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「闇の絵画:過去を解き明かす鍵」
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矢部純は都心の喧騒を背に、目の前の古びた屋敷を見上げた。風がそよぎ、屋敷の周りに立っている老木たちが軋む音を立てていた。その屋敷からの依頼でここへ足を運んだのだが、なぜこんな場所で盗難事件が?と、彼は心の中で疑問を抱いた。
屋敷の大きな扉を叩くと、中からシワが深く刻まれた中年の執事が現れた。「あなたが矢部純探偵?」と彼は聞いてきた。
「はい、そうです。」矢部は短く返答すると、執事は屋敷の奥へと案内した。
奥の部屋で彼を待っていたのは、坐っているだけで気高さを放つ中年の男性、彼が屋敷の主・柳原雅也だった。彼は矢部に深い頭を下げ、盗まれた絵画の件での協力を願うと言った。
「正確には盗難ではなく、絵が置き換えられてしまったのです。」
矢部は驚きの表情を浮かべながら、その絵画を見せてもらうことになった。絵は、見る角度によっては何も描かれていないように見えるが、よく目を凝らすと暗闇の中に人の顔が描かれているのが確認できる。
「これは...」矢部の記憶の中で何かが蠢き始めた。この絵、どこかで見たことがある。しかし、彼はそれを追求するよりも、まず事件の真相を明らかにすることに専念することに決めた。
柳原家での調査が始まった。屋敷内のスタッフや家族の話を聞く中で、矢部はこの家に隠された様々な秘密や確執を知ることになる。そして、その絵画の奥に隠された過去と、彼自身の過去との関連が徐々に明らかになっていく。
ある日、夜更けの屋敷で矢部は奇妙な声を耳にした。声のする方へと進んでいくと、絵画が掛けられていた部屋で柳原雅也がうずくまっていた。彼の目は恐怖に満ち、絵画の方を指していた。
「あれは、本当にただの絵ではない。」柳原は震えながら言った。
矢部がその絵画を再び観察すると、以前にはなかった血の跡が滴っているのを発見する。この絵画と、柳原家に隠された過去、そして矢部自身の過去との関連。全ての謎がこの絵画に隠されているのかもしれない。
彼は絵の中に隠された真実、そして自身の抱える過去の影を追う決意を固めるのだった...。
矢部は、絵画の研究者として知られる古美術商の田中先生にこの絵の調査を依頼した。彼の店に絵を持ち込むと、田中は一瞬驚きの表情を見せたが、すぐに冷静さを取り戻した。
「この絵… かつて伝説の画家、蓮見望という人物が描いたとされる『闇の中の顔』という絵に似ています。」
「蓮見望?」
「はい、彼は20年前に謎の死を遂げた画家です。彼の絵は、持ち主の過去の罪を浮き彫りにするという都市伝説があります。」
矢部はぞっとする。柳原家の人々の間に確執があること、そして絵の持ち主の過去の罪が関連しているのかもしれない。
田中先生はさらに話し続けた。「しかし、その伝説の真偽はともかく、この絵は蓮見望のものとは思えません。筆使いや色彩が異なります。」
「では、この絵は一体…」
「柳原家の誰かが、何かの意図を持って作成したものか、あるいは外部から持ち込まれたものでしょう。」
矢部は、田中先生の話を聞きながら、絵画に隠された真実を探ることに更なる決意を固めた。彼は再び柳原家へ戻り、家の者たちに絵に関すること、特に最近の出来事や変わった動きがないかを尋ね始めた。
柳原家の長女・悠里から興味深い情報を得ることができた。「実は、少し前にお父さんが古い日記を見つけていました。それが何かのきっかけとなって、この絵が屋敷に持ち込まれたのかもしれません。」
日記を手に取ると、そこには20年前の柳原家の家族の日常や出来事が詳細に書かれていた。矢部は日記を読み進めるうち、柳原家と蓮見望との深い関係を知ることとなる。
柳原雅也の父、つまり悠里の祖父が、蓮見望とは旧知の仲であり、彼の死の真相を知る鍵を持っていたことが明らかになった。
