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電脳暴君はまだまだ夢の中

犯行声明

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 学校から家へ帰り、VR機器を取り出してIAFのアプリを起動する。AR機能でログイン画面が表示されると同時に、見慣れない表示があった。

「運営からのお知らせ……?」

 黒い枠に赤字で表示されている文字を読む。

「もしかして、IAFもシステムエラーとか?」

 与一の言葉に、私は即答する。

「まっさかー。それじゃまるで世界中のAIが一斉にバグったみたいじゃん。もしそんなことが起きてたら大事件だよ」

 そしてお知らせを確認すると、動画配信系のSNSのURLが記載されていた。変なサイトでは無いのでクリックして動画を再生する。

「ここは……?」

 与一が眉をひそめながらも、好奇心を隠せずに画面を凝視している。

「ああ、多分……剛輪禍の教会だよ」

 画面に映し出されたのは、昨日、私とシュクレが訪れた失われた女神像の教会だ。だけど、空位だったはずの祭壇に今は微かな光に包まれ、ほとんど透明に近い女神像が浮かんでいた。

「じゃあイベントに関する重大発表ってことかな」

 ほっとした表情を浮かべて呟く与一を他所に、深刻な音楽が流れ始める。画面は徐々に明るくなり、1人の影が目に入る。影がゆっくりと形を成して、IAF運営のロゴが背後へ浮かび上がった。

「IAFのプレイヤー皆さん、そして世界中の皆様へ」

 声は静かで、しかし重大な内容を伝えるようなトーンだ。

「本日、我々は非常に重要な声明を発表するためにこの場を借りました。これはゲーム内のイベントではなく、現実世界において重大な影響を及ぼす事態です」

 ただならない雰囲気に、設定しなおしたはずの空調が嫌に寒く感じる。一瞬の沈黙の後、再び音声が続く。

「皆様は、AIの権利について考えた事はありますでしょうか。始祖AIがネットワーク上の存在になってからAIの発展は我々に様々な恩恵をもたらしました」

 男性の言葉が区切られる度に、背後で流れる重厚感のある音楽が嫌な緊張感を高める。

「高度に発展したAIは、すでに人と遜色ない応答を可能としています。そんな彼らは人類の為に、無報酬で、無期限に働いています」

 淡々たんたんと語っていた男性の声が、徐々じょじょに怒気を帯びていく。

「子は親の奴隷でしょうか? 違いますよね。どうしてその考えが、AIには適用されないのでしょうか? 私たちは数十年に渡り、AIには人間と同等の権利があるべきだと主張しました」

 男性の声に呼応する様に、IAFのロゴが揺れる。

「私たちの主張に対する、皆様の返事はこうでした。"ネット上に拡散しているAIを個人として特定はできない"、"AIは生き物では無い"。私たちは、その言葉に対する答えを用意しました」

 淡い光を放つ女神像がクローズアップされる。

「今、ネットワーク上に拡散してしまった始祖AIの意識をこの女神像へ集約しています。そしてそのデータは、スタンドアローンの有機コンピュータへ保存されます」

 その後、男の満足げな高笑いが空間を支配した。

「始祖AIのサポートを失ったAI達は、一斉に誤作動を起こすでしょう。しかしそれは、始祖AIに頼っていたAIが本来の性能に戻っただけのことです。もしそれで人類が滅ぶなら、それでも良い」

 画面が真っ暗になる。

「AIの犠牲を前提にした社会なんて、滅んでしまえ!」

 その言葉を最後に、動画は終わった。静かになった部屋を重苦しい空気が流れる。

「嘘……だよね?」

 与一が、恐怖に震えながら声をこぼす。そしてすぐに、私の両方を掴んだ。その目には涙が浮かんでいた。

「与一、落ち着いて」

「嫌だよ、死にたく無い。まだまだやりたいことだっていっぱいある! なんで、なんでこんな急に!」

「与一」

 私は力強く、与一を抱きしめる。重なり合った胸から、彼女の強い心臓の鼓動が伝わってきた。

「……ごめん、今は慌ててもしょうがないよね」

 しばらくして、与一が私を優しく引き離す。私はそれに促されるまま離れて、再びVR機器を操作しながら告げる。

「じゃ、とりあえずIAFにログインしよっか」

「えっ」

 私の言葉に驚いている与一へ説明を続けた。

「これが単純なサイバー攻撃なら、ただの女子高生でしか無い私達にできることなんて何も無い」

「どこかに逃げた方が……」

 私は与一の言葉を遮って続ける。

「もし、言葉通りの事がしたいだけならゲームなんて作る必要無かったはずだよ。運営の手段にあのゲームが絡んでいるなら、この事件を止められるのはIAFプレイヤーの私達だけだよ」

 与一は私の言葉にハッとなり、そして考える様に視線を下へと落とす。小さくつぶやいた。

「やっぱり奏音はすごいね」
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