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3章 大学入学編

小鳥遊美奈の熱愛報道 5

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~小鳥遊美奈視点~

『では、質問タイムに移ろうと思います。今回の件で聞きたいことがあれば何でも聞いてください。やましいことは何一つないので、何でも答えますよ』

 画面内のリン様が視聴者に向けて言う。

「やましいことは何一つないか。私だったらその言葉は言えないね」

 その言葉を聞いて“ボソッ”と呟く。

 私はリン様に対して他人には言えない気持ちを抱いているため、やましいことは何一つないとは言えない。
 でもリン様はやましいことは何一つないと言った。
 つまり私に恋愛感情を抱いてないということだ。

「分かってはいたけど、ちょっとショックだなぁ」

 その事実に心を痛めつつ、黙って配信の成り行きを見守る。

『何か質問がある方はコメントしてください』

 とのことで、質疑応答が始まる。

〈休憩中の散歩はどっちが誘ったんですかー?〉

『散歩を誘ったのは小鳥遊さんです。撮影場所の周辺に散歩コースがあったので、そこを休憩がてら散歩しました』

〈リン様の手を引く美奈ちゃんの写真が載ってます!経緯を教えてください!〉

『手を繋いだ経緯ですか?えーっと……そうですね。俺が外の風景に気を取られて立ち止まってた時、近くの池に鯉が泳いでたようで、それを見せるために小鳥遊さんが手を引いてくれました。池に辿りついた時には手を離したので、繋いだ時間は数秒程度です』

〈なるほど!ずっと手を繋いでたわけじゃないんだ!〉
〈小鳥遊さんの気持ちはわかるよ!リン様が隣に居たら手を繋ぎたくなるよね!〉

 等々、リン様の丁寧な説明に納得する方が多く現れる。

『繋いでた時間は数秒程度ですが、ファンの皆さんには不快な思いをさせてしまいました。申し訳ありません』

 そう言ってリン様が頭を下げる。

「ごめんなさい、リン様。私がリン様の手を握ってしまったから……」

 私の軽率な行動によってリン様は頭を下げている。
 そのことに対して申し訳なく思う。

〈熱愛報道の相手がリン様ではなく一般男性になってました。そしてその情報がSNSで出回った数時間後、リン様がこの配信で写真の男性が自分であることを公表しました。すぐに公表した理由はなんですか?〉

「っ!」

 私はその質問を見て、拾ってほしいと思ってしまう。

「リン様は『辛い想いをしている私を1人にしないため』って言ったけど、この場でそんなことは言わないはず。なんて答えるのかな?」

 いくらリン様でも視聴者がたくさんいる前で愛の告白と間違えられそうな言葉は言わない。
 そのため返答が気になった私は、食い入るように画面を見る。

『すぐに公表した理由ですか?それは辛い想いをしている美奈に、公表することで寄り添えると思ったからです。美奈1人だけ辛い想いを味わうのは間違ってますからね』

 しかし言葉に詰まることなく、真剣な表情でリン様が言う。

「~~~っ!」

 その言葉を聞いて顔が真っ赤になる。

「うぅ~、どんどんリン様が好きになっちゃうよ……」

 あまりの嬉しさに頬がだらしなく緩んでしまう。

〈きゃぁぁっ!リン様が小鳥遊さんのこと美奈って呼んだ!〉
〈辛い想いをしてる女子に寄り添うことのできる男はイケメンだよ!〉
〈顔だけじゃなくて中身もイケメンかよっ!〉
〈自分も叩かれるかもしれないのに公表するのはカッコよすぎっ!〉
〈私、一生リン様を応援します!〉

 等々、リン様の発言にリン様ファンが褒め称える。 
 私のお母さんみたいに、リン様は性格もイケメンであることを全視聴者が理解したようだ。

〈これは美奈ちゃん、リン様に惚れちゃったね!〉
〈うんうん!絶対、好きになったよ!〉
〈写真を見る限りリン様に惚れてるようだったけど、今回のことで美奈ちゃんがリン様大好きな女の子になっちゃったね!〉

「やめてぇぇぇ!私の想いをリン様に伝えないでぇぇっ!」

 突然、自分の想いをリン様ファンから代弁された私は、部屋の中でそう叫んだ。
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