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2章 芸能界デビュー編

仕事の依頼

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 数分後、店長が目覚めたので俺たちは礼を言い、会計を済ませて美容室を出る。

「じゃあ家に帰るけど……はい。お兄ちゃんはコレ付けてね」

 そう言って渡されたのはマスク、サングラス、帽子の3点セット。

「お兄ちゃんは有名人だからね。身につけないと家に帰れなくなるよ」
「そんな大袈裟な。たかが1度表紙を飾ったくらいだぞ?」
「その1回で歴史を作ったんだから。女の子の探知能力を甘く見ない方がいいよ」
「そ、そうか」

 俺は紫乃の言う通りに従い、変装フルセットを装備する。
 そして帰路についていると、俺のスマホが鳴る。
 着信主を確認すると神里さんの名前があった。

『お疲れ様です。今、お時間大丈夫ですか?』
「はい。大丈夫ですよ』
『ありがとうございます。早速ですが仕事の依頼がありました』
『え、もう来たんですか?』
『はい。大量に来ましたよ』

 それは嬉しい誤算だ。

『私たちの方でいくつかピックアップしてますので、後ほど引き受けたい依頼を教えて下さい。資料は送りますので』
『分かりました』

 とのことで何事もなく帰宅した俺は早速神里さんから送られた資料を確認する。

 仕事内容は4件。
 ラジオ番組、CM撮影、旅番組、トーク番組の4つだ。
 それに付随して神里さんからのメッセージも届いていた。

『初めての依頼なのでCM撮影、ラジオ番組が望ましいと思います。ただ、旅番組とトーク番組は芸能界では大御所の方からのオファーです。上手く収録できるか不安だとは思いますが、コチラは黒羽さんの人気に火をつけるビックチャンスなので断らず引き受けることをオススメします』

 つまり経験や知名度を上げるため全て引き受けた方が良いということだろう。
 俺は返事をする前に全ての資料に目を通す。

 まず最初に目を通したのはCM撮影。
 今回、出演依頼の来たCMは大手学習塾『レッツ』のCM。
 学生たちの春休み期間を狙い春期講習を開くようで、春期講習受講者には俺のグッズを特典としてプレゼントするようだ。

「お兄ちゃんのグッズ!これは戦争が起こるね!」
「俺のグッズは戦争の火種になるくらいの危険物かよ」
「場合によっては核兵器並みの危険物になり得るから否定はできないね!」
「………」

 満面の笑みで言われても。
 そんな紫乃を見た俺は話題を変えるため「こほんっ」と咳払いを挟み、次の資料を見る。

「えーっと、ラジオ番組は………おっ!小町とのラジオ共演が来てるぞ!」

 俺は声をあげて紫乃に伝える。

「おぉー!小町ちゃん、お兄ちゃんに共演依頼を出したんだ!」

 秋吉小町あきよしこまちとは一つ歳下の女の子で俺たちの幼馴染。
 昔から交流があり、俺の素顔を知ってる数少ない人物だ。
 小町が小学校を卒業したと同時に引っ越したため中学生以降は交流が無くなったが、今年の4月に小町が俺と同じ大学に入学したことで、今は大学内で交流がある。

「小町ちゃん、自分のラジオ番組を持ってるからね!しかも結構リスナーいるみたいだよ!」
「小町は大人気声優だからな。俺も小町のラジオは聞いて癒されてるぞ」

 小町は人気声優として活躍しており、引っ越してから声優を目指して頑張ったらしい。

「私、お兄ちゃんと小町ちゃんのトークを聴きたい!」
「そうだな。小町との共演は楽しそうだ。これは引き受けたいな」

 そんな会話をしつつ次の資料へ目を通す。

「旅番組の方は……えっ!この依頼、モリタさんの番組だぞ!」

 大御所からの依頼とは聞いていたが大御所すぎて驚いてしまう。
 紫乃も同様の反応をしており、モリタさんとの共演が凄すぎることを如実に現している。
 モリタさんは歌番組を始め、様々な番組で司会を務める方で、日本国民なら知らない人がいないくらいの人物だ。

「出演内容はモリタさんと全国の秘境を巡る旅だな」

 今回、依頼の来た番組は『モリタの秘境巡り』という番組。
 この番組はモリタさんとゲストの2人で全国の秘境を巡る番組で、幅広い年齢層が視聴する大人気番組だ。

「そしてもう一つのトーク番組も……やっぱりモリタさんが司会を務める番組だ」

 この番組は『モリトーク』といい、モリタさんが中心となりゲストたちとトークを繰り広げる番組で、出演予定のゲストは俺と岩見萌絵いわみもえさん、南條愛華なんじょうあいかさんだ。

「萌絵ちゃんと愛華さんとの共演もすごいよ!だって萌絵ちゃんは今、1番売れてるソロアイドルなんだよ!」

 SNSにアップされている歌のほとんどが1億回以上も再生されており、可愛いルックスと聴き惚れるほどの歌声が素晴らしいと話題沸騰中のソロアイドルだ。

「それに愛華ちゃんだって昨年は女優で賞を獲ってたし!」

 南條さんは昨年、日本アカデミー賞で優秀主演女優賞を受賞しており、現在女優の中で1番演技力のある女優だ。
 それに加えスタイルも抜群で容姿も整っているためモデルとしても活躍している。

「そういえばお兄ちゃんって萌絵ちゃんと会ったことあるんだよね?」
「あぁ。俺と萌絵は同じボイトレ教室に通ってたからな」

 将来、父さんのように活躍してみせると意気込んでた俺は、小学生の頃、歌のレッスンを受けるため、小学生でも通えるボイトレ教室に通っていた。
 その時、萌絵と仲良くなった。

「じゃあ愛華ちゃんとは会ったことあるの?」
「1度だけ会ったことがある。まぁその時は少ししか話をしてないから南條さんは覚えてないだろうが」

 子役として活動していた南條さんと父さんが一度だけ共演したことがあり、その時に南條さんと会話をする機会があった。
 その日以降、南條さんとは接点がない。

 そんな会話をしながら俺は資料を閉じる。

「色々見たが俺は全て受けようと思う。これは俺の名前を売るチャンスだからな」
「だね。全て引き受けるべきだよ」

 とのことで俺は神里さんへ全て引き受ける旨を伝えた。



 そして翌日の登校日を迎える。
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