていく子供たちを沢山見てきたからでもあったかもしれない。
私はあそこで、学園長だったから。
「だが、兄は……あれは急に手を抜いたんだ。それはもうダメ人間のように怠惰になった。そしたらなんだ、また昔のように仲良くしようって言ってきたんだっ!っ冗談じゃない!兄は跡継ぎなんだっ、止めるなんて許されないんだっ!!!」
私はサウラスの会話に違和感を持った。
まあ、簡単に言えば「そんなに?」である。
「それに手を抜いたことも許せなかった!俺は正々堂々勝負してやっているのに!!!」
「……言いたいことは分かりました。しかし、どうでしょう?あなたはお兄さんに求めすぎではないのでしょうか?」
「えっ……?」
怒り顔だったサウラス表情が固まる。
「確かに正々堂々と、というあなたの気持ちはわかりますが、お兄さんはどうでしょうか?急に突き放された弟に対して悲しさを感じていたのでは?」
「……っそれは、そうだが!」
「はい、それは分かるのですよね。あとに引けないだけで。なので、もう一押ししてあげますわ」
「!?」
「あなた、なんというか強情ですわね。お兄さんはそんな弟を見てどう思っていたのでしょうか?一生懸命な弟、自分ばかりを誉める周り。努力する弟が誉められないのはおかしいと、私なら思いますわね」
実際、前世の私の周りにも、今でも付きまとうものはあった。
そういうときの視線は、痛い。
自分は誉められているはずなのに、なぜ苦しいのだろうと悩んだことがあった。
家族ともそうやって疎遠してきたし、重しのように心の奥に沈んでいった。
嫌いだったあの視線、彼の兄はどう思ったのだろうか?
辛さから逃げ出したくなった?
弟が可哀想だと思った?
……なぜ自分なのだろうと思った?
きっと全部、それ以上かもしれない。
なぜ人間はどうしようもないと思うと逃げたくなるのだろう。
それしかない、と思うのだろう。
彼は根拠のない身勝手を無理やり信じているのだ。
ーーー自分を守るために……。
サウラスの顔が歪む。
嫌悪、悲しみ、受け入れられないもの……。
嫌悪の目は私にも向けられる。
ーーーああ、もったいないなぁ。
人生二度目の私は、そう思って静かに笑った。
相変わらず女友達はできないけれど、クラスの中で孤立していたわけではないので、問題はない。
そして迎えた一学期末考査は超簡単だった。
相変わらず小学生みたいな問題である。
語学に関しては外国語の教科もあったからまだいい、歴史も。
しかし、その他の教科は正直あくびが出る。
魔法が特化すると科学が遅れがちなので、私のほうが教科書よりも詳しいし、数学は中学生のまでしか教えてないし、マナーとかはお母様仕込みだし……、エトセトラ。
ちなみに、ペーパーテストではなく、実技である。
上位者は掲示されてしまうので、毎度お馴染みのサウラスがやって来る。
「またかっ!!!また満点なんだな貴様っ!?」
しかも教室でやってくれるので、さらに私から人が離れていく。
ーーーただでさえ遠い距離なのに……。
私は少し不満げにサウラスを睨み付けた。
少し眠たかったので寝ぼけた表情に見えたのかもしれない、サウラスは激怒した。
「っ!ーーーお前もっ……!!!」
「?」
何かをいいかけてはっと止めたサウラスに疑問が湧く。
お前も……?
