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幼少期編

7 私と剣

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そのまましばらくほっこりと時間を過ごしていた私たち(サラとタファ)はアデルの「いや、申し訳ないけど、鍛練の時間がなぁ…」という言葉に私は素直に、兄は渋々とやめたのだった。
私はそのまま木陰に布を引いてゆったりと剣がぶつかり合う様子を見ていた。
兄はなかなかに使い手らしく、大のおとなしかも将軍を相手にちゃんと出来ているようだ。
もちろん、アデルは大分手を抜いているだろうが、妹の欲目ではないと思う。
私だって前の人生が魔法だけで終わったわけではない。
ひょろひょろな魔法使いが魔物に挑んだところで、全く役に立たないだろうし、体力をつけるのは魔法の世界でも基本だ。
強化魔法やらなんやらで、ドーピング、エンチャントという形でも対処出来ないことはないが、持続型は魔力の消費が激しいのでここぞという時に頼りにならない可能性が高くなる。
そのため、私にも剣に携わった機会があった。
ほんの少しだけだし、いろいろな形式、勝手の違うこの世界で通用するだけのものかどうかはわからない程度のお粗末なものだが。
それでも知識だけはあったので、スポーツ観戦が如く、ついつい熱が出てきてしまう。
「あ、にいに右!次右ですよ!…左足を一歩引いて!あっ!後ろ右方向から来てますよ!」
兄は私が言えばその通りに動いてくれてますます興奮してくる。
「ぐっ、ずるいだろその連携プレイ?!」
勝負はなかなかに白熱して最後はアデルが本気になって終わったのだった。
ーーーいや~良い戦いだった。
私がほこほことしていると勝負を終え、息を調えた二人が戻ってきた。
私はすぐさまタオル代わりの布を差し出す。
「お疲れさまでした、にいに。かっこよかったですよ」
途端お兄様は表情を明るくする。
「本当!?にいにはかっこよかったかい?」
「はい、世界一です」
「ーーーーーっ!!!!」
お兄様はその場に崩れて座り込み「にいにが世界一カッコいい…大好き…」などと繰り返し呟きだした。
なにあれ怖い。
シスコンを通り越して一種のホラー(ヤンデレ)に見える。
そんな兄にアデルは恐れをなしながらも「おい、タファ、おい…」と声をかけている。
…届いていないみたいだけど。
「だめだなこりゃ…」
アデルは癖なのか困ったように頭をかいた。
「あの、なにか用事があるのならば、正気に戻った後に私が伝えておきますが?」
「いや、いい。どうせ明日も鍛練があるしな。なるべく本人に直接がいい」
私は了解の代わりにコクりと頷いた。
「…それよりも、嬢ちゃん随分目が慣れてるみたいだなぁ。俺は伯爵に初めて剣を見るだろうからと言われていたんだが…。なんかの間違いか?」
お父様そんなことを言っていたのか、過保護だなぁ。
「いえ、確かに初めてなんですが…なんででしょうね?」
適当な理由が思い付かなかった私は丸投げをした。
「うーん、親譲りってやつか?伯爵なら納得だが…」
お、なんだか大丈夫そうだぞ。
というか、お父様、あなた強いんですね。
いつもお母様にデレデレとしている姿からは想像もつかないが。
「ちょっと相談なのですが、私が剣を習いたいと言えば教えてもらえるでしょうか?」
「なっ、剣を学びたいのか!?」
アデルは驚きを隠しきれないといった様子だ。
この国は女性が戦うという考え方がない。
働くというのはあるみたいだが、大抵が戦いというものからかけ離れた職業だ。
極まって言えば医療関係すらも男性のものだとされている。
アデルのこの反応は常識を持った考え方だ。
「はい、学びたいのです。…だめ、でしょうか?」
「だめなわけじゃないだろうが…、前代未聞だぞ?それに、伯爵がなんと言うか…」
「分かりました、お父様から良いと言われたら私に剣を教えてくださるのですね。」
そう言う私の口調は少し挑発的だ。
アデルはしばらくの沈黙をとった後、ゆっくりと口を開く。
「ーーー良いだろう、ただし、絶対に許可をとってこないとだめだ。…俺が殺される」
私は、はははと乾いた笑みを浮かべた。
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