矢部は深夜まで日記を読み進め、ついに最後のページにたどり着いた。そこには驚くべき告白が書かれていた。
「私は蓮見望の死の真相を知っている。彼は私に絵を描いて欲しいと頼んできた。しかし、その絵が原因で彼は死んだ。私はそれを隠蔽してきた。」
日記の最後には、柳原家の祖父の署名があった。
矢部はこの日記を手がかりに、柳原家の過去と絵画の謎を解き明かすべく、再び調査を進めることとなった。絵の真相、そして家族の中に隠された真実。これらは矢部の前に次々と立ちはだかった。そして、この家の中で繰り広げられる人間ドラマも彼を待ち受けていた。
翌日、柳原雅也は矢部を屋敷の一室に招き、静かに話し始めた。
「実は、蓮見望と我が家との間には、知られざる秘密があります。」彼は苦しそうに言った。「私の祖父は、蓮見とは深い関係にありました。彼の死の真相も知っていたのです。」
雅也の声は震えていた。彼は続けて言った。「私たちの家は、かつては芸術家や詩人を支援する役割を果たしていました。蓮見もその一人で、我が家に頻繁に出入りしていたのです。しかし、ある時を境に彼と祖父の関係は急激に冷え込んでしまった。」
「それは何故ですか?」矢部が尋ねると、雅也はしばらくの沈黙を経て答えた。
「蓮見が私の祖父に頼んで描かせた絵…それが、彼の死の原因となったのです。その絵がこの『闇の中の顔』…。」
柳原家の秘密の部屋に保管されていたその絵。それは蓮見自身が描いたものではなく、柳原家の祖父によって描かれたものだった。しかし、その絵を完成させた直後、蓮見はこの世を去ってしまった。
「蓮見はその絵に自らの魂を閉じ込めたと言われています。彼の魂が叫ぶ声、絶望の声がその絵の中に刻み込まれているのです。」
矢部は、この事件の背後に隠された真実を解き明かすために、更なる調査を始めることとなった。彼は、柳原家に眠る古い文献や日記を読み漁り、事件の核心に迫っていった。
やがて、矢部は蓮見が生前に綴った手紙を発見する。その手紙には、彼が柳原家の祖父に対して抱いていた感謝と愛情、そして絵を描いて欲しいという熱烈な願いが書かれていた。
しかし、その手紙の最後には、こんな言葉が記されていた。
「私の魂を絵に閉じ込めることができれば、私は永遠にこの世を去らないでしょう。」
この手紙を読んだ矢部は、蓮見が自らの死を予感していたのではないかと考えた。そして、その死の真相を探るため、再び柳原家の秘密を追い求めることとなった。
深い闇の中に隠された真実。矢部は、蓮見望の死と柳原家との関係を解き明かすため、夜の屋敷を探索し続けた。過去と現在が交錯する中、彼はついに謎の核心に迫ることとなる。
屋敷の奥深くには、柳原家の先祖たちが代々伝えてきた秘密の部屋が存在していた。矢部は、この部屋にこそ、蓮見望の死の真相が隠されているのではないかと確信していた。蓮見の手紙に記されていた内容を元に、彼はその部屋を探し当てることに成功する。
部屋の中には、古い絵画や文献、そしてさまざまな魔術に関する道具が並べられていた。そして、部屋の中央には大きな絵画が掛けられていた。その絵の題名は「魂の螺旋」。矢部は息を呑みながらその絵を見つめた。絵の中には、死の直前の蓮見望の姿が描かれていた。彼の顔は苦悶の表情を浮かべ、その周りにはさまざまな幽霊や魔物が舞い踊っているようだった。
その絵の下には、小さなノートが置かれていた。矢部はノートを手に取り、その中身を読み始めた。
ノートには、柳原家の先祖たちが代々記した、家に伝わる呪術や魔術に関する記録が綴られていた。そして、その中には「魂を絵に封印する呪術」に関する詳しい方法が記述されていた。
矢部は、この呪術が蓮見望の死と深く関わっているのではないかと考えるようになった。蓮見が柳原家の祖父に頼んで描かせた絵は、この呪術を使って彼の魂を封印するためのものだったのだ。
しかし、なぜ蓮見は自らの魂を封印することを望んだのか?その理由を探るため、矢部はさらにノートの中身を読み進めた。
ノートの最後のページには、蓮見望自身が記したと思われるメモが残されていた。
