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四月・桜の湯

現実のA草高校とは無関係です

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 みなさん初めまして、こんにちは!オレの名前は、佐山遼河って言います。山か河か、どっちかにせーよって言われます。

 東京都は、品川区在住。この春浅草の高校に入学したばかりの、ピッカピカの16歳です。
 あ、数え年とかじゃないですよ。オレ、誕生日が4月1日なんです。日にちのせいで、すげー嘘くさいとか言われるけど本当です。だから、現在ほとんどの同級生よりは年上ですよ。ちょっとした、優越感。
 国家公務員(税務署職員)の父と地方公務員(市職員)の母から生まれた、ごくごく普通の男の子です。弟一人、妹一人。元来、物事をあんまり突き詰めて考えない所はあるかな。
 高校は、特定を避けるため「A草高校」とでも呼称しておきましょう。フィクションとしての、想像上の産物。この世のどこにも存在しない、架空の高校です。偏差値も○0くらいだし、ゆるーくて校則もフワフワしててオレみたいなのにピッタリですよ(※個人の感想です)。
 部活は、中学生から引き続きで野球部に入りました。これも、清々しい程の弱小です(※現実のA草高校とは無関係です)。子供の遊びに毛が生えたくらいの練習後、部活仲間と浅草をブラブラして帰る毎日。



 おかげで、浅草の町にも詳しくなりました。電車で20分程度だけど、実はそんなに来た事なかったんですよね。爺ちゃん婆ちゃんと、観音さん参ったりしたくらいかな。
 古くからの、下町情緒を残す感じがいいですよね。この日は、試合に負けたお祝いに先輩方から銭湯おごってもらいました。いいですよね、銭湯。自宅の風呂を修理する時くらいしか、来た事なかったっすわ。最近だと、スーパー銭湯みたいな所しか残ってないですしね。
 その名も、「はたの湯」。ここはまさに、昔ながらの小ぢんまりとした銭湯だ。番台の婆さんに、小銭払って入るタイプの。今どき、こんな銭湯あるもんだなぁ。ってな訳で先輩方に支払ってもらっている内に、ちょっぱやで制服脱いでダーッシュ!オレ、何でも一番乗りって大好きなんですよね。
 今日はまだ時間も早いし、誰もいないだろう…。と思って勢いよく扉を開いた所、果たして先客がいらっしゃった。花も恥じらうような可憐な美少女が、一糸もまとわずに…。って、え?ここ、男湯だよね?時間帯で変わるとか、そう言う?
 「あ、足元。危ない!」
 彼女が言った。なんとオレの足が着地するその先に、狙って置いたような石鹸があるじゃないか!なんとまぁ、テンプレな。しかし、野球部の運動神経舐めんな!踏み出していないもう片方の足を軸にして、コンパスのように身体全体を回転させた。ヨシ!これで、危難は去ったぞ。
 そうして足を踏みおろした先の床には、何でか知らんが桜の花びらが大量に落ちていた。お湯で濡れているので、当然滑る。勢い余ってオレは、天地を逆にしてすっ転んでいた。

 そうはならんやろ、って?
 今現在、実際にこうしてなっとるやろがい!
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