89 / 165
学園編
58 誘拐……?
しおりを挟む
お兄様と歌劇を見て満足した私たちは、公爵家に帰ろうという話になった。
明日も学校はお休みらしいので、学園に戻る必要がないらしい。
それならば、残してきたチェニーにも暇をだそうと風ちゃんを呼んだ時。
後ろから行き交う人々に紛れて誰かが突進してきた。
「サラッ!!!」
私はお兄様に名前を呼ばれて思わず振りかってしまい、相手に隙を見せてしまった。
あっという間に背の高いゴリラのような男に担がれて、連れていかれる。
あー、長い間戦いから離れてきていたからなぁ……。
私は怠けたなと思いつつ、どうしようかと思考を巡らせる。
不意に、私を持っている男の仲間であろう男のマントの下にキラリと光るものが見えた。
ーーー宗教国、五聖教国の神官の勲章だ。
わざわざ外国に来てまでそれを付けるとは、律儀というか信者というか……、馬鹿だなぁ。
せめて観光ならいい身分証明書なのだろうが、人さらいには悪い意味で身分証明している。
後ろからはお兄様がものすごい形相で追いかけてきている。
さすが魔法大国五聖教国の神官だけあって、肉体はもちろん強化魔法も使えるらしく、本気で走っているお兄様と互角のスピードである。
お兄様は今にもこの人たちを殺しそうだ。
私はお兄様が魔法を使い始める前に手を打とうと思った。
「ねぇ、あなたたち。私を下ろしてくれないかしら?」
「はっ?!何言ってんだてめぇ!おろすわけないだろう!?」
私を担ぐ男は叫ぶ。
「それなら、仕方がないわね……」
既に周りの人だかりは、この状況におびえて蜘蛛の子が散れるようになっている。
私はこの男に向かって上から力をかけた。
「う、おっ?」
途端男は地面にくっついた。
私は地面と接吻している男を飛び越えて、もう一人の方に目を向けた。
『フリーズ』
男が何を言うよりも早く、凍らせてしまう。
地面に這いつくばる方は麻縄を取り出して、ぐるぐる巻きにした。
「サァラ―――!!!」
なるべく迅速に作業を終わらせたのだが、兄が飛びついてくるのを避けるのには間に合わなかったらしい。
背中に抱き着く兄に呆れと面倒くささを感じた。
「お兄様、人通りです」
「サァラっ!」
お兄様は私の忠告を無視してさらにきつく抱き着いてきた。
そして、倒れる男たちに蹴りを入れると私を持ち上げる。
先ほどのように俵担ぎではなく、俗にいうお姫様抱っこというやつである。
「お兄様、公衆の面前です。遠慮をしてくださいませ」
「ねぇ、サァラ。こいつらどうする?僕のサァラを触った挙句、誘拐までやってみせたんだし、処刑でいいでしょ?」
話を聞かない兄である。
私はお兄様の耳たぶを引っ張った。
「遠慮、してくださいませ」
二コリと令嬢スマイルで言えば、威圧に竦んでしぶしぶおろしてくれた。
「まったく、これだからお兄様は。少しは落ち着いてくださいませ、たかだか誘拐モドキなんですよ?」
私はモドキを主張する。
「処刑ではなくて、捕まえて捕虜にしましょう。五聖教国からのスパイですわ。私が直接尋問した後、王城に引き渡します。これは、国際問題ですわ」
またこれから仕事が増える、私は内心溜め息をついた。
ただの高校生活とは、前世でも今世でも過ごせそうにない。
明日も学校はお休みらしいので、学園に戻る必要がないらしい。
それならば、残してきたチェニーにも暇をだそうと風ちゃんを呼んだ時。
後ろから行き交う人々に紛れて誰かが突進してきた。
「サラッ!!!」
私はお兄様に名前を呼ばれて思わず振りかってしまい、相手に隙を見せてしまった。
あっという間に背の高いゴリラのような男に担がれて、連れていかれる。
あー、長い間戦いから離れてきていたからなぁ……。
私は怠けたなと思いつつ、どうしようかと思考を巡らせる。
不意に、私を持っている男の仲間であろう男のマントの下にキラリと光るものが見えた。
ーーー宗教国、五聖教国の神官の勲章だ。
わざわざ外国に来てまでそれを付けるとは、律儀というか信者というか……、馬鹿だなぁ。
せめて観光ならいい身分証明書なのだろうが、人さらいには悪い意味で身分証明している。
後ろからはお兄様がものすごい形相で追いかけてきている。
さすが魔法大国五聖教国の神官だけあって、肉体はもちろん強化魔法も使えるらしく、本気で走っているお兄様と互角のスピードである。
お兄様は今にもこの人たちを殺しそうだ。
私はお兄様が魔法を使い始める前に手を打とうと思った。
「ねぇ、あなたたち。私を下ろしてくれないかしら?」
「はっ?!何言ってんだてめぇ!おろすわけないだろう!?」
私を担ぐ男は叫ぶ。
「それなら、仕方がないわね……」
既に周りの人だかりは、この状況におびえて蜘蛛の子が散れるようになっている。
私はこの男に向かって上から力をかけた。
「う、おっ?」
途端男は地面にくっついた。
私は地面と接吻している男を飛び越えて、もう一人の方に目を向けた。
『フリーズ』
男が何を言うよりも早く、凍らせてしまう。
地面に這いつくばる方は麻縄を取り出して、ぐるぐる巻きにした。
「サァラ―――!!!」
なるべく迅速に作業を終わらせたのだが、兄が飛びついてくるのを避けるのには間に合わなかったらしい。
背中に抱き着く兄に呆れと面倒くささを感じた。
「お兄様、人通りです」
「サァラっ!」
お兄様は私の忠告を無視してさらにきつく抱き着いてきた。
そして、倒れる男たちに蹴りを入れると私を持ち上げる。
先ほどのように俵担ぎではなく、俗にいうお姫様抱っこというやつである。
「お兄様、公衆の面前です。遠慮をしてくださいませ」
「ねぇ、サァラ。こいつらどうする?僕のサァラを触った挙句、誘拐までやってみせたんだし、処刑でいいでしょ?」
話を聞かない兄である。
私はお兄様の耳たぶを引っ張った。
「遠慮、してくださいませ」
二コリと令嬢スマイルで言えば、威圧に竦んでしぶしぶおろしてくれた。
「まったく、これだからお兄様は。少しは落ち着いてくださいませ、たかだか誘拐モドキなんですよ?」
私はモドキを主張する。
「処刑ではなくて、捕まえて捕虜にしましょう。五聖教国からのスパイですわ。私が直接尋問した後、王城に引き渡します。これは、国際問題ですわ」
またこれから仕事が増える、私は内心溜め息をついた。
ただの高校生活とは、前世でも今世でも過ごせそうにない。
0
お気に入りに追加
376
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
あなたが望んだ、ただそれだけ
cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。
国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。
カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。
王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。
失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。
公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。
逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。
心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。
三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。
それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。
頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。
短編恋愛になってます。
【完結】今夜さよならをします
たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。
あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。
だったら婚約解消いたしましょう。
シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。
よくある婚約解消の話です。
そして新しい恋を見つける話。
なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!!
★すみません。
長編へと変更させていただきます。
書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。
いつも読んでいただきありがとうございます!
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる