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剛輪禍工業革命-1:機関車チェイス
到着して早々に街を破壊するタイプのJK
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機関車は轟音を立てて街を駆け抜ける。明治後期の風情を持つ街並みがぼやけて通り過ぎていく。
断線した電線、崩れた瓦礫、古びたのれんが風に揺れている。
「ようこそー!」
「一番だぞー!」
町の住人らしいNPCが歓声を上げる。
しかし、それはすぐに悲鳴へと変わった。
「速度落とせー!」
「きゃぁあー!」
数秒後、私たちの機関車が暴走していることに全員が気づいた。町の中心地に近づくと、NPC達は蜘蛛の子を散らす様にその場から逃げ出していく。
「シュクレ!」
私はシュクレを抱えて機関車の進行方向へ飛び出す。
「*********!」
私の声に答えて、シュクレが当初の予定通り機関車を破壊するべく高速で詠唱を奏でる。
彼女の杖から赤い光球が放たれ、機関車を包み込んだ。
「せぇええい!」
炎の中へ消える機関車を背に、腰の翼を全開にして滑空する。尻尾で地面を叩き、迫り来る壁を三角飛びの要領で蹴った。なんとか勢いを殺しきり、無事に地面へ着地する。
「セェェェエエエエフ!」
シュクレを地面に下ろして、野球の審判がよくやるポーズでギリギリなんとかなった喜びを全身で表す。
「あ、アニーさん!」
シュクレが機関車の方を指差す。
「あ――――!!」
シュクレの放った爆炎によって機関車が爆発、その一部が飛び出し町のランドマークらしき建造物へ直撃する。
「な、なんでぇ!?」
驚きと疑問が口から飛び出した。
本来であれば、シュクレの魔法はさっきみたいに貨物列車を丸ごと消滅させる程の威力があるはずだ。
「えっと、街を壊さない様に威力を抑えちゃったので」
私の咄嗟の叫びに、シュクレが答えた。彼女が申し訳なさそうな表情で私の方を見上げる。
「あーそれはしょうがない」
まぁでも、言っても被害は建物1つが損傷した程度だ。どのみち再建する予定の街だったし、これぐらいはギリ許されるだろう。
「これぐらいの被害で収まって良かっ……」
そこまで言いかけて、異変に気が付く。機関車の突撃で被害を受けた建物が音を立てて徐々に傾き始める。
窓ガラスが砕け、一枚一枚が太陽に反射しながら地面へと落ちる。鯨の鳴き声の様な、鉄骨が無理やり曲げられる特徴的な音と共に建物の土台に裂け目が入り、亀裂が上層へと進んで行くのが見えた。
「あっちょ、まって! それはマズイ!」
思わず建物に対して祈る様な気持ちで語りかけてしまう。だけどただの建造物には思いは通じず、祈りは届かない。道路の石畳が持ち上がる様に震えて、周囲の建物も影響を受けて揺れる。
「お、お願い、堪えて! 君ならできる!」
建物の崩壊と傾きは連鎖的に大きくなっていき、やがて破局を迎える。轟音と共に摩天楼が倒れ、爆風と共に土煙が巻き上がる。
「アウトだったぁぁあああああ!」
燃え上がる広場に"メメント・モリ:1位!"の煌びやかなテロップが浮かび上がる中、私は頭を抱えて空へ向かって叫んだ。
ほんの小さな、極小の、ちょっとした、些細なアクシデントはありつつも見事イベントを一位で終えた翌日、自室のベッドでゴロゴロしながら与一へメッセージを送る。
*「もしもーし」*
返事はすぐに帰ってきた。
*「おはよう! 昨日も大暴れだったね」*
*「わーすーれーろー!」*
与一のからかう様な返事に、忘れろビームのスタンプを返す。昨日の制御用クリスタルぶっこ抜き超加速からのビル破壊事件は見事にゲーム内の"ハイライト"に選出されて、今も一部始終が動画として再生されている。
*「奏音はいつもハイライトに上がっているし今更じゃ無い?」*
*「全然今更じゃ無い! 失ってはならない羞恥心的な何かがゴリゴリと音を立てて削れてる!! というか私ばっかり恥ずかしい失敗映像が晒されて不平等だよ!!」*
*「あはは、まぁ有名税みたいな物だよ、きっと」*
*「不当課税だ!!」*
与一の返信に鼻息荒くメッセージを返す。
ベーシックインカムが導入されて久しい現代において、何が悲しくてそんな意味不明な税金を取られないといけないのか、甚だ遺憾である。どこかに有名税に強い税理士はいないものか。
*「それはそうと"メメント・モリ"の担当エリアは何処にするつもりなの?」*
ちょうど相談しようと思っていた事を与一の方から切り出される。周囲への被害は兎も角、私がクランマスターを務める"メメント・モリ"は昨日のイベントで1位を獲得した。
再建を担当する地区はそのまま、今後クランが活動する勢力圏を意味する。私達のクランは現状、選びたい放題だ。
*「そーそれ! せっかくならお隣さんにできないかって!」*
*「それ良いね! 候補地は決まっているの?」*
ARに剛輪禍の地図を表示する。
候補は主に3つだ。
*「郊外の一番広いエリアか、川の横のエリアか……町中央の旧ランドマーク周辺かな?」*
*「町中央は他と比べてエリアが小さいけど、良いの?」*
*「立地としては悪く無いし……一応、私にも罪悪感的なのはある」*
*「あははは、でも中央は良いと思うよ?」*
*「ほう、その心は?」*
*「"メメント・モリ"が中央を占拠したら、間違いなく周辺エリアの人気が下がるからお隣さんになりやすい」*
*「なにゆえ!」*
*「普段の行動を思い出してみて?」*
与一の言葉に、これまでの行動が脳裏を駆け巡る。どうしよう、何1つ反論できる余地がない!
