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第11話 適応
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朝の学校。
ハジメを除いた召喚者四人は修験場に来ていた。自主練の為である。
少しでも早くレベルを上げてて欲しい。
自分たちのパーティーだけで狩りが出来るようになって欲しいと学園長に言われているからだ。
その為、学園側では最大限の便宜を図ってくれるのだそうだ。
「だりぃ~」
勇者である春日は朝が苦手のようだ。欠伸をしながら剣の立会をしていた。
剣の指導は神威だ。結構無茶苦茶な剣さばきなのだ。
「ちょっと、真面目にやりなさいよ」
神威は春日に剣を打ち込みながら不平を言っていた。
「いや、相手が魔獣だったらやる気になるんだけどねえ」
勇者補正なのか神威の剣を軽く躱したり受けたりしている。
元の世界では剣どころか運動部にすら所属していなかった。
それにも関わらず体育会系一筋の神威の剣を捌いていた。
「もう、どうして直ぐに真似が出来るのよー」
神威は憤慨していた。しかし、これは春日の能力による所なので仕方が無いことだ。
これが出来ないと、自分たちより格上の魔獣に出会った時に逃げ出すのが難しくなってしまう。
『模倣』は勇者にとって必須の能力なのだ。
「勇者ポジって奴じゃないっすかあ?」
春日はそんな事を言いながら笑っていた。
昨日の迷宮での演習でも、低級魔獣相手に苦戦する神威を助けている。
先日、迷宮の中で魔獣相手に実践した時には春日は八面六臂の活躍を見せた。
(ここなら退屈しないで済みそうだぜ……)
正義や悪など関係ない。殺るか殺られるか。
その単純な世界観に、春日はこの世界が気に入りだしていた。
この四人の中なら一番剣を扱える自信があった神威は良い所無しであった。
いざ、魔獣が目の前に現れると身が竦んでしまって、動きが強張ってしまったのだ。
頭では分かっていても体が付いていけないのだ。
(練習だと巧くこなせるのに……)
一方の神威は実践では魔獣相手にまるで駄目であった。
春日に助けられて怪我をせずに済んだのだ。
(自分の弱さを自覚できない奴は弱い……)
剣術をならっていた時に師匠に言われた一言だ。
(なぜ弱いのかを克服する事が出来ないからだ……)
単純なようでこれは難しい事だ。
(自分の弱さってなんだろう……)
根が真面目な神威は深淵の中に沈み込んでいく感覚を覚えた。
松岡は部屋の隅で壁に向かって座禅を組んでいる。
実践の時に簡単な魔法すら発動出来なかったのだ。
(自分のイマジネーションを頭の中で明確化させる……か)
茂呂に言われた魔法の使い方だ。
しかし、これが難しかった。レベルがさほど高くないことも影響していた。
(迷宮で少しでもレベルアップをしないと簡易な魔法ですら使えない……)
誰か……特に男に負けてしまうなど松岡の自尊心が許さなかった。
出来ないものは仕方が無いという考え方が出来ない質なのだ。
焦る気持ちだけが空回りしていた。
何かと問題を抱える春日・神威・松岡に比べて茂呂は生き生きとしていた。
簡単な魔法なら初日から使えていたのだ。
(詠唱無しで魔法発動させる事が出来るのは僕だけですよ)
慢心してはいけないなどと、表面上は思っても高揚感が抑えきれすにニマニマしてしまっていた。
「……」
元の世界では深い泥の中を歩いているみたいだった。
幾ら藻掻いても前に進めない焦り。
現実を変えらる事が出来ない自分の非力さにイライラが募る毎日。
絶望的な日常から逃げ出したくても、どうすれば良いのかも分からない自分の無能を呪ったりもした。
『ファイアーボール』
だが、今は違う。名前を与えるだけで魔法が使える。
この世界の連中では出来ない事を、いとも簡単に出来てしまう。
湧き上がる万能感。賞賛を浴びる自分が誇らしくあった。
此処は自分が輝ける世界なのだ。
茂呂は元の世界に帰る気など更々に無かった。
(この世界なら僕は神にもなれる気がするですよ……)
茂呂は一人ほくそ笑んでいた。
自主練にハジメは呼ぼれては居なかった。
その代わりに学校の図書館で過ごしていた。
大量の書物を次々と読み漁っている。この世界の事を早く知りたかったからだ。
もちろん、朝早くから図書館はやっていない。無断で侵入していたのだった。
(まあ、いいか……)
ハジメはハジメでやりたい事が山積みなので、放ったらかしにされるのはむしろ有り難かったくらいだ。
それに誰か一人をハブにする事で、グループの連帯を強めるのは方法として有りだ。
(ふん、烏合の衆が良くやるやつだよな……)
結局、アイツラも普通の人間どもと変わらなかった。
当たり前過ぎてつまらない連中だと考えた。
日中の午前中は座学が中心だ。
学校ではとにかく華族を敬う事が重要であると教え込まれる。
魔獣を倒した事に依る成果を上納しなければ成らないのもその一つだ。
探索者が得るのは僅かな報酬と経験値のみである。
(まあ、誰も文句言わないのなら、ほっとけば良いだけだし……)
午後は実践なので最下層まで降りてみる積りだ。
どんな魔獣が分布しているのか調べたかったからだ。
(どうせ、隠蔽使って彷徨くだけだから今から行ってみるかな……)
