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学園編

58 誘拐……?

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お兄様と歌劇を見て満足した私たちは、公爵家に帰ろうという話になった。
明日も学校はお休みらしいので、学園に戻る必要がないらしい。

それならば、残してきたチェニーにも暇をだそうと風ちゃんを呼んだ時。
後ろから行き交う人々に紛れて誰かが突進してきた。

「サラッ!!!」

私はお兄様に名前を呼ばれて思わず振りかってしまい、相手に隙を見せてしまった。
あっという間に背の高いゴリラのような男に担がれて、連れていかれる。
あー、長い間戦いから離れてきていたからなぁ……。
私は怠けたなと思いつつ、どうしようかと思考を巡らせる。

不意に、私を持っている男の仲間であろう男のマントの下にキラリと光るものが見えた。
ーーー宗教国、五聖教国の神官の勲章だ。
わざわざ外国に来てまでそれを付けるとは、律儀というか信者というか……、馬鹿だなぁ。
せめて観光ならいい身分証明書なのだろうが、人さらいには悪い意味で身分証明している。

後ろからはお兄様がものすごい形相で追いかけてきている。
さすが魔法大国五聖教国の神官だけあって、肉体はもちろん強化魔法も使えるらしく、本気で走っているお兄様と互角のスピードである。
お兄様は今にもこの人たちを殺しそうだ。
私はお兄様が魔法を使い始める前に手を打とうと思った。

「ねぇ、あなたたち。私を下ろしてくれないかしら?」
「はっ?!何言ってんだてめぇ!おろすわけないだろう!?」
私を担ぐ男は叫ぶ。
「それなら、仕方がないわね……」
既に周りの人だかりは、この状況におびえて蜘蛛の子が散れるようになっている。

私はこの男に向かって上から力をかけた。
「う、おっ?」
途端男は地面にくっついた。

私は地面と接吻している男を飛び越えて、もう一人の方に目を向けた。
『フリーズ』
男が何を言うよりも早く、凍らせてしまう。
地面に這いつくばる方は麻縄を取り出して、ぐるぐる巻きにした。

「サァラ―――!!!」
なるべく迅速に作業を終わらせたのだが、兄が飛びついてくるのを避けるのには間に合わなかったらしい。
背中に抱き着く兄に呆れと面倒くささを感じた。
「お兄様、人通りです」
「サァラっ!」

お兄様は私の忠告を無視してさらにきつく抱き着いてきた。
そして、倒れる男たちに蹴りを入れると私を持ち上げる。
先ほどのように俵担ぎではなく、俗にいうお姫様抱っこというやつである。

「お兄様、公衆の面前です。遠慮をしてくださいませ」
「ねぇ、サァラ。こいつらどうする?僕のサァラを触った挙句、誘拐までやってみせたんだし、処刑でいいでしょ?」
話を聞かない兄である。
私はお兄様の耳たぶを引っ張った。

「遠慮、してくださいませ」
二コリと令嬢スマイルで言えば、威圧に竦んでしぶしぶおろしてくれた。
「まったく、これだからお兄様は。少しは落ち着いてくださいませ、たかだか誘拐モドキなんですよ?」
私はモドキを主張する。
「処刑ではなくて、捕まえて捕虜にしましょう。五聖教国からのスパイですわ。私が直接尋問した後、王城に引き渡します。これは、国際問題ですわ」

またこれから仕事が増える、私は内心溜め息をついた。
ただの高校生活とは、前世でも今世でも過ごせそうにない。
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