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第28話 流れの意味
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山形誠の自宅。
「なんか変……」
姫星は当惑したまま宿へと急いだ。動物たちの様子もおかしいと雅史に報告する為だ。
すると、前方からこちらに向かってくる雅史の姿があった。無断で宿を抜け出したので、姫星を心配して探しに来たらしい。
「村の様子が変だから気を付けなさいと注意したでしょ?」
姫星の返事を聞く前に雅史が言った。恐らく、山形の家から駆けて来たのであろう。雅史は肩で息をしている。
「…… ゴメンナサイ ……」
姫星は小さく手を合わせて謝っていた。
「それより、なんか磁石が変だよ」
霧湧神社での出来事を簡単に雅史に説明した。
「ちょっと磁石を見せて……」
姫星の説明を聞いた雅史は磁石を手にとってみた。
「……」
この磁石は前回の取材でも使っている、その時には何も問題は無かった。そして、地図と自分のいる場所・方角を確かめてみた。
「ふむ、ここだと問題は無いようだな」
雅史と姫星は、再び霧湧神社の境内に向かった。雅史は自分の目で確認したかったからだ。
「あれ? なんかおかしい……」
霧湧神社の境内についた雅史は、地図と磁石を取り出して、目の前の光景を眺めてみた。だが、地図上の位置と山の位置と磁石の示す方角が合っていない。北を正しく示していないのだ。
「そうか…… この辺は磁場が狂っているんだ……」
この霧湧神社が有る一帯は磁力の異常スポットだったのだ。
雅史は考え込んでしまった。先日の姫星が、お寺で起こした幽霊騒ぎの時に感じた、違和感の正体はこれなのだろうかと考えたのだ。
「磁場が狂うって…… そんな事があるの?」
姫星は雅史に尋ねた。磁石は常に北と南を示すと学校では習っているからだ。
「ああ、以前に千葉県でも似たような現象が起きて、話題になったこともあるんだよ」
千葉県の一部の地域でのみ、方位磁石が五度~十度ずれてしまう現象が起きて話題になった。ニュースにも取り上げられている。その地域はガス田の上にある為、それの影響ではないかと推測されていたのだ。
「なんらかの霊的エネルギーが貯まっていて、磁場が発生して磁石を狂わせているとか?」
姫星は電子機器が有る処では心霊現象が発生しやすいとの都市伝説を聞いた事があった。
「霊的なエネルギーとかは不明だけど、脳の活動には影響を与えるかもね知れないね」
もっとも、そこまで強い影響を与える磁気では、電子機器はまともに動かないものである。
「たまたま、磁気に鋭敏な人が、見えたり寒気を感じたりするのかも知れない」
人間の脳の仕組みは、まだ解明されていないのだ。だが、携帯電話にしろ中継する基地局にしろ電子機器の塊だ。磁石に影響が出るような磁場の乱れで、機材が異常を来たしてもおかしくはなかったのだ。
「人間は意味不明な現象に出合うと、自分の理解できる範囲で考えるようになるからね」
雅史は巷に溢れる幽霊の目撃談は、磁場の異常なのではないかとも考えていたのだ。
「毛劉寺が東じゃないのなら、本当は北東になるのかな?」
姫星が地図を見ながら言った。
「あっ!」
雅史は今まで気にも留めていなかったが、地図だと方位は正しく判る。
「どうしたの?」
急に叫んだ雅史に姫星は驚きながら聞いて来た。
「ああ、あの寺の配置には意味が在ったんだ」
雅史は霧湧神社を中心にして、寺が配置されている意味を理解したのだ。
「意味?」
姫星は雅史に尋ねた。
「霧湧神社の周りにある寺。 毛劉寺・毛巽寺の配置は鬼門と裏鬼門にあたるんだよ」
霧湧神社を中心に考えると良くわかる配置だった。鬼がやってくると信じられていた時代の名残りだろう。古来から鬼門の方角に魔よけの意味で『猿の像』を置いたりする。
「…… 風水でしたっけ? 鬼門とか裏鬼門」
風水とは陰陽道の考え方だ。大雑把に言ってしまえば、自然には力が流れていく方向があり、それの流れを読み取って運を良い物にしようという考え方だ。
「そう、風水の考え方だね。 でも仏教とは余り関係ないように思えるんだけど……」
雅史は考え込んでしまった。
(寺が出来た時代には、貧困に悩んでいたに違いない村に、何故二つも寺が必要だったのか?)