「私の魂は、この絵に封印される。しかし、私は死んでしまった。この絵を描いてくれた柳原家の先祖には感謝している。しかし、この呪術には一つの条件があった。私の魂を封印することで、私は永遠の命を得ることができる。しかし、その代わりに私はこの絵の中で永遠に閉じ込められることとなる。私はそのリスクを承知で、この呪術を選んだ。私の命は、この絵の中で永遠に続く。」
矢部はノートを閉じ、部屋を後にした。彼は、蓮見望の死の真相を知ることができた。しかし、その真相はあまりにも深く、彼の心に重い影を落とすこととなった。
彼は柳原雅也に、全てを伝えることを決意した。そして、二人は蓮見望の魂を解放するための方法を探し始めることとなる。
矢部は柳原雅也に会い、彼に「魂の螺旋」という絵と、柳原家の秘密の部屋で見つけたノートの内容を説明した。雅也は驚き、同時に家族の古くからの伝統に深い興味を抱くようになった。
「私たちの家族には、魔術や呪術の力を持つ者が多く存在していた。私自身も、祖父から多少のことは教わっていたが、こんなに強力な呪術が存在するとは思っていませんでした。」雅也は言った。
二人は、蓮見望の魂を絵から解放する方法を探るために行動を開始した。ノートには具体的な解放の方法は記されていなかったが、他にも手がかりとなる文献や道具が秘密の部屋にはあるかもしれないと考え、再び部屋を訪れることにした。
部屋に戻ると、今度は壁に埋め込まれた書棚に目をつけた。多くの古書や手紙、日記が収められており、中には柳原家の先祖たちが綴ったことが記されているものもあった。
矢部がある古への手紙を手に取った時、何か特別なものを感じた。手紙の差出人は、雅也の曾祖父、柳原紀之進であり、内容は彼の友人へ宛てたものだった。紀之進は手紙の中で「魂の螺旋」という絵の秘密と、それを解放する方法について触れていた。
手紙によれば、絵の中に封印された魂を解放するためには、絵の前で特定の呪文を唱える必要があった。しかし、その呪文は破られてしまい、何を唱えるべきかは不明だった。
「この呪文…どこかで見たことがあるような…」雅也が言った。彼は思い出すように、部屋の中を物色し始めた。そして、少し時間が経った後、一冊の古書を手に取った。
「これだ!」雅也は古書の中の一ページを指差した。そのページには、解放の呪文とされる言葉が記されていた。
二人は絵の前で呪文を唱えることを決意し、夜を待った。夜になると、二人は絵の前に立ち、呪文を唱え始めた。一度、二度と唱えるうち、絵の中の風景が動き始め、やがて蓮見望の姿が絵から飛び出してきた。
「ありがとう…」蓮見望は微笑みながら言った。そして、彼の姿は次第に透明になり、消えていった。
矢部と雅也は、蓮見望の魂を解放することに成功したのだった。そして、二人はそれぞれの道を歩むこととなり、この出来事は柳原家の歴史の中で語り継がれることとなった。
矢部と雅也は、蓮見望の魂を解放した後、柳原家の館を後にした。だが、事件の余波は二人に深い影を落とすことになる。
数週間後、矢部は雅也から一通の手紙を受け取った。手紙には次のように書かれていた。
「矢部さん、
蓮見望の魂を解放した後、奇妙な現象に見舞われるようになった。家の中で奇妙な音が鳴ったり、物が動いたり…。一度、深夜に目を覚ました時、自分の部屋の窓に紫の光が差し込んでいた。窓の外には、奇妙な形の生物が浮かんでいて、私をじっと見つめていた。以来、その生物を何度か見かけるようになった。何か悪意を持って私を狙っているようだ。これは、私たちが絵の中の魂を解放したことに何か関連があるのだろうか。
心配しています。何か情報や助言があれば、教えてください。
雅也」
この手紙を読んだ矢部は、何か大きな力が動いていることを感じた。彼は即座に柳原家を訪れることを決意する。
再び柳原家の館に足を運んだ矢部は、雅也に会い、彼の言葉を聞いた。雅也は、以前とは違い、やつれた様子で、深い恐怖を感じさせた。
「私たちが蓮見望の魂を解放したことで、何か別の存在が目をつけてきたようだ。」雅也は顔をしかめて言った。
