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僕と君の運 (高三)
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「せーの」
俺たちは二人同時に、今引いたばかりのおみくじを見せ合う。
「大吉」
「……大凶」俺は溜息をついた。「最悪だ」
「あ、うーん」
俺は珍しく言い淀んでいる親友を見た。覗き込みながらおみくじを読んでいる。近視なんだから眼鏡してこいよ、と思う。色素薄めの少し茶色っぽい髪が手にあたりそうだ。さらさらだから痒いんだよ、こいつの髪。
「あ、でもよくよく読むと意外と悪いこと書いてないよ、僕の大吉のほうが……なんだか、あんまり良いこと書いてないな」
やはり色素薄めの茶色の瞳を俺に向ける。
「でもさ、大凶だぞ? これから受験なのに最悪」
幼馴染、兼、親友は困った顔をした。
正月の神社は人で溢れていて賑やかだ。話し声や笑い声、参拝客の柏手や鳴らされる鈴の音を聞きながら俺の心は暗い。受験なのに大凶ひくかよ、普通。
「でも、大凶なんてむしろ珍しくない?案外悪くないかもよ?」
「嬉しくない。普通でいい」
「そうだけど」
俺は再び溜息をつく。
「まあな、合否ラインの判定悪いのを神頼みでなんとかしようとする俺が悪いんだけどさ」
「まだまだ、ここから追い込めるでしょ」
「そうだけどさあ……」
受験で朝から晩まで勉強をして、……まあ一応、して、息抜きに初詣に来てみればこんなんなで、正直、落ち込む。それに比べ隣の奴は受験余裕でおみくじまで良いときてるからなあ。
「うーん、気になるなら変えようか?」
「変えるって?」
「僕のとお前のおみくじを交換するってこと」
俺は親友の腹に軽く拳を入れた。
「馬鹿言え、何でお前の運を悪くしないといけないんだ」
「……」
「大体、神様にそんな不正通じるんかよ」
「どうかな、でも僕は気にしないから」
「生憎俺は気にする、だから嫌だ」
そうか、と言って微笑む。やけに嬉しそうに。何なんだよ。
「とりあえず、おみくじ結ぼう」
言われて結べる所を探すことにした。既にあちこち結んであって意外に結べる場所がない。
俺は、またまた溜息をついた。
「あーあ、志望校背伸びしたからなあ」
「だって、仕方ないじゃん。家から出たかったんだし」
「そうなんだよなあ、でも何でお前と一緒ならいいんだよ、今だにわからん」
隣で歩くヤツが、俺を救ってくれたとも言えるし、地獄の淵を歩かしたともいえる。
あれは志望校最終決定の頃、たまたま俺と母ちゃんで進学先で揉めてた時にこいつが遊びに来て……。
「絶対、家から出るし」
「馬鹿言いなさい、あんたなんて一人暮らししたらロクでもない結果になるだけよ」
「何だそれ、バイトするし奨学金とるし金なら……」
「あんた、馬鹿なの。大学は勉強するとこよ。そんな事するなら家から通って勉強しな」
「そうだけど……!」
俺は出たいんだ!……じゃないと、なんか、出れなくなりそうで……、居心地良すぎるのも子供ダメにするんだぜ、母ちゃん!!
言いたくない理由をどう言ったらいいか。言葉に詰まっていると、こいつが言ったんだよね。
「だったら僕と同じ大学に通って、ルームシェアするとか? ちゃんと生活見ときますよ」
「ちょっ、お前なんだ、それ。冗談じゃない……」
「……なるほど、それなら悪くないかもねえ」
「はあ⁉︎」
そんで気づいたら同じ志望校になってた。学力ギリギリだってのに。とは言え文系の俺と理系のこいつとでは偏差値かなり違うけど。そうじゃないと無理。あーあ。
俺たちはおみくじを結ぶ隙間を見つけて立ち止まった。破らないように、でも落ちないように結ぶのは案外難しい。特に今年は落ちてくれるな。
「こうやって結ぶと神様がきっと見ててくれるよ」
「信じてないんだろ?」
「それはそれさ」
「都合いいな」
隣で器用にきちんと結びながら親友は笑う。
「良い方向のこと考えようよ、きっと楽しいよ、大学生活」
それはそうなんだけどさ。だけどそれ以外にも、引っかかる事がもう一つ……。
「そうだな、楽しみではあるんだ、凄く。でもさ……」
「何?」
「お前ならもっと上狙えたのに巻き込んじまったんじゃね? 俺」
「まさか。あんまり無理したくないし、取ってみたい講義や興味あるゼミもあるから初めから考えてた大学だよ。それに……」
「それに?」
「学歴だけが大事って訳じゃないだろ? 他にも大切な事はあるよ」
「へ? まあ、そうだけど」
何だ?
「四年って結構長いし、大事にしたいじゃん?」
そう言って俺をじっと見た。息が白い。肌も色素薄いんだよなあ、頬が赤くなってる。……そろそろ帰るか。
俺は歩き出しながら話す。
「そうだよなあ。……あー受かりてー! そんで楽しい事してー! とりあえず彼女作るぞ! お前どうせモテるから紹介よろしくな、今度こそ」
「今度こそって何だよ。それに僕がいるから部屋に連れて来れないからね」
「あ、そうだわ」
彼女なんていた事ないから考えんかったわ。どうするかな、えーと。
「……違う違う。 まずは受かんないと!」
「そうだね」
明るい笑い声の後、言葉が続く。
「この後、何処で勉強する? 塾の自習室は開いてないから図書館かな。開館してるかな?」
「俺の家でよくない? 雑煮食いながらやろうぜ。まだ今日食ってないし」
「いいの? 正月から」
「何か問題あるか? 行こうぜ」
大きな鳥居の向こうを見上げると、冬の乾いた青空が雲一つなく広がっている。俺は何となく息を深く吸った。
「春になってもいい気分で空を見上げてたいな」
「そうだね……春にも、来年も……その後も」
「ああ。大凶なんて覆してやるからなー!」
隣にあるいつもの穏やかな声に励まされながら、俺は春を目指す。
俺たちは二人同時に、今引いたばかりのおみくじを見せ合う。
「大吉」
「……大凶」俺は溜息をついた。「最悪だ」
「あ、うーん」
俺は珍しく言い淀んでいる親友を見た。覗き込みながらおみくじを読んでいる。近視なんだから眼鏡してこいよ、と思う。色素薄めの少し茶色っぽい髪が手にあたりそうだ。さらさらだから痒いんだよ、こいつの髪。
「あ、でもよくよく読むと意外と悪いこと書いてないよ、僕の大吉のほうが……なんだか、あんまり良いこと書いてないな」
やはり色素薄めの茶色の瞳を俺に向ける。
「でもさ、大凶だぞ? これから受験なのに最悪」
幼馴染、兼、親友は困った顔をした。
正月の神社は人で溢れていて賑やかだ。話し声や笑い声、参拝客の柏手や鳴らされる鈴の音を聞きながら俺の心は暗い。受験なのに大凶ひくかよ、普通。
「でも、大凶なんてむしろ珍しくない?案外悪くないかもよ?」
「嬉しくない。普通でいい」
「そうだけど」
俺は再び溜息をつく。
「まあな、合否ラインの判定悪いのを神頼みでなんとかしようとする俺が悪いんだけどさ」
「まだまだ、ここから追い込めるでしょ」
「そうだけどさあ……」
受験で朝から晩まで勉強をして、……まあ一応、して、息抜きに初詣に来てみればこんなんなで、正直、落ち込む。それに比べ隣の奴は受験余裕でおみくじまで良いときてるからなあ。
「うーん、気になるなら変えようか?」
「変えるって?」
「僕のとお前のおみくじを交換するってこと」
俺は親友の腹に軽く拳を入れた。
「馬鹿言え、何でお前の運を悪くしないといけないんだ」
「……」
「大体、神様にそんな不正通じるんかよ」
「どうかな、でも僕は気にしないから」
「生憎俺は気にする、だから嫌だ」
そうか、と言って微笑む。やけに嬉しそうに。何なんだよ。
「とりあえず、おみくじ結ぼう」
言われて結べる所を探すことにした。既にあちこち結んであって意外に結べる場所がない。
俺は、またまた溜息をついた。
「あーあ、志望校背伸びしたからなあ」
「だって、仕方ないじゃん。家から出たかったんだし」
