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4. 困惑の懇親会 ④
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「す、すみません!ごめんなさい!」
いいですよ、と、なんでもないかのように四条課長は言って立ちあがった。
そう、実際、榛瑠にはなんでもないだろう。
でもでも、私にはある!うわぁ。絶対、私、顔赤いよ、今!
動揺と、いくつかの突き刺さるような視線を感じてフラフラと店を出る。
「羨ましいな、先輩ってば。あー悔しい」
篠山さんが明るい調子で、こそっと私に言う。
「お願い、やめて……」
彼女は楽しそうに笑う。みんながこんなふうだと助かるんだけど、そういうわけにはいかないよね……。
気づくと、美園さんが榛瑠の横にひっついて歩いている。私を見た。視線が怖い。
この人、やっぱり何か知っているのかもしれない。
解散の後、何人かは二次会に流れ残りはそれぞれ帰途についた。私は榛瑠や、美園さん、鬼塚係長とかその他数名の人と駅へ向かって歩いた。
榛瑠は美園さんにべったりくっつかれていて、鬼塚さんは営業の部下と話しながら歩いている。
私は一人歩きながら、空を見上げる。
雲が速い速度で動いて月を覆っていく。明日は天気が崩れるのかもしれない。
と、後ろの方で揉める声がした。振り返ってみると、女子社員が何人か、酔っていそうな若い男達に絡まれている。
近くの若い男性社員が止めに入ったが、どうも火に油といった感じのようだ。
「係長、止めてください」
私は近くにいた鬼塚さんに言った。
「うーん、あー、大丈夫じゃね?」
みると、榛瑠が止めに入っていた。と思ったら、いきなり殴りかかられているし!余裕でかわしてるけど。
榛瑠が結構強いのは知ってるけど、多勢に無勢だし、こちらは手を出せない分、分が悪いんじゃあないの?
「加勢しないんですか?!鬼塚さん、強いんでしょう?」
「俺、段持ちよ?下手に手を出すと、逮捕ものだぜ?」
「え、そうなんですか?」
「でも、あれだな、ちょっと面白そうだな」
そう楽しそうに言って、指をボキボキ鳴らすと歩いていく。
私、もしかして、頼む人を間違えた?
止める間もなく鬼塚さんは拳を握ると勢いよく叩きつけた。……榛瑠に向かって。榛瑠が、右腕をあげて、ガードする。
「ちょっ、鬼塚さん何やってるんですかっ」
私は裏返った声で叫んでしまった。他からも女の子の悲鳴が漏れた。
「ちょっとふざけた」
鬼塚さんは相変わらず楽しそうに言った。榛瑠は何事もなかったように乱れた背広を直している。でも、さっき二人の視線が交差した時、なにか冷たいものがそこにありませんでしたか?
その合間に絡んできてた人達は逃げ去っていた。そりゃあ、こんな二人と争いたくないよね。
まあ、とにかく大事にならなくてよかったね、とみんなで言っていたら、後ろから大きなダミ声が聞こえた。
「ちょっと、何広がってるのよ。邪魔よ!どいて」
あ、すみません、と私たちは道をあけた。声の主は、美園さんと良い勝負のメリハリのあるボディをした……女性?
「なんだ、男かよ」
美園さんが何ら遠慮のないことを遠慮のない声で言った。ヒヤッとする。その人が思いっきり睨んでくる。
でも、何も言わず通り過ぎようとしてくれている。よかったー。
と、榛瑠がその人を凝視しているのに気がついた。え?なんで?
その人がすれ違いざま榛瑠をちらっと見た。で、前を向いて、また振り返って彼を見た。
「あんた、もしかしてハル?」
「やっぱりサトだ。綺麗になっていたから分からなかった」
え?何?知り合い?
「あたしは日々進歩してるわよ!それよりあんた、何してたのよ!とっくに何処かでのたれ死んでるかと思ってたわよ!」
え?榛瑠ってそういうキャラじゃないはずだけど。
「がっかりしましたか?」
「するわよ!当たり前じゃない!何その背広、つっまんないわ!」
サトと呼ばれたその人は明るく言うと、榛瑠に飛びついた。
「げっ」
隣で鬼塚さんが呟いた。私も、もしかして声に出てたかも。
サトさんは、飛びつくと、榛瑠の唇にキスをしたのだ。
でも、何が驚いたって、彼女が離れた時。
めったに表情を崩さないと言われる四条課長が、すごく楽しそうに、微笑んでいた。
いいですよ、と、なんでもないかのように四条課長は言って立ちあがった。
そう、実際、榛瑠にはなんでもないだろう。
でもでも、私にはある!うわぁ。絶対、私、顔赤いよ、今!