矢部は、この新たな脅威に立ち向かうため、再び柳原家の秘密の部屋を調査することを提案。部屋の奥にあった古い棚から、一冊の書物を発見。その書物には、柳原家の先祖が封印した「禁忌の存在」と呼ばれる生物について詳細に記述されていた。
「禁忌の存在」とは、かつてこの地に住んでいた古代の生物で、人々を恐れさせていたという。しかし、柳原家の先祖によって封印され、長い間その存在は忘れられていた。しかし、蓮見望の魂を解放したことで、その封印が解かれてしまった可能性があるという。
矢部と雅也は、この「禁忌の存在」を再び封印するための方法を探し始めた。そして、ついにその方法を発見するが、それは非常に危険なものであった…。
書物によれば、「禁忌の存在」を封印するための方法は、先祖が用いた封印の呪文と、特定の祭具を使用することだった。しかし、その祭具は現存しないと考えられていた。
「この祭具をどこで見つけられるか、また見つけたとして、どのように使用すればいいのか。」矢部は思案のしどころであった。雅也は少し考えた後、「祭具に関しては、先祖が使用したとされるものが、家の地下室に保管されているかもしれない。」と言った。
二人は地下室へと向かい、多数の古い箱や棚を探し始めた。しばらく探していると、雅也がある小箱を発見。箱の中には、銀色の小さな竪琴のようなものと、数枚の古びた紙が入っていた。
「これが…」雅也が紙を広げてみると、封印の呪文が記されていた。しかし、紙には一部が欠けており、完全な呪文を唱えることができなかった。
「何とかして、この欠けた部分を補完しないといけない。」矢部が言った。
二人は柳原家に伝わる古文書や記録を調べ始めた。長時間の調査の末、ついに欠けていた部分の呪文を発見。矢部と雅也は、すぐに地下室へと戻り、祭具と共に封印の儀式を開始した。
静寂が広がる地下室の中、矢部と雅也は呪文を唱え始めた。竪琴のような祭具からは、深い音が響き渡り、空気が震えるように感じられた。突然、地下室の壁から紫の光が溢れ出し、その光の中心に「禁忌の存在」が現れた。恐ろしい姿をしたその存在は、矢部と雅也に向かって迫ってくる。しかし、二人は怯むことなく呪文を唱え続けた。
とうとう、呪文の最後の部分を唱え終えると、地下室全体が白い光に包まれた。その光が消えた後、「禁忌の存在」の姿は消えていた。
「やった…。」雅也が安堵の表情を浮かべる中、矢部も深いため息をついた。
「これで、再び封印された。」矢部が言った。
「ありがとう、矢部さん。」雅也が感謝の言葉を述べた。
二人は柳原家の秘密を再び封印した後、それぞれの日常に戻った。しかし、その経験は二人の間に深い絆を生み、彼らの人生に新たな章を刻むこととなった。
数日後、矢部は仕事から帰る途中、急に不安な感覚に襲われた。彼の中で何かが訴えかけてきているようだった。家に帰ると、雅也からのメッセージが届いていた。
「矢部さん、どうかしています。再び何かが動き出しているようです。家に来てください。」
矢部は急いで柳原家に向かった。雅也の顔色は青ざめ、彼の背後には、紫色の煙が渦巻いているのが見えた。
「矢部さん、我々が封印したはずのものが、完全には封じられていなかったようです。」雅也の声は震えていた。
「何故、こんなことが?」矢部が言った。
「この家には、さらなる秘密が隠されていたようです。私の家系に伝わる、もう一つの伝説…」雅也は続けた。
それによると、禁忌の存在を完全に封じるためには、一つだけ祭具と呪文だけではなく、柳原家の者が直面する試練を乗り越えなければならないという。
「試練とは何か?」矢部は問いただした。
「それは…」雅也は少しの間を置いた後、「私の命を犠牲にすること。」
矢部は驚愕した。何故、そんな重大なことを先に言わなかったのか。しかし、雅也の顔には決意の色が浮かんでいた。
「私は先祖たちと同じく、家のため、そしてこの町のために命を捧げる覚悟があります。」雅也は力強く言った。