*「中央とりまーす」*
断線した電線、崩れた瓦礫、古びたのれんが風に揺れている。
「ようこそー!」
「一番だぞー!」
町の住人らしいNPCが歓声を上げる。
しかし、それはすぐに悲鳴へと変わった。
「速度落とせー!」
「きゃぁあー!」
数秒後、私たちの機関車が暴走していることに全員が気づいた。町の中心地に近づくと、NPC達は蜘蛛の子を散らす様にその場から逃げ出していく。
「シュクレ!」
私はシュクレを抱えて機関車の進行方向へ飛び出す。
「*********!」
私の声に答えて、シュクレが当初の予定通り機関車を破壊するべく高速で詠唱を奏でる。
彼女の杖から赤い光球が放たれ、機関車を包み込んだ。
「せぇええい!」
炎の中へ消える機関車を背に、腰の翼を全開にして滑空する。尻尾で地面を叩き、迫り来る壁を三角飛びの要領で蹴った。なんとか勢いを殺しきり、無事に地面へ着地する。
「セェェェエエエエフ!」
シュクレを地面に下ろして、野球の審判がよくやるポーズでギリギリなんとかなった喜びを全身で表す。
「あ、アニーさん!」
シュクレが機関車の方を指差す。
「あ――――!!」
シュクレの放った爆炎によって機関車が爆発、その一部が飛び出し町のランドマークらしき建造物へ直撃する。
「な、なんでぇ!?」
驚きと疑問が口から飛び出した。
本来であれば、シュクレの魔法はさっきみたいに貨物列車を丸ごと消滅させる程の威力があるはずだ。
「えっと、街を壊さない様に威力を抑えちゃったので」
私の咄嗟の叫びに、シュクレが答えた。彼女が申し訳なさそうな表情で私の方を見上げる。
「あーそれはしょうがない」
まぁでも、言っても被害は建物1つが損傷した程度だ。どのみち再建する予定の街だったし、これぐらいはギリ許されるだろう。
「これぐらいの被害で収まって良かっ……」
そこまで言いかけて、異変に気が付く。機関車の突撃で被害を受けた建物が音を立てて徐々に傾き始める。
窓ガラスが砕け、一枚一枚が太陽に反射しながら地面へと落ちる。鯨の鳴き声の様な、鉄骨が無理やり曲げられる特徴的な音と共に建物の土台に裂け目が入り、亀裂が上層へと進んで行くのが見えた。
「あっちょ、まって! それはマズイ!」
思わず建物に対して祈る様な気持ちで語りかけてしまう。だけどただの建造物には思いは通じず、祈りは届かない。道路の石畳が持ち上がる様に震えて、周囲の建物も影響を受けて揺れる。
「お、お願い、堪えて! 君ならできる!」
建物の崩壊と傾きは連鎖的に大きくなっていき、やがて破局を迎える。轟音と共に摩天楼が倒れ、爆風と共に土煙が巻き上がる。
「アウトだったぁぁあああああ!」
燃え上がる広場に"メメント・モリ:1位!"の煌びやかなテロップが浮かび上がる中、私は頭を抱えて空へ向かって叫んだ。
ほんの小さな、極小の、ちょっとした、些細なアクシデントはありつつも見事イベントを一位で終えた翌日、自室のベッドでゴロゴロしながら与一へメッセージを送る。
*「もしもーし」*
返事はすぐに帰ってきた。
*「おはよう! 昨日も大暴れだったね」*
*「わーすーれーろー!」*
与一のからかう様な返事に、忘れろビームのスタンプを返す。昨日の制御用クリスタルぶっこ抜き超加速からのビル破壊事件は見事にゲーム内の"ハイライト"に選出されて、今も一部始終が動画として再生されている。
*「奏音はいつもハイライトに上がっているし今更じゃ無い?」*
*「全然今更じゃ無い! 失ってはならない羞恥心的な何かがゴリゴリと音を立てて削れてる!! というか私ばっかり恥ずかしい失敗映像が晒されて不平等だよ!!」*
*「あはは、まぁ有名税みたいな物だよ、きっと」*
*「不当課税だ!!」*
与一の返信に鼻息荒くメッセージを返す。
ベーシックインカムが導入されて久しい現代において、何が悲しくてそんな意味不明な税金を取られないといけないのか、甚だ遺憾である。どこかに有名税に強い税理士はいないものか。
*「それはそうと"メメント・モリ"の担当エリアは何処にするつもりなの?」*
ちょうど相談しようと思っていた事を与一の方から切り出される。周囲への被害は兎も角、私がクランマスターを務める"メメント・モリ"は昨日のイベントで1位を獲得した。
再建を担当する地区はそのまま、今後クランが活動する勢力圏を意味する。私達のクランは現状、選びたい放題だ。
*「そーそれ! せっかくならお隣さんにできないかって!」*
*「それ良いね! 候補地は決まっているの?」*
ARに剛輪禍の地図を表示する。
候補は主に3つだ。
*「郊外の一番広いエリアか、川の横のエリアか……町中央の旧ランドマーク周辺かな?」*
*「町中央は他と比べてエリアが小さいけど、良いの?」*
*「立地としては悪く無いし……一応、私にも罪悪感的なのはある」*
*「あははは、でも中央は良いと思うよ?」*
*「ほう、その心は?」*
*「"メメント・モリ"が中央を占拠したら、間違いなく周辺エリアの人気が下がるからお隣さんになりやすい」*
*「なにゆえ!」*
*「普段の行動を思い出してみて?」*
与一の言葉に、これまでの行動が脳裏を駆け巡る。どうしよう、何1つ反論できる余地がない!
*「中央とりまーす」*
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