動揺と、いくつかの突き刺さるような視線を感じてフラフラと店を出る。
「羨ましいな、先輩ってば。あー悔しい」
篠山さんが明るい調子で、こそっと私に言う。
「お願い、やめて……」
彼女は楽しそうに笑う。みんながこんなふうだと助かるんだけど、そういうわけにはいかないよね……。
気づくと、美園さんが榛瑠の横にひっついて歩いている。私を見た。視線が怖い。
この人、やっぱり何か知っているのかもしれない。
解散の後、何人かは二次会に流れ残りはそれぞれ帰途についた。私は榛瑠や、美園さん、鬼塚係長とかその他数名の人と駅へ向かって歩いた。
榛瑠は美園さんにべったりくっつかれていて、鬼塚さんは営業の部下と話しながら歩いている。
私は一人歩きながら、空を見上げる。
雲が速い速度で動いて月を覆っていく。明日は天気が崩れるのかもしれない。
と、後ろの方で揉める声がした。振り返ってみると、女子社員が何人か、酔っていそうな若い男達に絡まれている。
近くの若い男性社員が止めに入ったが、どうも火に油といった感じのようだ。
「係長、止めてください」
私は近くにいた鬼塚さんに言った。
「うーん、あー、大丈夫じゃね?」
みると、榛瑠が止めに入っていた。と思ったら、いきなり殴りかかられているし!余裕でかわしてるけど。
榛瑠が結構強いのは知ってるけど、多勢に無勢だし、こちらは手を出せない分、分が悪いんじゃあないの?
「加勢しないんですか?!鬼塚さん、強いんでしょう?」
「俺、段持ちよ?下手に手を出すと、逮捕ものだぜ?」
「え、そうなんですか?」
「でも、あれだな、ちょっと面白そうだな」
そう楽しそうに言って、指をボキボキ鳴らすと歩いていく。
私、もしかして、頼む人を間違えた?
止める間もなく鬼塚さんは拳を握ると勢いよく叩きつけた。……榛瑠に向かって。榛瑠が、右腕をあげて、ガードする。
「ちょっ、鬼塚さん何やってるんですかっ」
私は裏返った声で叫んでしまった。他からも女の子の悲鳴が漏れた。
「ちょっとふざけた」
鬼塚さんは相変わらず楽しそうに言った。榛瑠は何事もなかったように乱れた背広を直している。でも、さっき二人の視線が交差した時、なにか冷たいものがそこにありませんでしたか?
その合間に絡んできてた人達は逃げ去っていた。そりゃあ、こんな二人と争いたくないよね。
まあ、とにかく大事にならなくてよかったね、とみんなで言っていたら、後ろから大きなダミ声が聞こえた。
「ちょっと、何広がってるのよ。邪魔よ!どいて」
あ、すみません、と私たちは道をあけた。声の主は、美園さんと良い勝負のメリハリのあるボディをした……女性?
「なんだ、男かよ」
美園さんが何ら遠慮のないことを遠慮のない声で言った。ヒヤッとする。その人が思いっきり睨んでくる。
でも、何も言わず通り過ぎようとしてくれている。よかったー。
と、榛瑠がその人を凝視しているのに気がついた。え?なんで?
その人がすれ違いざま榛瑠をちらっと見た。で、前を向いて、また振り返って彼を見た。
「あんた、もしかしてハル?」
「やっぱりサトだ。綺麗になっていたから分からなかった」
え?何?知り合い?
「あたしは日々進歩してるわよ!それよりあんた、何してたのよ!とっくに何処かでのたれ死んでるかと思ってたわよ!」
え?榛瑠ってそういうキャラじゃないはずだけど。
「がっかりしましたか?」
「するわよ!当たり前じゃない!何その背広、つっまんないわ!」
サトと呼ばれたその人は明るく言うと、榛瑠に飛びついた。
「げっ」
隣で鬼塚さんが呟いた。私も、もしかして声に出てたかも。
サトさんは、飛びつくと、榛瑠の唇にキスをしたのだ。
でも、何が驚いたって、彼女が離れた時。
めったに表情を崩さないと言われる四条課長が、すごく楽しそうに、微笑んでいた。
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