昨日は隠蔽を使ったままにしてしまって、行方不明騒ぎを起こしたのに懲りないハジメであった。
ハジメを除いた召喚者四人は修験場に来ていた。自主練の為である。
少しでも早くレベルを上げてて欲しい。
自分たちのパーティーだけで狩りが出来るようになって欲しいと学園長に言われているからだ。
その為、学園側では最大限の便宜を図ってくれるのだそうだ。
「だりぃ~」
勇者である春日は朝が苦手のようだ。欠伸をしながら剣の立会をしていた。
剣の指導は神威だ。結構無茶苦茶な剣さばきなのだ。
「ちょっと、真面目にやりなさいよ」
神威は春日に剣を打ち込みながら不平を言っていた。
「いや、相手が魔獣だったらやる気になるんだけどねえ」
勇者補正なのか神威の剣を軽く躱したり受けたりしている。
元の世界では剣どころか運動部にすら所属していなかった。
それにも関わらず体育会系一筋の神威の剣を捌いていた。
「もう、どうして直ぐに真似が出来るのよー」
神威は憤慨していた。しかし、これは春日の能力による所なので仕方が無いことだ。
これが出来ないと、自分たちより格上の魔獣に出会った時に逃げ出すのが難しくなってしまう。
『模倣』は勇者にとって必須の能力なのだ。
「勇者ポジって奴じゃないっすかあ?」
春日はそんな事を言いながら笑っていた。
昨日の迷宮での演習でも、低級魔獣相手に苦戦する神威を助けている。
先日、迷宮の中で魔獣相手に実践した時には春日は八面六臂の活躍を見せた。
(ここなら退屈しないで済みそうだぜ……)
正義や悪など関係ない。殺るか殺られるか。
その単純な世界観に、春日はこの世界が気に入りだしていた。
この四人の中なら一番剣を扱える自信があった神威は良い所無しであった。
いざ、魔獣が目の前に現れると身が竦んでしまって、動きが強張ってしまったのだ。
頭では分かっていても体が付いていけないのだ。
(練習だと巧くこなせるのに……)
一方の神威は実践では魔獣相手にまるで駄目であった。
春日に助けられて怪我をせずに済んだのだ。
(自分の弱さを自覚できない奴は弱い……)
剣術をならっていた時に師匠に言われた一言だ。
(なぜ弱いのかを克服する事が出来ないからだ……)
単純なようでこれは難しい事だ。
(自分の弱さってなんだろう……)
根が真面目な神威は深淵の中に沈み込んでいく感覚を覚えた。
松岡は部屋の隅で壁に向かって座禅を組んでいる。
実践の時に簡単な魔法すら発動出来なかったのだ。
(自分のイマジネーションを頭の中で明確化させる……か)
茂呂に言われた魔法の使い方だ。
しかし、これが難しかった。レベルがさほど高くないことも影響していた。
(迷宮で少しでもレベルアップをしないと簡易な魔法ですら使えない……)
誰か……特に男に負けてしまうなど松岡の自尊心が許さなかった。
出来ないものは仕方が無いという考え方が出来ない質なのだ。
焦る気持ちだけが空回りしていた。
何かと問題を抱える春日・神威・松岡に比べて茂呂は生き生きとしていた。
簡単な魔法なら初日から使えていたのだ。
(詠唱無しで魔法発動させる事が出来るのは僕だけですよ)
慢心してはいけないなどと、表面上は思っても高揚感が抑えきれすにニマニマしてしまっていた。
「……」
元の世界では深い泥の中を歩いているみたいだった。
幾ら藻掻いても前に進めない焦り。
現実を変えらる事が出来ない自分の非力さにイライラが募る毎日。
絶望的な日常から逃げ出したくても、どうすれば良いのかも分からない自分の無能を呪ったりもした。
『ファイアーボール』
だが、今は違う。名前を与えるだけで魔法が使える。
この世界の連中では出来ない事を、いとも簡単に出来てしまう。
湧き上がる万能感。賞賛を浴びる自分が誇らしくあった。
此処は自分が輝ける世界なのだ。
茂呂は元の世界に帰る気など更々に無かった。
(この世界なら僕は神にもなれる気がするですよ……)
茂呂は一人ほくそ笑んでいた。
自主練にハジメは呼ぼれては居なかった。
その代わりに学校の図書館で過ごしていた。
大量の書物を次々と読み漁っている。この世界の事を早く知りたかったからだ。
もちろん、朝早くから図書館はやっていない。無断で侵入していたのだった。
(まあ、いいか……)
ハジメはハジメでやりたい事が山積みなので、放ったらかしにされるのはむしろ有り難かったくらいだ。
それに誰か一人をハブにする事で、グループの連帯を強めるのは方法として有りだ。
(ふん、烏合の衆が良くやるやつだよな……)
結局、アイツラも普通の人間どもと変わらなかった。
当たり前過ぎてつまらない連中だと考えた。
日中の午前中は座学が中心だ。
学校ではとにかく華族を敬う事が重要であると教え込まれる。
魔獣を倒した事に依る成果を上納しなければ成らないのもその一つだ。
探索者が得るのは僅かな報酬と経験値のみである。
(まあ、誰も文句言わないのなら、ほっとけば良いだけだし……)
午後は実践なので最下層まで降りてみる積りだ。
どんな魔獣が分布しているのか調べたかったからだ。
(どうせ、隠蔽使って彷徨くだけだから今から行ってみるかな……)
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