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14.補給部隊へ
しおりを挟む「ねえ、ねた? アキラ」
「ううん」
寝巻きとして学校のジャージを着て、二人でベッドに横になる。
板張りに厚い布を敷いただけの、かったいベッド。
寝れないことはないけれど、明日の朝には体痛くなってるだろうな。
窓から見える月は、太陽と同じく一つだけだった。けれど色味は青く、そこに慣れ親しんだウサギの姿は無かった。
「なんか……皮肉なことに、バイトが無くなったからさ、体調めっちゃ楽」
「あー、なるほど?」
「うん。こんな早い時間に横になるの、すごい久しぶりかも」
「……正確には今、何時なんだろうね。この世界で」
この世界が元と同じように、一日は二十四時間なのか、一時間が何分なのか。体感としてはあまり差が無いように感じるけれど、それを確かめる手段がない。この街の中央にある櫓のような塔から、朝と正午と晩に鳴る鐘の音を聴くか、あとはお日様と体感で動くのが庶民の働き方らしい。
貴族は懐中時計みたいなものを持ってるとか。
アイテムボックスから取り出したスマートフォン。電源を入れると、その電波は当たり前だが圏外で、不思議なことに時間は文字化けしていた。
「ネットつながんないの本当にツラい」
「わかる~」
「今日は時間が過ぎるの、遅く感じるなあ……」
それでも触れるだけで安心する。
スマホ依存症だとは思っていたけど、思ってたよりずっとどっぷり浸かってたんだな。と、ため息をついた。
まだ八割ほど残っている充電。
電気のないこの世界でみる電子的な明かりはやけに眩しい。アロマキャンドルやら暖炉やら、灯る火の明かりを「チルい」と言って褒めそやしていたワイドショーを思い出した。
ほんのり茶色い蝋燭の先で、黒く煤の飛ぶ様子が見える火は、今の私とっては心落ち着くものではなく。それしか無い世界ではチルどころか不安が先に勝つようだ。
写真のアプリを開いては元の世界のことに想いを馳せる。
何だか急激に悲しくて、寂しくなって。
私は無理矢理眠ろうと目を閉じた。
翌朝、聞き慣れない鳥の声に目を覚ます。
白々と明けていく空。暁の光に、朝焼けなんていつぶりに見ただろうか。とぼんやり思った。
欠伸をしながら近くの井戸に行って水を汲み、昨日洗っておいた大鍋でお湯を沸かす。ビューラーをあっためる為に持っていたライターがあって本当に助かった。
今どきホットビューラーを持ってないなんてと揶揄われたりもしたけれど、異世界に呼ばれた時のためにみんな持っときなって教えてあげたい。
ヒナと二人、湯冷しで歯を磨き、私は偽装を解いて体を拭いた。
「アキラの完全偽装って、夜寝てても大丈夫なんだね」
「あ、男のままだった?」
「うん」
「良かった。寝てる時まで気を張らなくて済むわ」
「……ねえ、男の朝ってさあ……」
「やめて。答えないからね」
含みのある顔でヒナが私を覗き込んでくる。
男の人が朝、起きてしまう理由をこんなことで知りたくなかった。
ぎゅうと締まる腰回りの筋肉。血が集まっている感覚。そんなところまで変化があることに驚き、赤面し、慌てて井戸に向かう羽目になるとは。
本来の線の細くなった自分の体を拭きながら、思い返しては恥ずかしくなった。
「服は昨日と一緒でいいよね」
「てかそれ以外ないしね」
「元の世界のものは出すの怖いわ」
ただ朝の支度をするために外に出ないといけないことの面倒さや、王族達の愚痴などを二人でぶつぶつこぼす。
最後にそれぞれのバッグをアイテムボックスに仕舞って、ライアンさんに指定された場所へ向かった。
「おはよう。二人とも、眠れたか?」
社宅の井戸近くで、ライアンさんが待っていてくれた。私に対してやけに良い笑顔だ。
「おはようございます」
「おはようございます!思ったよりぐっすり寝ました」
「……そうか。ユナ嬢、それは何よりだ」
ヒナの言葉に、ライアンさんは笑顔の質を変える。
まるで「おやおや」と言いたそうな。天気の話を交わしつつ、ちらちらと残念な子を見る顔で私に視線を送ってきた。
なんだろ。
キリのいいところで話を切りあげる。ヒナが見てないときに芝居がかった様子で肩をすくめる動きをしてから、ライアンさんは道を歩き始めた。
「早速今日から正式に仲間だな」
「よろしくお願いします!」
「ああ。アキラ達の配属先は基本気のいい奴等ばかりだから安心するといい。金勘定や計算が出来るとなお良いが、まあ追々慣れるだろう」
王城を護るようにぐるりと敷設された広い敷地を歩き、石造りの門に入る。
近づくにつれて人の声が増えていった。
丸太で出来たカカシのようなものが壁に沿って並んでいる。その前で組み手をする人たちの声のようだ。
基本的に男の人の声ばかりだが、隣接する建物から洗濯物をかかえたおばさんや厨房から女の人の声もする。芋の皮剥きをしている女の人は私たちより少し歳上くらいだ。
皮剥きって外でやる作業なの? と不思議に思っているうちに、ライアンさんが歩みを止めた。
男の人が四名、女性は二名。いくつかの木箱を検分している。
「ゲーリヒ」
「おはようございます! 曹長」
「補給部隊に、新規隊員が追加されることになった。紹介しよう」
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