サウラスの顔が苦しそうだ。
なんというか、いろいろ考えるところがあるといった感じ。
私は立ち上がってサウラスの腕をつかんだ。
いつかの日の逆転である。
サウラスは驚きを見せつつも振り払おうとはしなかった。
私は都合がいいとばかりに無言を決め込んだまま教室を移動する。
このままじゃ埒が明かない、そう思ったからだ。
移動した先はまたもやいつかのあの階段の裏。
最近身長が延びてきた彼には少し窮屈そうである。
「はぁ、まったく。あそこは皆が居る場なのですよ、大声は迷惑だと何度言えば分かるのですか?」
「す、すまない……」
これが一回目の注意じゃない。
彼は頭に熱がこもると少し感情的になるらしい。
まあ、個性なのだから仕方がないけれども、迷惑にならない程度にしてほしいものだ。
「……で、先程の続きはなんですの?」
「ーーーえ……」
「だから、お前もの続きですわ。まさか、教えるつもりがないとかじゃあありませんわよね?」
こんなに迷惑かけといて、その原因は言えませんとか、は?となってしまう。
私は昔からこうだ。
私の曲げられないやつ、というものだと思う。
だから可哀想とは思いつつ、ストレートに聞く、言わなければもうそれでもいい。
うぐっと詰まったサウラスだったが、しばらくするとポツリポツリと話始めた。
「……他言無用だぞ」
「判ってますわ」
「ーーー俺にはひとつ上の兄がいる。その兄は優秀でな、俺はその兄を尊敬するとともに嫉妬してた。何てったって一歳上だからな、よく比べられたんだ。俺はそれが嫌だった。だから、兄からも離れていって必死に食らいつこうと思ったんだ」
子供の心境ならば、そうだろう。
しかし、頑張って追い付こうとする気持ちがあるならばそれは凄いことだと私は思った。
前世では、社会の成長に伴い、廃れていった夢や、自信が無くなっていく子供たちを沢山見てきたからでもあったかもしれない。
私はあそこで、学園長だったから。
「だが、兄は……あれは急に手を抜いたんだ。それはもうダメ人間のように怠惰になった。そしたらなんだ、また昔のように仲良くしようって言ってきたんだっ!っ冗談じゃない!兄は跡継ぎなんだっ、止めるなんて許されないんだっ!!!」
私はサウラスの会話に違和感を持った。
まあ、簡単に言えば「そんなに?」である。
「それに手を抜いたことも許せなかった!俺は正々堂々勝負してやっているのに!!!」
「……言いたいことは分かりました。しかし、どうでしょう?あなたはお兄さんに求めすぎではないのでしょうか?」
「えっ……?」
怒り顔だったサウラス表情が固まる。
「確かに正々堂々と、というあなたの気持ちはわかりますが、お兄さんはどうでしょうか?急に突き放された弟に対して悲しさを感じていたのでは?」
「……っそれは、そうだが!」
「はい、それは分かるのですよね。あとに引けないだけで。なので、もう一押ししてあげますわ」
「!?」
「あなた、なんというか強情ですわね。お兄さんはそんな弟を見てどう思っていたのでしょうか?一生懸命な弟、自分ばかりを誉める周り。努力する弟が誉められないのはおかしいと、私なら思いますわね」
実際、前世の私の周りにも、今でも付きまとうものはあった。
そういうときの視線は、痛い。
自分は誉められているはずなのに、なぜ苦しいのだろうと悩んだことがあった。
家族ともそうやって疎遠してきたし、重しのように心の奥に沈んでいった。
嫌いだったあの視線、彼の兄はどう思ったのだろうか?
辛さから逃げ出したくなった?
弟が可哀想だと思った?
……なぜ自分なのだろうと思った?
きっと全部、それ以上かもしれない。
なぜ人間はどうしようもないと思うと逃げたくなるのだろう。
それしかない、と思うのだろう。
彼は根拠のない身勝手を無理やり信じているのだ。
ーーー自分を守るために……。
サウラスの顔が歪む。
嫌悪、悲しみ、受け入れられないもの……。
嫌悪の目は私にも向けられる。
ーーーああ、もったいないなぁ。
人生二度目の私は、そう思って静かに笑った。
0
お気に入りに追加
376
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
【完結】今夜さよならをします
たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。
あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。
だったら婚約解消いたしましょう。
シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。
よくある婚約解消の話です。
そして新しい恋を見つける話。
なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!!
★すみません。
長編へと変更させていただきます。
書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。
いつも読んでいただきありがとうございます!
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
私をもう愛していないなら。
水垣するめ
恋愛
その衝撃的な場面を見たのは、何気ない日の夕方だった。
空は赤く染まって、街の建物を照らしていた。
私は実家の伯爵家からの呼び出しを受けて、その帰路についている時だった。
街中を、私の夫であるアイクが歩いていた。
見知った女性と一緒に。
私の友人である、男爵家ジェーン・バーカーと。
「え?」
思わず私は声をあげた。
なぜ二人が一緒に歩いているのだろう。
二人に接点は無いはずだ。
会ったのだって、私がジェーンをお茶会で家に呼んだ時に、一度顔を合わせただけだ。
それが、何故?
ジェーンと歩くアイクは、どこかいつもよりも楽しげな表情を浮かべてながら、ジェーンと言葉を交わしていた。
結婚してから一年経って、次第に見なくなった顔だ。
私の胸の内に不安が湧いてくる。
(駄目よ。簡単に夫を疑うなんて。きっと二人はいつの間にか友人になっただけ──)
その瞬間。
二人は手を繋いで。
キスをした。
「──」
言葉にならない声が漏れた。
胸の中の不安は確かな形となって、目の前に現れた。
──アイクは浮気していた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる