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第13話 毛劉寺

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毛劉寺(もうりゅうじ)の境内。 

 宝來雅史たち一行は、コケシ塚を見学した後に、車を取りに伊藤力丸宅に戻った。
 この後に霧湧神社の北側にある、毛劉寺を見に行くのだと言うと、解説を申し出てくれた。毛劉寺には安産を祈るために観音菩薩が奉られているのだそうだ。
 毛劉寺山門の前に車を置き、四人は境内に入って行った。

「ここは廃寺なんですか?」

 山門の扉は雨風などで傷みが激しくなっており壊れかけていた。本堂のあらゆるところも傷みが生じて壊れかけ、窓ガラスも割れている。美良のメールにはそんな事は触れて無かったが、荒れた手の様子を見て雅史は山形誠に聞いたのだった。

「はい、廃寺では無く住職が不在なんですわ。 無人になってから既に十年以上経つと思います」

 修理してあげたいのだが、村の予算が厳しくて中々手が出せないと誠はボヤいていた。

「じゃから、わしらみたいな村民が境内を掃除したりしておるんじゃ」

 本堂の正面横にある無数の石仏は、伊藤力丸爺さんによると無縁仏なのだそうだ。かなり古い時代のものみたいで、雨風にさらされた様子からそれが伺えた。

「霧湧神社が五穀豊穣と子宝祈願の神社なんで、この寺には観音菩薩様が納められているんですよ」

 山形誠が寺の境内を歩きながら雅史と姫星に説明をした。二人とも本殿の中をキョロキョロしながら歩いている。つい、一週間前には姉の月野美良が同じように歩いていたはずだ。どこかに痕跡が残ってないのかと見回しているのだ。

「ひっそりとした佇まいのお寺ですね……」

 雅史が聞いた。田舎の寺という事もあるのか、境内には誰もおらず、ひっそりとしているのだ。

「少子高齢化で檀家がどんどん居なくなってしまっているので…… 飯が食えないんですわ」

 清掃等は地元、地域の方達が行なっているのだそうだ。

「冠婚葬祭などで坊さんが必要な時には、遠鳴市から住職さんがやってきてくれます」

 限界集落などにある寺では良く有る制度なのだそうだ。

「ほぉ、そうなんですか」

 村の規模の割に寺が多いと感じる雅史。しかも、両方の寺は江戸の初期の時代に建立されている。

「両方とも少なくとも四百年位の歴史があるんじゃがな……」

 力丸爺さんは鼻を鳴らしながら言った。

「歴史が古いだけでは飯が食えないんですよ……」

 誠が苦笑いしながら言っていた。


「ここのお寺もコケシ塚みたいな逸話があるんでしょうか?」

 雅史は寺が出来たときの逸話を力丸爺さんに訊ねてみた。

「おお、もちろんあるぞ。 この寺の先代の住職から聞いた話なんじゃが……」

 そう言って、力丸爺さんが話を始めた。
 話は江戸時代までさかのぼる。

 コケシ塚を建立してから、落ち着いた日々を送っていた村に異変が起きる様になった。
 いつの頃からか雨が激しく降る夜になると、コケシ塚から赤ん坊の泣き声が聞こえるようになったのだ。
 それだけなら良く有る怪談話だが、この村では違っていた。その泣き声が聞こえ始めると、村の家々を訊ねてくる者が出没するのだ。

 尋ねて来ると言っても、夜中に戸を叩かれるだけだ。戸を叩かれた家主は仕方なく『誰が来たのか?』と、戸を開けて外に出て見るも誰もいない。そんな事が何軒か続くのだ。大概の場合には一回戸を叩かれるだけなのだが、稀に同じに家に二回続けて来るときがある。
 その時には、家族全員は決して寝てはいけない。家人の誰かが二度と起きることが出来なくなってしまうからだ。

 そんな出来事が頻繁に起こるようになり、困った村人が通り掛かりの坊さんに相談してみた。
 村人の話を黙って聞いていた坊さんは、『きっと、居なくなった母親を探し回っているのだろう』と、言って赤子の霊を慰めるために、観音菩薩を納めた寺を建立したのだそうだ。
 元の観音菩薩は坊さんの手作り品だった。だが、昭和の初めごろに盗難に合い、今は作り直された物が納められているそうだ。

「中々、趣のある話でしたね……」

 例え小さな集落であろうと、こういった逸話が残されているので民俗学が好きだったのだ。

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