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跡継ぎ選別

30話

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 エスティアス村から帰還して、2か月ほど経った。この2か月間特に何もなく、平和な時間が過ぎていた。
 
 クレアと詩音は毎日の日課である剣術の練習を今日もしに公園まで来ていた。

「ハッ! ヤァ!!」
「いいぞ! もっとだ!」

 木刀が衝突する音、風を斬る音が公園に響く。

 30分ほどやったところで、詩音たちは休憩することにした。

「いい感じだけど、まだ剣の振りが遅いな」
「そうか。結構難しいな」
「うん。クレアは剣を腕で振ってるからだな。ロングソードは重いから、そのまま振ると遅いし疲れやすい。だから1つ剣の型を教えるよ」

 詩音は木刀を持つ。そして少し助走をしながら腰をひねり、戻しながら木刀を振る。そこからは、剣の流れる勢いを利用して連続で斬りつける。力の流れに逆らわず、流れるような足さばき。まるで川上の水流のように加速しながら流動する。

「こんな感じ。島場流奔流の型ほんりゅうのかたって言って、運動量が多くて疲れそうだけど、剣の重みに逆らわず、逆に利用して振ってるから普通にやるよりずっと疲れない。更に振ればふるほど速さが増していくんだ。他にも瞬発力に特化したものや破壊力が凄いのとかもあるけど、たぶんこれが一番やりやすい」
「なるほど。ぜひ教えてほしい」
「じゃあ早速やってみようか。一番大事なのは足さばきで………………」

 詩音たちはその後、日が暮れかかるまで練習に励んだ。



 詩音たちが屋敷に帰ると、もう夕食の支度が整っていた。

「あ、お帰りなさい。詩音さん、クレアさん。もう夕食ができているので手を洗って配膳をお願いします」
「りょーかい」

 配膳を済ませ、4人は席に着いた。

「では、たべましょうか」
「いただきまーす!」
「詩音さん、いつも食事の前に言ってるそのいただきますとは何ですか?」
「あー。これは俺がいた国では食事前にやるんだ。生物や作ってくれた人とかに感謝するんだよ」
「何かの宗教ですか?」
「そんなかんじかな。よく知らないけど」
「なるほど。でしたら私たちも真似てみましょうか」
「「「いただきます」」」

 3人も詩音を真似ていただきますをしてから食べ始めた。

 そして食事中、クレアの稽古の話題になった。

「クレアさん、今日の練習はどうでした?」
「ああ。今日もとても実りのある練習だった」
「うん。クレアやっぱり上達が早いや。これで才能がないとか、見る目がないだろ」
「そうなんですか?」
「ちょっと教えたらすぐできる様になるんだ。まだあらいとこもあるけど、初めて教えたことほとんど使いこなせてる。これは才能でしょ」
「こ、こら。恥ずかしいからあまり言うな!」

 クレアは赤面しながら怒った。

「おそらく詩音の教える剣術が私にあっているだけだろう。家で習っていたときはこうはいかなかった」
「なら自分に合うのが見つかってよかったってことだな!」
「ああ。私は幸運だった」

 そんな会話をしていると、ドアをノックする音が聞こえた。

「はーい。誰でしょうこんな時間に」

 ルナは玄関へ向かっていった。しばらくすると、便箋をもってかえった来た。

「手紙の配達でした」
「また手紙か。今度は何だろうなぁ」

 ルナは差出人を確認する。

「マックロイ・バンガードさんからですね」

 瞬間、クレアが青ざめた。

「父上からだ………………」
「え!?」
「と、とにかく中身を確認しましょう!」

 ルナは便箋を開け、中の手紙を取り出した。

「どれどれ。クレアへ。お前も一応はバンガード家の一員であるから知らせる。初秋にバンガード邸にてバンガード後継者及び家の聖剣の継承者の選別を行う。お前に期待はしていないが来たければ選別に来なさい。だそうです」
「期待してないって、そんなはっきりと書くかねぇ」
「なんか怖そうなお父様ですのね」

 クレアは椅子に座り、頭を抱えた。

「選別が始まるのか……」
「なんだよそれ」
「代々バンガード家は兄妹同士での総当たりで試合をして、一番勝利数が高いものがバンガードのあとを継ぐ。そういう決め方で跡継ぎを決めてきた」
「長男が、とかじゃないんですね」
「バンガード家は最強でなくてはならなかったからな。それに次男以降にもチャンスがあるという方が兄弟たちも稽古を頑張るからな。現に父上は三男だったはずだ。それで跡を継ぐ者には代々伝わる聖剣キャリバーンが継承される」
「なるほどなぁ。で、クレアは行くのか?」

 クレアは更に頭が下がっていく。

「私なんかが行っても意味がないだろうし」
「言い方変えるわ。クレアは勝ちたいのか? あとを継ぎたいのか?」
「それはそうだ! 私は勝って認められたいしバンガードの名は好きだから私が継承したい! だが……」
「ルナ、初秋ってあとどのくらい?」
「えーと、あと2、3か月くらいでしょうか。選別の日でしたらあと2か月と半分ですね」
「よし、クレア。間に合わせるぞ。選別までに島原流剣術をマスターするんだ!」
「ま、待ってくれ! いくらなんでも無理があるだろう! 仮にできたとしても兄たちに勝てるのか……」
「島原流はそんなやわなもんじゃないし、クレアの上達速度なら。それに何もしないであきらめるのは一番もったいないだろ。クレアが頑張るなら、俺が完璧になるまで仕込んでやる!」
「クレアさん。確かにすぐあきらめるのは脳筋のあなたには似合いませんよ?」
「頑張ってください! クレアさん!」
「クリスタは一言余計だが……分かった。私、やってみる。よろしく頼むぞ、詩音!」
「おうよ!」

 こうして、クレアの猛特訓が始まったのだった。


 
 バンガード邸では、マックロイと部下たちによる選別の会議が行われていた。

「クレアは来ないでしょうから、今回は7人での選別になりますね」
「ああ。我の子供たちは一人を除いて優秀な子たちばかりであるからな。誰になってもおかしくはない」
「特に最近異世界の女の部下をやっているというガウェインは有力候補でしょうな。なぜ部下なんかをやっているのか疑問ですが」
「何をやっているかは問題ではない。確かに有力候補なのは間違いないだろう。ああ、選別が楽しみだ」

  マックロイと部下たちは愉悦を感じていた。



 
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