問題はどうしてそうしたのかだった。恐らく知っているのは一人だろう。
「力丸爺さんに聞いてみるしかないか……」
二人は一度宿に帰ることにして霧湧神社を後にした。
山形の家に帰り着いた二人は、玄関先で出かける用意をしていた誠に会った。忙しそうに車に色々と積んでいる。
「山形さん。 力丸爺さんの家に行きたいのですが……」
雅史は誠が祭りの準備で忙しいのは分かっているので駄目もとで言ってみた。
「ええ、良いですよ。 でも、力丸爺さんの家に行く前に寄り道しても良いですか?」
誠はすぐに引き受けた。どうせ役場に行く次いでだからだ。
「寄り道?」
雅史が聞き返した。
「ええ、村の公民館に置いてある、毛劉寺の増長天像を見に行くんですよ。 毎朝、確認してるんで……」
泥棒対策の為に貴重な仏像を避難させているのだ。それの安否確認に行くらしい。
「ああ、公民館に隠したって仏像ですね。 私も見てみたいです」
姫星も一緒に行くと言い出した。
「どうぞどうぞ。 でも、ちっちゃい仏像ですから、見てもがっかりしないで下さいね」
誠は屈託なく笑った。
「なんか変……」
姫星は当惑したまま宿へと急いだ。動物たちの様子もおかしいと雅史に報告する為だ。
すると、前方からこちらに向かってくる雅史の姿があった。無断で宿を抜け出したので、姫星を心配して探しに来たらしい。
「村の様子が変だから気を付けなさいと注意したでしょ?」
姫星の返事を聞く前に雅史が言った。恐らく、山形の家から駆けて来たのであろう。雅史は肩で息をしている。
「…… ゴメンナサイ ……」
姫星は小さく手を合わせて謝っていた。
「それより、なんか磁石が変だよ」
霧湧神社での出来事を簡単に雅史に説明した。
「ちょっと磁石を見せて……」
姫星の説明を聞いた雅史は磁石を手にとってみた。
「……」
この磁石は前回の取材でも使っている、その時には何も問題は無かった。そして、地図と自分のいる場所・方角を確かめてみた。
「ふむ、ここだと問題は無いようだな」
雅史と姫星は、再び霧湧神社の境内に向かった。雅史は自分の目で確認したかったからだ。
「あれ? なんかおかしい……」
霧湧神社の境内についた雅史は、地図と磁石を取り出して、目の前の光景を眺めてみた。だが、地図上の位置と山の位置と磁石の示す方角が合っていない。北を正しく示していないのだ。
「そうか…… この辺は磁場が狂っているんだ……」
この霧湧神社が有る一帯は磁力の異常スポットだったのだ。
雅史は考え込んでしまった。先日の姫星が、お寺で起こした幽霊騒ぎの時に感じた、違和感の正体はこれなのだろうかと考えたのだ。
「磁場が狂うって…… そんな事があるの?」
姫星は雅史に尋ねた。磁石は常に北と南を示すと学校では習っているからだ。
「ああ、以前に千葉県でも似たような現象が起きて、話題になったこともあるんだよ」
千葉県の一部の地域でのみ、方位磁石が五度~十度ずれてしまう現象が起きて話題になった。ニュースにも取り上げられている。その地域はガス田の上にある為、それの影響ではないかと推測されていたのだ。
「なんらかの霊的エネルギーが貯まっていて、磁場が発生して磁石を狂わせているとか?」
姫星は電子機器が有る処では心霊現象が発生しやすいとの都市伝説を聞いた事があった。
「霊的なエネルギーとかは不明だけど、脳の活動には影響を与えるかもね知れないね」
もっとも、そこまで強い影響を与える磁気では、電子機器はまともに動かないものである。
「たまたま、磁気に鋭敏な人が、見えたり寒気を感じたりするのかも知れない」
人間の脳の仕組みは、まだ解明されていないのだ。だが、携帯電話にしろ中継する基地局にしろ電子機器の塊だ。磁石に影響が出るような磁場の乱れで、機材が異常を来たしてもおかしくはなかったのだ。
「人間は意味不明な現象に出合うと、自分の理解できる範囲で考えるようになるからね」
雅史は巷に溢れる幽霊の目撃談は、磁場の異常なのではないかとも考えていたのだ。
「毛劉寺が東じゃないのなら、本当は北東になるのかな?」
姫星が地図を見ながら言った。
「あっ!」
雅史は今まで気にも留めていなかったが、地図だと方位は正しく判る。
「どうしたの?」
急に叫んだ雅史に姫星は驚きながら聞いて来た。
「ああ、あの寺の配置には意味が在ったんだ」
雅史は霧湧神社を中心にして、寺が配置されている意味を理解したのだ。
「意味?」
姫星は雅史に尋ねた。
「霧湧神社の周りにある寺。 毛劉寺・毛巽寺の配置は鬼門と裏鬼門にあたるんだよ」
霧湧神社を中心に考えると良くわかる配置だった。鬼がやってくると信じられていた時代の名残りだろう。古来から鬼門の方角に魔よけの意味で『猿の像』を置いたりする。
「…… 風水でしたっけ? 鬼門とか裏鬼門」
風水とは陰陽道の考え方だ。大雑把に言ってしまえば、自然には力が流れていく方向があり、それの流れを読み取って運を良い物にしようという考え方だ。
「そう、風水の考え方だね。 でも仏教とは余り関係ないように思えるんだけど……」
雅史は考え込んでしまった。
(寺が出来た時代には、貧困に悩んでいたに違いない村に、何故二つも寺が必要だったのか?)
問題はどうしてそうしたのかだった。恐らく知っているのは一人だろう。
「力丸爺さんに聞いてみるしかないか……」
二人は一度宿に帰ることにして霧湧神社を後にした。
山形の家に帰り着いた二人は、玄関先で出かける用意をしていた誠に会った。忙しそうに車に色々と積んでいる。
「山形さん。 力丸爺さんの家に行きたいのですが……」
雅史は誠が祭りの準備で忙しいのは分かっているので駄目もとで言ってみた。
「ええ、良いですよ。 でも、力丸爺さんの家に行く前に寄り道しても良いですか?」
誠はすぐに引き受けた。どうせ役場に行く次いでだからだ。
「寄り道?」
雅史が聞き返した。
「ええ、村の公民館に置いてある、毛劉寺の増長天像を見に行くんですよ。 毎朝、確認してるんで……」
泥棒対策の為に貴重な仏像を避難させているのだ。それの安否確認に行くらしい。
「ああ、公民館に隠したって仏像ですね。 私も見てみたいです」
姫星も一緒に行くと言い出した。
「どうぞどうぞ。 でも、ちっちゃい仏像ですから、見てもがっかりしないで下さいね」
誠は屈託なく笑った。
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