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3.小さなホームギルド

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「ギルドへようこそ……って、スカーレットさん!」
「ああ、帰ったよ」

 コロンコロンと、木彫りの鈴が頭上で音を立てるのを耳にしながら、ギルドの扉をくぐった。
 ずり、ずり、と引きずる片足に視線が集中する。

「朝の混む時間からはずれているから、人目は避けられる算段だったんだが」

 やっぱり今日はとことん運が向いていないようだ。
 傭兵は信用がモノを言う。荒くれものの人口が多いから、質の高い依頼はどうしても悪い噂のない奴が人気があるのだ。嘘を吐かない、依頼の内容を違えない。後遺症が無い。とかね。
 街はずれの馴染みのギルド支部をスクロールの基点にしていたのだが、さすがに無人とはいかなかったか。

 ギルドの受付をやっているのに、血に弱い駆け出しのグレンが小さく悲鳴をあげた。

「どうしたんです、その怪我!」
「大きな声はやめとくれよ。どうしたもこうしたもないだろ。傭兵なんだから、依頼でしくじっただけさね」

 解体の依頼を出そうとすると、奥から細身の女性が出てきた。
 グレンの悲鳴を耳にしたのか、形のいい眉がきゅっと寄せられている。

「あら、スカーレット。派手にやられたわね」
「ティアナ」

 片手をあげて挨拶をしながら、解体を頼みたい旨申し出た。

「珍しいわね……貴女、いつも自分で解体して持ってくるじゃない」
「今回はちょいと疲れててね。この寒さだ、今日はもう水を触りたくないんだよ」

 行儀悪く肩肘を受付に乗せる。
 グレンが手ぬぐいを濡らして持ってきた。
 小さくお礼を言い、帽子を脱いで額にあてがう。

「やだ。ポーションは?」
「これから買いに行く。ひどいか?」
「痕が残ってるわ」
額の傷こっちでそうか……参ったね」

 解体してる間に、これ飲んで部屋で待ってなさい。そう投げつけるように言って小瓶を渡してきたティアナが、持ってきたアイテムボックスを手に受付の奥へ戻っていく。
手拭いで可能な限り汚れを落としていたら「人の目が気になるでしょう?」と、グレンが打ち合わせをする小部屋に案内してくれた。
 革鎧の上に着ていた防寒用のマントを、汚れが部屋に落ちないよう内側へ巻いてその上に座り込む。

「スカーレットさん……椅子は」
「ありがとうよ。でもその布張りの椅子を汚しちまうから」

 さあ、仕事に戻りな。
 そう言うアタシに後ろ髪を引かれるグレンの背中を見届けてから、グイっと濃い紫の瓶を呷った。

「うっ、ぐ、はあ、ティアナの薬は良く効くね……っったたた」

 グレンに言ったことは理由の一つだが、あのエルフが作ったポーションは抜群に効き目が良い。
 街の店で買った低級ポーションで治りきらなかった怪我が、痛痒いを通り越してカッと熱持つように痛みだした。
 敷物が無い部屋の隅で寝転がり、傷を負ったほうの脚を抱え込む。

 額にふつふつと脂汗が滲んでいった。


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