矢部は何とかして、雅也の命を救いたいと強く思った。彼は再び、古文書や書物を繰り返し調べ始めた。数日の研究の結果、ある可能性を見つける。それは、柳原家の先祖の一人が書き留めた、代替の方法であった。完全な封印のためには、強い絆と信頼を持った二人が、共に心を一つにして封印の儀式を行うこと。その際、封印の力は倍増し、命を犠牲にすることなく禁忌の存在を封じることができるという。
矢部は雅也にこの方法を伝え、彼と共に儀式を行う決意を固めた。そして、再び祭具と呪文を用意し、最終的な封印の儀式を開始した。
矢部と雅也は、柳原家の最も古い部屋、封印が行われたと言われる部屋の中央に立ち、祭具を配した。部屋の雰囲気は一層重くなり、その中で矢部は雅也と手をつないだ。二人の間に流れる熱い絆と信頼が、この儀式の成功の鍵となるはずだった。
古文書に記されていた通りの手順で、矢部は呪文を唱え始めた。雅也はそれに合わせ、彼と心を一つにするように深呼吸を繰り返した。部屋の中に光が満ち始め、紫色の煙は徐々に消えていった。
しかし、封印の最中、突如強風が部屋の中を吹き荒れ、矢部と雅也は地面に投げ出された。何者かの怒りのような力が、儀式を阻止しようとしていた。
「諦めない!」矢部は雅也の手を強く握り、再び立ち上がった。二人は再び祭具の周りに集まり、前よりも強く、深い絆と信頼で心を通わせながら呪文を唱え続けた。
時はゆっくりと流れているかのように感じられたが、矢部と雅也の努力が実を結んだ瞬間が訪れた。強風は消え去り、部屋の中は再び静寂に包まれた。紫色の煙は完全に消え去り、何事もなかったかのような平和な空間が広がっていた。
矢部と雅也は、互いに手を握り、安堵の笑顔を交わした。禁忌の存在は完全に封じられ、柳原家と町の安全は守られた。
数日後、矢部は柳原家を訪れた。雅也は庭でお茶を用意して待っていた。
「矢部さん、ありがとうございました。おかげで我々の家の歴史は守られました。」
「いえ、私もあなたと共に、大切なものを守ることができて嬉しいです。」矢部は微笑んだ。
二人は庭でお茶を楽しみながら、これからの未来について語り合った。矢部と雅也の間には、封印の儀式を通じて築かれた深い絆が生まれ、それは二人の間に芽生えた新しい感情の始まりとなった。
禁忌の存在との戦いを経て、二人は新しい未来へと歩み始めた。その先には、未知の冒険や困難が待ち受けているかもしれないが、彼らは互いに手を取り合い、一歩一歩前進していくのだった。
柳原家の禁忌を解決した後、町の人々は矢部と雅也の勇気を称賛し、二人は地元の英雄として知られるようになった。特に、矢部と雅也の深い絆と共闘ぶりが町の人々の間で話題となった。
数ヶ月が経ち、矢部は新たな情報を手に入れて雅也のもとを訪れた。
「雅也、新たな情報が入ったんだ。」矢部が真剣な面持ちで言った。
「どういうこと?」雅也は驚きの表情を浮かべた。
「近くの山奥に、古代の文明が眠るという遺跡があるらしい。それと同時に、そこには何か大きな力が封じられているとも言われている。」
雅也の目がキラリと輝いた。「また新しい冒険が待っているのね。」
「正確な場所や詳細はわからない。ただ、行くとしたら危険も伴うだろう。だが、僕たちなら何とかできるはずだ。」
雅也は矢部の目を真っ直ぐに見つめた。「私も行くわ。二人なら、何も怖くない。」
矢部はほっとした笑顔を見せた。「ありがとう、雅也。」
翌日、二人は必要な装備と食料を準備し、山へと向かった。遺跡を目指して山を登りながら、二人は自然の美しさや動植物に感動した。しかし、同時に未知の危険も待ち受けていた。
夜になり、二人はキャンプを張った。星空の下、雅也は矢部に近づき、低い声で言った。「あの、矢部さん。私、矢部さんのことが…」
矢部は驚きの表情で雅也を見つめた。しかし、その瞬間、地響きと共に大きな影が二人の前に現れた。それは、遺跡の守護者とも言える巨大な生物だった。
「雅也、気をつけて!」矢部は雅也を後ろに引き、剣を構えた。
巨大な生物は獰猛な眼差しで二人を見つめ、そのまま襲い掛かってきた。
