天使は金の瞳で毒を盛る

藤野ひま

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10. 令嬢の憂鬱 ③

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でも、ふと思った。
何かおかしな気がする。

榛瑠が私を離した。彼の顔をじっと見る。こうして見ても普通なんだけど、でもなんか。

「どうしました?今度は何くだらない事思いついたんです?」

そう言って笑いながら私の頬をつねった。

「いひゃいってば」

榛瑠が私を見て笑った。やっぱりおかしい、機嫌がよすぎるというか……。なんというか、そう、私をかまい過ぎる。

起きぬけは怒っていた気がしたんだけどな。からかって気晴らししたとか?それはそれでどうかと思うけど。

なんだろう?また熱でもあるのかな?

私は彼の額に手を当てた。でも、別に熱はなさそう。

「何なんですか、いったい」

「うーん、なんだろう」

なんだろう、この違和感。なんか変。

前にこんな事がなかったか記憶を探る。あったような、なかったような……。

「お嬢様?」

「ねえ、何かさあ……、ねえ、怒らないでね?榛瑠、変じゃない?」

「どこがですか?いつも通りですよ」

そう言って榛瑠は微笑む。なんだろう、この優しい笑みがすでに違和感。嬉しいのだけれど。

「だって、なんか……。体の具合が悪いわけじゃないなら何かな。……もしかすると、メンタル?って何?落ち込んでるとか?そんなわけないか」

ボソボソ言う私を榛瑠はじっと見た。どこか驚いているようにも見える。

「あなたは時々、困った事を言いますね」

そう言って座りなおすと、考え込む顔をした。なんだろう。

「ごめんね?あの、違うならいいの。ただ、何かおかしな感じがしただけで……」

「言いたい事はわかります、そうか、そうだな」

はい?

「そういうのってなんて言うんでしたっけ?」

「え?なんの事?落ち込む事?自己嫌悪とか?」

「ああそうか、自己嫌悪か」

なんなの、いったい。榛瑠を見ると皮肉っぽい表情でうっすらと笑っている。

……もしかしてこの人、自己嫌悪した事ないの?

「あの、あなた、落ち込んだ事ないの?」

「ありますよ、よくあるとは思うんですが、……そう、引き摺るのはあまりないですね。大人になってからは特に。大丈夫のつもりでいたんですけど」

「はあ……」

「おかしいな、やれることはやったんだがな」

榛瑠は独り言のようにブツブツ言う。なんなんだ、いったい。

と思ったら、首を抱えながら下を向いてしまった。

「ちょっと、ちょっと、大丈夫?」

こんな榛瑠見た事ないよ?珍しすぎて突っ込むこともできない。

「自覚したら余計きました。原因はわかっているんです。優先順位の判断ミスと、あと、見通しの甘さですね。口にするとロクでもないな。自分の馬鹿さ加減にウンザリしてきますね」

いや、あなたがバカだって言うなら、私なんてお猿さんレベルですよ?

「ごめん、聞いていい?いったい何を失敗したの?」

彼がここまで落ち込むなんてどんな事?想像も出来ない。なにやっちゃったんだろう。

榛瑠が私を見た。ドキッとする。聞いちゃいけなかったかな、やっぱり。

「すみません、いろいろ言い訳しました」

……?

「なんで、私に謝るの?」

「あなたを危険にさらしたから」

はい?なんですって?

「え?あれ?なに?……もしかして落ち込んでる理由、そこ?」

「そうです。他になにかありますか?」

他って、だって。いや、いや、まてまて。

「いや、他にあるんじゃないの?だって、私は無事だったんだし」

「でも、危ない目に合わせた時点で失敗なんです。取り返しのつかないミスになるところでした」

えーと。彼の考えが全然わからない。

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