「そうなんだよなあ、でも何でお前と一緒ならいいんだよ、今だにわからん」
隣で歩くヤツが、俺を救ってくれたとも言えるし、地獄の淵を歩かしたともいえる。
あれは志望校最終決定の頃、たまたま俺と母ちゃんで進学先で揉めてた時にこいつが遊びに来て……。
「絶対、家から出るし」
「馬鹿言いなさい、あんたなんて一人暮らししたらロクでもない結果になるだけよ」
「何だそれ、バイトするし奨学金とるし金なら……」
「あんた、馬鹿なの。大学は勉強するとこよ。そんな事するなら家から通って勉強しな」
「そうだけど……!」
俺は出たいんだ!……じゃないと、なんか、出れなくなりそうで……、居心地良すぎるのも子供ダメにするんだぜ、母ちゃん!!
言いたくない理由をどう言ったらいいか。言葉に詰まっていると、こいつが言ったんだよね。
「だったら僕と同じ大学に通って、ルームシェアするとか? ちゃんと生活見ときますよ」
「ちょっ、お前なんだ、それ。冗談じゃない……」
「……なるほど、それなら悪くないかもねえ」
「はあ⁉︎」
そんで気づいたら同じ志望校になってた。学力ギリギリだってのに。とは言え文系の俺と理系のこいつとでは偏差値かなり違うけど。そうじゃないと無理。あーあ。
俺たちはおみくじを結ぶ隙間を見つけて立ち止まった。破らないように、でも落ちないように結ぶのは案外難しい。特に今年は落ちてくれるな。
「こうやって結ぶと神様がきっと見ててくれるよ」
「信じてないんだろ?」
「それはそれさ」
「都合いいな」
隣で器用にきちんと結びながら親友は笑う。
「良い方向のこと考えようよ、きっと楽しいよ、大学生活」
それはそうなんだけどさ。だけどそれ以外にも、引っかかる事がもう一つ……。
「そうだな、楽しみではあるんだ、凄く。でもさ……」
「何?」
「お前ならもっと上狙えたのに巻き込んじまったんじゃね? 俺」
「まさか。あんまり無理したくないし、取ってみたい講義や興味あるゼミもあるから初めから考えてた大学だよ。それに……」
「それに?」
「学歴だけが大事って訳じゃないだろ? 他にも大切な事はあるよ」
「へ? まあ、そうだけど」
何だ?
「四年って結構長いし、大事にしたいじゃん?」
そう言って俺をじっと見た。息が白い。肌も色素薄いんだよなあ、頬が赤くなってる。……そろそろ帰るか。
俺は歩き出しながら話す。
「そうだよなあ。……あー受かりてー! そんで楽しい事してー! とりあえず彼女作るぞ! お前どうせモテるから紹介よろしくな、今度こそ」
「今度こそって何だよ。それに僕がいるから部屋に連れて来れないからね」
「あ、そうだわ」
彼女なんていた事ないから考えんかったわ。どうするかな、えーと。
「……違う違う。 まずは受かんないと!」
「そうだね」
明るい笑い声の後、言葉が続く。
「この後、何処で勉強する? 塾の自習室は開いてないから図書館かな。開館してるかな?」
「俺の家でよくない? 雑煮食いながらやろうぜ。まだ今日食ってないし」
「いいの? 正月から」
「何か問題あるか? 行こうぜ」
大きな鳥居の向こうを見上げると、冬の乾いた青空が雲一つなく広がっている。俺は何となく息を深く吸った。
「春になってもいい気分で空を見上げてたいな」
「そうだね……春にも、来年も……その後も」
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