矢部と雅也は、以前の経験を生かし、息を合わせて戦った。彼らの絆と連携は、巨大な敵に立ち向かう力となった。
戦いの最中、雅也は矢部に告白する勇気を振り絞り、彼の耳元でささやいた。「矢部さん、私はあなたのことが好きです。」
矢部は驚きながらも、雅也の手を取り、力強く握り返した。「私も、雅也。」
その言葉に勇気をもらった二人は、巨大な生物を退けることに成功し、遺跡の中に足を踏み入れることができた。そこには、古代の文明の名残と、封じられた大きな力が眠っていた。
しかし、二人はそれを手にすることはせず、ただ町の人々に報告するために戻ることに決めた。彼らの目的は、大きな力を手に入れることではなく、互いに深まる絆と共に冒険を楽しむことだったからだ。
帰路についた二人は、山の中での出来事を振り返りながら、これからの未来について語り合った。矢部は雅也に、自分の感じていること、考えていることを正直に伝えた。「雅也、あなたに出会って、私の人生は180度変わった。今まで冒険や探求の中心にあったのは物の価値や名誉だった。でも、あなたと一緒に過ごす中で、人との絆や愛情の大切さを感じるようになった。」
雅也も矢部の目を見つめながら、感謝の気持ちを伝えた。「矢部さん、私も同じです。一緒にいると、自分が強く、勇敢になれる気がします。これからも、私たちの冒険は続いていく。」
町に帰った二人は、遺跡の発見と巨大な生物との戦いの経緯を町の人々に伝えた。その話は、町の人々に大きな感動をもたらし、多くの人々が矢部と雅也に感謝の意を表した。
日常に戻った二人は、それぞれの生活を送りながらも、密かに次の冒険の計画を練り始めた。そして、ある日、雅也は矢部に一つの提案をする。
「矢部さん、私たち、冒険家としての活動を正式に始めてはどうでしょうか?」
矢部は驚きの表情を浮かべたが、すぐに笑顔になった。「いいと思う。私たちの絆や冒険の経験を、もっと多くの人々と共有したい。」
そして、二人は冒険家としての活動を始めることを決意し、町の人々にその意向を伝えた。町の人々は、矢部と雅也の新しい活動を熱心に応援し、彼らの冒険は新たな節目を迎えることとなった。
その後も、矢部と雅也は多くの冒険を重ね、数々の困難を乗り越えながら、互いの絆を深めていった。彼らの物語は、多くの人々に勇気や希望、愛の大切さを伝え、永遠に語り継がれていくこととなった。
最終章:絆の果て
矢部と雅也の冒険が続く中、彼らの名は広まり、数々の伝説とともに語り継がれていった。しかし、冒険の先には常に未知の危険が待ち構えており、二人はそのたびごとに試練と向き合わざるを得なかった。
ある日、彼らが新たな遺跡の探索に挑んだ時、突如として暗黒の力に襲われる。その力は、人々の心を操り、町を混乱に陥れた。矢部と雅也は力を合わせ、暗黒の力との壮絶な戦いを繰り広げた。
戦いの末、二人は暗黒の力を封じ込めることに成功する。しかし、その代償として、矢部は重傷を負ってしまう。雅也は矢部を背負い、町へと急いだ。矢部の意識は朦朧とする中、雅也の声が聞こえてきた。「矢部さん、僕と一緒にもっと冒険をしよう。あなたがいないと、僕は進めない。」
矢部は微笑みながら、雅也に語りかけた。「雅也、ありがとう。でも、私の冒険はここで終わりだ。君はこれからも、新しい冒険を続けてほしい。」
雅也の目から涙がこぼれ落ちた。矢部の手を強く握りしめながら、彼の冒険の終焉を看取った。
あとがき
この小説をお読みいただき、ありがとうございます。
矢部と雅也の物語は、絆や友情、冒険の中での挑戦と成長を描いてきました。人生の中で数々の試練に直面することはあるかと思いますが、そんな中でも大切な人との絆を深め、共に乗り越えていくことの大切さを伝えたかったのです。
矢部の死は突然でしたが、彼の冒険の精神は雅也を通じて永遠に続いていくでしょう。読者の皆様も、自身の人生の冒険の中で、大切な人との絆を大切にしていただければ幸いです。
再び、この作品を手に取ってくださったこと、心から感謝いたします。
