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次回、二条銀次死す!! デュエルスタンバイ!!!

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 ブリーフィングから一週間、俺たちは調査を進め、○川区の港がPSI(サイ)密輸経路になっている可能性が高いという結論に至った。

 密輸現場の証拠が取れれば、もっと大規模な調査に移れる。

「先輩、道具と食料持ってきました」

 双眼鏡で港を見つめていると、背後から声がかかった。

「ああ、ありがとう」

 振り返ると、黒髪赤メッシュの如月(きさらぎ)が立っている。アンパンと道具を受け取りつつ、窓の外へ視線を戻す。

「SAKURAか……」

 道具の1つを腰に装着するが、ついついグチが溢れてしまった。

「先輩、それ嫌いですよね」

 俺のグチに如月が苦笑いで応える。

「別に嫌いな訳じゃないぞ、堅牢で使いやすくて、精度も良い。生産コストや耐久性の面でも、悪い物じゃないんだ」

 僅に反射する窓から、如月が体ごと首をかしげるのが分かった。全身で"ではなぜ?" と訴えかけている。今にも頭上にクエッションマークが浮かび上がりそうな勢いだった。

「要は、適した場所で適した道具を使いたいって話だよ。これは日本が今よりずっと平和だった頃のモデルだ。俺はSAKURAを目的に合わせて最適化され、長い間日本の治安を守ってきた名銃だと思っているが、弾丸がバリバリ飛び交う様な銃撃戦を想定した作りじゃない」

 窓の反対側に映る如月が、今度は反対側に頭を傾けた。まだいまいち分からないらしい。如月は半分一般人みたいな物だし、銃の話は難しいだろう。

「突発的の事件ならともかく、今時JKでももっとやばい拳銃持ってるからな。余程、射撃に自信がない限りSAKURAで銃撃戦をするのはリスクしかないって事だ」

 俺の知る限り、本格的な銃撃戦でこの銃を使いたがる人間は日本に一人しかいない。

「じゃあ、なんで本部はこんな物を?」

「長い間使われてきたせいで上の信用が高いし、まぁ……余ってる」

 ちなみに、ちゃんと銃撃戦をする装備も本部にはある。数は少ないし、余程の事態にならないと出てこないんだが。

「如月も、間違ってもそれで戦おうなんて思うなよ」

「あー、今の山は、撃ち合いになったら相手は小銃がコンニチワしかねないですもんね」

「その通りだ」

 如月とそんな話をしていると、港の方でマズルフラッシュと共に銃声が轟く。今時、夜中に銃声の1つや2つはそれほど珍しくもない。

「おいおい、複数箇所から、近所迷惑も考えずにバリバリと……」

 銃声とマズルフラッシュを頼りに双眼鏡を覗くと、海上にクルーザーが見えた。○川区は港から川までのアクセスが簡単で、金持ちのクルーザーや屋台船が結構止まっている。

「金持ちのクルーザーに紛れて川まで上がって、川に直結されてる民家のどこかから物を移していたのか」

 ○川区は成り立ちの歴史的経緯から全体的に海抜が低い。あちこちに川と橋があり、民家から直接降りられる様な川もまだまだ残っている。

「個人用クルーザーで大陸横断は流石にリスキーじゃないですか?」

「法律上の問題を除けば、物理的には割と行けるらしいぞ。まぁ、偽装が目的なら途中で母船からクルーザーだけ送り込んでも良いしな」

 この状況、高確率で撃ってるのはPSIカルテルの連中だ。俺には銃声で銃の種類を言い当てる様なスキルは無いが、発射間隔からしてフルオート系が何丁もある。当然、俺たちの戦力で取り押さえられる規模じゃない。

「先輩、これ、どうするんですか? めっちゃ撃ってますよ?」

「行くぞ」

「はぁ!?」

 俺の返事に、如月が素っ頓狂な声をあげる。半ば予想していたが、その派手なリアクションにちょっと笑う。

「ははは」

「ハハハ、じゃなくて!」

 如月が憤慨して俺の方を睨む。

「なぁ、如月。なんで日本は今まで海外のPSIカルテルの餌食になってなかったと思う?」

「えっ……それは、現地でPSIを入手するのが困難とか、密輸コストの関係とか、自警団の存在とか……」

「俺も正確な事は言えないが、多分複合的な事情で実現困難だったんだろうな」

「それが今、関係あるんですか?」

「今、PISカルテルが日本進出を目論んでるって事は、その実現困難な状況を打開できるだけの算段がついたって事だろ?」

「……そうなりますね」

「そんなPSIカルテルが、デリケートかつ、細心の注意を払うべきPSIの密輸中にここまで大々的に撃ちまくってるのは何故だ?」

 俺の質問に、如月が考える。あまり悠長にしている時間はないが、多分、それほど時間はかからない。

「現時点でそれを特定するのは困難です。でも、PSIカルテルにとって密輸ルートが露見する以上に重大な何かが起こったって事ですね」

 数秒の沈黙の後、如月は自信無さげに俺の方を見上げて答えた。満足のいく回答に俺は口角を上げて、彼女の頭に軽く手を載せる。

「その通りだ。頼めるか?」

 正直、リスクはある。

 だがここでPSIカルテルの心臓を抑えられれば、今後の被害や労力を最小限にできるかもしれない。費用対効果で見れば悪くないチャレンジだ。

「はい!」

 如月が懐(ふところ)から直径10cm、高さ5cmの円錐状の箱を取り出す。蓋を開けると中には緩衝材が大量に詰まっており、中央には一錠のカプセルが入っていた。彼女はそれを飲み込むと一度目を瞑る。

 数瞬後、金色に脈打つ瞳が開かれる。
 瞳孔は縦に細長く、猛禽類のそれだ。

「すごく、小さい。遅い……知性はある、弾道予測? 見失ってるけど、方角は分かっていて、探索済みの範囲とプロファイリングの移動予測からして……」

 如月は独り言を呟きながら窓を明け、ベランダへ身を乗り出す。

「先輩、見つけました。これ、とりあえず子供ですね」

 とりあえず?
 いや、今は言葉尻を気にしている状況じゃないな。

「どの辺りだ? 「あっちのアパートの裏に廃屋があります。その庭に生えている木の根元です!」」

 俺の質問に如月が食い気味に応える。

「行くぞ!」

 俺もそれに答えて、ベランダから飛び降りた。

 超能力者は自分で身体能力を強化できる。それなりに疲労、俗に”魔力”なんて言われる物を消費することになるが。
 第3世代の俺は8階ぐらいから降りるのは造作もないし、如月もブースト直後なら問題ないだろう。




 夜の港町を如月と二人で駆ける。俺たちがいたビルからは見えなかったが、確かにアパートの裏に廃屋があった。

「見つけた!」

 如月の言う通り、銀髪の幼女が木の影に蹲っていた。だが、最悪の状況だ。俺たちが見つけると同時に、PSIカルテルの構成員と思われる男も彼女を見つけ、小銃を構えている。

「くそ!!」

 当たり前の話だが、人は銃で撃たれると死ぬ。

 拳銃弾の一発や二発なら当たり所によるかもしれないが、アサルトライフルで蜂の巣にされればどうしようもない。どうしてこんな幼女がPSIカルテルから本気で命を狙われているのか。

 確かなのは、この幼女の事は諦めるしかないということだけだ。

「先輩!?」

 銃声が響く。
 アドレナリンのお陰か、痛みはそれほどでもない。

「ガフッ……」

 口から血が溢れる。目の前に、泣き腫らした子供が命の危機に晒されている。中年のおっさんが銃口に背中を差し出す理由なんて、それで十分だろ?
 
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