上 下
74 / 139
エターナルシア遺跡占領作戦

覚醒するタイプのJC

しおりを挟む
 何が起きたか理解できない。前回のイベントでべへモスが出てこなかったと言うことは、カドルと比べて成長率は大きく劣るはず。それがこうも一方的にやられるなんて常識では考えられない。

 呆然としている私をみてカタンが笑う。

「驚いている様だな」

「卵にレアリティがあるってこと?」

「随分な勘違いだな。お前達の様な上位クランが所有しているドラゴンの最大の理点はなんだ?」

「空が飛べること」

「そうだな、言い換えれば、お前達のドラゴンは飛行能力を得ることにリソースのほぼ全てを費やしている。ソレ以外の能力に関しては、余ったリソースを割り振っているにすぎない」

 カドルは自慢げな笑みを浮かべると、べへモスの金属の様にツルリとした翼を優しく撫でた。

「俺のべへモスは飛ぶことができない。その代わりに、お前達のドラゴンに比べて遥かに高い直接戦闘能力を有しているってわけだ」

「まー可愛い癒し系ペットのカドルと、そっちの筋肉モリモリ戦闘デブじゃ戦闘力に差があってもしょうがないよねー」

「ヒョロガリの空飛ぶナナフシが可愛いペットとは特殊な趣味をしているな」

 誰が空飛ぶナナフシだ、ガルルル。

 それはそれとしていよいよ後が無い。流石にあの爆発で無傷って事は無いだろうけど、べへモスの残り体力は未知数だ。
 しかも、私はMPとHPを使い切った瀕死ひんし状態。PK撲滅連合のプレイヤーはまだ10人以上残っている。

「仲間を巻き添えにしてでも足掻いた様だが、無駄だったな!」

 小脇に抱えていたシュクレを下ろす。

「あはは」

 私は乾いた笑を浮かべて構えを取る。

「……何がおかしい、どうして諦めない?」

「いや別にもうさ、勝てそうとか負けそうとか関係ないんだよね」

 チラリとシュクレの方へ視線を向ける。彼女の手と視線は、今までもずっと光の文字を向いていた。

「私はシュクレがこのパズルを解く時間を最後まで稼ぎ続けるだけだから」

 私の答えをカタンは鼻で笑う。

「こんなゲーム終盤に来る様な高難易度ダンジョンの最深部にあるパズルが、現時点で解ける訳ねぇだろ。もっとイベントが進んでヒントが出るか、総当たりでやったって数年はかかる代物……」

「……できた」

 カタンが言い終わるかどうかと言うタイミングで、小さな、小さなシュクレの呟きがこぼれ落ちる。だけどその言葉はこの場の全員、おそらくカタンの配信をみているプレイヤー達にも雷鳴の様に鳴り響いたに違いない。

 全員の視線が集まる中、シュクレの眼前に浮かび上がっていた半透明に光る文字が形を失い彼女へ流れ込んでいく。

「う、嘘だ! AIにやらせたってそんな短時間でできるわけ……」

 カタンが混乱し、うろたえて声を上げる。その一方で、シュクレは冷静さを保ち、穏やかな口調で彼に応じた。

「AIは人間の上位互換じゃありません。得意なこと、苦手なことがあります」

「暗号分析やパズルなんかはそのAIが得意とすることじゃないか!」

「人間側がAIと同じ様に、論理的に1つずつ全てのパターンを試していくのであれば、その通りですね」

「おい、どう言うことだ……」

「"理論"は人類が発明した概念の中でも特に優れた物ですが、無敵の発明というわけでもありません。だって、人間はすごく曖昧で、理論的とは程遠い存在ですだから」

「じゃあ、お前はどうやってパズルを解いたって言うんだ!」

「なんとなくの雰囲気と感です」

「ふ、ふざけるな! 何通りあると思っているんだ! ここまでの時間で試せるパターンだけで合致するのは天文学的な確率だぞ!」

「私は、ちょっとでも違う物を同じ物として丸め込んで認識できないんです。だから、日常会話ですらいつも違和感を抱えていました」

「それがどうしたって言うんだ!」

「この文字列の並びが何を意味しているかは分かりません、パズルがどう言う物だったかすら理解していません。私はただ、単語を私が違和感の感じない並びに直しただけ」

「ば、馬鹿な……」

「ムエルケさんは私の言葉を真剣に聞いて、理解してくれようとしてくれます。アニーさんは私の言っていることを理解できなくても信じてくれます。他にも、メメントモリの皆は現実世界で私が大っ嫌いだった私のこの変な所を認めてくれました。だから、私は私を認められた。だから、私はこの力を得られた!」

 シュクレが両手を広げる。
 彼女の両手を中心に魔法陣が浮かび上がった。

スペル・アクセラレーション詠唱加速!」

 本来シュクレが持っていないはずの発声起動スキルだ。彼女足元に魔法陣が展開される。
 
「ベヘ」

「********************!」

 早い!