屋敷の大きな扉を叩くと、中からシワが深く刻まれた中年の執事が現れた。「あなたが矢部純探偵?」と彼は聞いてきた。
「はい、そうです。」矢部は短く返答すると、執事は屋敷の奥へと案内した。
奥の部屋で彼を待っていたのは、坐っているだけで気高さを放つ中年の男性、彼が屋敷の主・柳原雅也だった。彼は矢部に深い頭を下げ、盗まれた絵画の件での協力を願うと言った。
「正確には盗難ではなく、絵が置き換えられてしまったのです。」
矢部は驚きの表情を浮かべながら、その絵画を見せてもらうことになった。絵は、見る角度によっては何も描かれていないように見えるが、よく目を凝らすと暗闇の中に人の顔が描かれているのが確認できる。
「これは...」矢部の記憶の中で何かが蠢き始めた。この絵、どこかで見たことがある。しかし、彼はそれを追求するよりも、まず事件の真相を明らかにすることに専念することに決めた。
柳原家での調査が始まった。屋敷内のスタッフや家族の話を聞く中で、矢部はこの家に隠された様々な秘密や確執を知ることになる。そして、その絵画の奥に隠された過去と、彼自身の過去との関連が徐々に明らかになっていく。
ある日、夜更けの屋敷で矢部は奇妙な声を耳にした。声のする方へと進んでいくと、絵画が掛けられていた部屋で柳原雅也がうずくまっていた。彼の目は恐怖に満ち、絵画の方を指していた。
「あれは、本当にただの絵ではない。」柳原は震えながら言った。
矢部がその絵画を再び観察すると、以前にはなかった血の跡が滴っているのを発見する。この絵画と、柳原家に隠された過去、そして矢部自身の過去との関連。全ての謎がこの絵画に隠されているのかもしれない。
彼は絵の中に隠された真実、そして自身の抱える過去の影を追う決意を固めるのだった...。
矢部は、絵画の研究者として知られる古美術商の田中先生にこの絵の調査を依頼した。彼の店に絵を持ち込むと、田中は一瞬驚きの表情を見せたが、すぐに冷静さを取り戻した。
「この絵… かつて伝説の画家、蓮見望という人物が描いたとされる『闇の中の顔』という絵に似ています。」
「蓮見望?」
「はい、彼は20年前に謎の死を遂げた画家です。彼の絵は、持ち主の過去の罪を浮き彫りにするという都市伝説があります。」
矢部はぞっとする。柳原家の人々の間に確執があること、そして絵の持ち主の過去の罪が関連しているのかもしれない。
田中先生はさらに話し続けた。「しかし、その伝説の真偽はともかく、この絵は蓮見望のものとは思えません。筆使いや色彩が異なります。」
「では、この絵は一体…」
「柳原家の誰かが、何かの意図を持って作成したものか、あるいは外部から持ち込まれたものでしょう。」
矢部は、田中先生の話を聞きながら、絵画に隠された真実を探ることに更なる決意を固めた。彼は再び柳原家へ戻り、家の者たちに絵に関すること、特に最近の出来事や変わった動きがないかを尋ね始めた。
柳原家の長女・悠里から興味深い情報を得ることができた。「実は、少し前にお父さんが古い日記を見つけていました。それが何かのきっかけとなって、この絵が屋敷に持ち込まれたのかもしれません。」
日記を手に取ると、そこには20年前の柳原家の家族の日常や出来事が詳細に書かれていた。矢部は日記を読み進めるうち、柳原家と蓮見望との深い関係を知ることとなる。
柳原雅也の父、つまり悠里の祖父が、蓮見望とは旧知の仲であり、彼の死の真相を知る鍵を持っていたことが明らかになった。
矢部は深夜まで日記を読み進め、ついに最後のページにたどり着いた。そこには驚くべき告白が書かれていた。
「私は蓮見望の死の真相を知っている。彼は私に絵を描いて欲しいと頼んできた。しかし、その絵が原因で彼は死んだ。私はそれを隠蔽してきた。」
日記の最後には、柳原家の祖父の署名があった。
矢部はこの日記を手がかりに、柳原家の過去と絵画の謎を解き明かすべく、再び調査を進めることとなった。絵の真相、そして家族の中に隠された真実。これらは矢部の前に次々と立ちはだかった。そして、この家の中で繰り広げられる人間ドラマも彼を待ち受けていた。