 カタンが何かを言い終わるより遥かに早く、AGI特化の私でも聞き取れない速度でシュクレの詠唱が完了する。

「BUAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」

 シュクレの全身を覆う様に、半透明の巨大ながしゃどくろが現れる。その両腕には無骨で巨大な肉切り包丁が握られていた。

「モス!」

 シュクレがゆっくりと腕を突き出し部へモスを指し示す。がしゃどくろが即座に答え、べへモスへ襲いかかる。

「や……れ……」

 がしゃどくろが上半身を持ち上げ、両手で乱雑に肉切り包丁を振り下ろす。ただただ力任せの狂気的な連打だ。
 カタンが"べへモスやれ!"を言い終わる前に、彼のドラゴンは文字通り解体されてしまった。

「******************!」

 シュクレが空へ手のひらを掲げながら更に詠唱を完成させる。強烈な衝撃波と共に彼女の上空に禍々まがまがしい浮遊する眼球が召喚された。

「GEEEEEEEEEEIIIIIIIIIIIIII!!!!」

 浮遊する眼球から悲鳴の様な方向と共に無数の青色閃光がほとばしる。それらがカタンを含むPK撲滅連合のプレイヤーに襲いかかった。

「ば、化け物がぁぁぁぁぁあああああ!」

 PK撲滅連合のプレイヤー達はソレらを必死に避けようとするけど、それは叶わない。どれだけキャラクターの身体能力を上げたって、雨を避けることなんてできるわけないんだから。

「……」

 一帯に再び静寂が訪れる。

「うぉー! 詠唱教授スペル・プロフェッサーすげー!」

「暴君もやべー!」

 カタンの映像を見ていたであろう、一部のプレイヤーからエリアチャットが飛び交う。

「やったね、シュクレ」

「えへへ、頑張っちゃいました」

 私の突き出した拳に、シュクレも拳を合わせた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

アルケミア・オンライン

メビウス
SF
※現在不定期更新中。多忙なため期間が大きく開く可能性あり。 『錬金術を携えて強敵に挑め!』 ゲーム好きの少年、芦名昴は、幸運にも最新VRMMORPGの「アルケミア・オンライン」事前登録の抽選に当選する。常識外れとも言えるキャラクタービルドでプレイする最中、彼は1人の刀使いと出会う。 宝石に秘められた謎、仮想世界を取り巻くヒトとAIの関係、そして密かに動き出す陰謀。メガヒットゲーム作品が映し出す『世界の真実』とは────? これは、AIに愛され仮想世界に選ばれた1人の少年と、ヒトになろうとしたAIとの、運命の戦いを描いた物語。

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

Beyond the soul 最強に挑む者たち

Keitetsu003
SF
 西暦2016年。  アノア研究所が発見した新元素『ソウル』が全世界に発表された。  ソウルとは魂を形成する元素であり、謎に包まれていた第六感にも関わる物質であると公表されている。  アノア研究所は魂と第六感の関連性のデータをとる為、あるゲームを開発した。  『アルカナ・ボンヤード』。  ソウルで構成された魂の仮想世界に、人の魂をソウルメイト(アバター)にリンクさせ、ソウルメイトを通して視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚、そして第六感を再現を試みたシミュレーションゲームである。  アルカナ・ボンヤードは現存のVR技術をはるかに超えた代物で、次世代のMMORPG、SRMMORPG(Soul Reality Massively Multiplayer Online Role-Playing Game)として期待されているだけでなく、軍事、医療等の様々な分野でも注目されていた。  しかし、魂の仮想世界にソウルイン(ログイン)するには膨大なデータを処理できる装置と通信施設が必要となるため、一部の大企業と国家だけがアルカナ・ボンヤードを体験出来た。  アノア研究所は多くのサンプルデータを集めるため、PVP形式のゲーム大会『ソウル杯』を企画した。  その目的はアノア研究所が用意した施設に参加者を集め、アルカナ・ボンヤードを体験してもらい、より多くのデータを収集する事にある。  ゲームのルールは、ゲーム内でプレイヤー同士を戦わせて、最後に生き残った者が勝者となる。優勝賞金は300万ドルという高額から、全世界のゲーマーだけでなく、格闘家、軍隊からも注目される大会となった。  各界のプロが競い合うことから、ネットではある噂が囁かれていた。それは……。 『この大会で優勝した人物はネトゲ―最強のプレイヤーの称号を得ることができる』  あるものは富と名声を、あるものは魂の世界の邂逅を夢見て……参加者は様々な思いを胸に、戦いへと身を投じていくのであった。 *お話の都合上、会話が長文になることがあります。  その場合、読みやすさを重視するため、改行や一行開けた文体にしていますので、ご容赦ください。   投稿日は不定期です 「小説家になろう」でも投稿していますが、投稿は終了しています

処理中です...