翌日、柳原雅也は矢部を屋敷の一室に招き、静かに話し始めた。
「実は、蓮見望と我が家との間には、知られざる秘密があります。」彼は苦しそうに言った。「私の祖父は、蓮見とは深い関係にありました。彼の死の真相も知っていたのです。」
雅也の声は震えていた。彼は続けて言った。「私たちの家は、かつては芸術家や詩人を支援する役割を果たしていました。蓮見もその一人で、我が家に頻繁に出入りしていたのです。しかし、ある時を境に彼と祖父の関係は急激に冷え込んでしまった。」
「それは何故ですか?」矢部が尋ねると、雅也はしばらくの沈黙を経て答えた。
「蓮見が私の祖父に頼んで描かせた絵…それが、彼の死の原因となったのです。その絵がこの『闇の中の顔』…。」
柳原家の秘密の部屋に保管されていたその絵。それは蓮見自身が描いたものではなく、柳原家の祖父によって描かれたものだった。しかし、その絵を完成させた直後、蓮見はこの世を去ってしまった。
「蓮見はその絵に自らの魂を閉じ込めたと言われています。彼の魂が叫ぶ声、絶望の声がその絵の中に刻み込まれているのです。」
矢部は、この事件の背後に隠された真実を解き明かすために、更なる調査を始めることとなった。彼は、柳原家に眠る古い文献や日記を読み漁り、事件の核心に迫っていった。
やがて、矢部は蓮見が生前に綴った手紙を発見する。その手紙には、彼が柳原家の祖父に対して抱いていた感謝と愛情、そして絵を描いて欲しいという熱烈な願いが書かれていた。
しかし、その手紙の最後には、こんな言葉が記されていた。
「私の魂を絵に閉じ込めることができれば、私は永遠にこの世を去らないでしょう。」
この手紙を読んだ矢部は、蓮見が自らの死を予感していたのではないかと考えた。そして、その死の真相を探るため、再び柳原家の秘密を追い求めることとなった。
深い闇の中に隠された真実。矢部は、蓮見望の死と柳原家との関係を解き明かすため、夜の屋敷を探索し続けた。過去と現在が交錯する中、彼はついに謎の核心に迫ることとなる。
屋敷の奥深くには、柳原家の先祖たちが代々伝えてきた秘密の部屋が存在していた。矢部は、この部屋にこそ、蓮見望の死の真相が隠されているのではないかと確信していた。蓮見の手紙に記されていた内容を元に、彼はその部屋を探し当てることに成功する。
部屋の中には、古い絵画や文献、そしてさまざまな魔術に関する道具が並べられていた。そして、部屋の中央には大きな絵画が掛けられていた。その絵の題名は「魂の螺旋」。矢部は息を呑みながらその絵を見つめた。絵の中には、死の直前の蓮見望の姿が描かれていた。彼の顔は苦悶の表情を浮かべ、その周りにはさまざまな幽霊や魔物が舞い踊っているようだった。
その絵の下には、小さなノートが置かれていた。矢部はノートを手に取り、その中身を読み始めた。
ノートには、柳原家の先祖たちが代々記した、家に伝わる呪術や魔術に関する記録が綴られていた。そして、その中には「魂を絵に封印する呪術」に関する詳しい方法が記述されていた。
矢部は、この呪術が蓮見望の死と深く関わっているのではないかと考えるようになった。蓮見が柳原家の祖父に頼んで描かせた絵は、この呪術を使って彼の魂を封印するためのものだったのだ。
しかし、なぜ蓮見は自らの魂を封印することを望んだのか?その理由を探るため、矢部はさらにノートの中身を読み進めた。
ノートの最後のページには、蓮見望自身が記したと思われるメモが残されていた。
「私の魂は、この絵に封印される。しかし、私は死んでしまった。この絵を描いてくれた柳原家の先祖には感謝している。しかし、この呪術には一つの条件があった。私の魂を封印することで、私は永遠の命を得ることができる。しかし、その代わりに私はこの絵の中で永遠に閉じ込められることとなる。私はそのリスクを承知で、この呪術を選んだ。私の命は、この絵の中で永遠に続く。」
矢部はノートを閉じ、部屋を後にした。彼は、蓮見望の死の真相を知ることができた。しかし、その真相はあまりにも深く、彼の心に重い影を落とすこととなった。
彼は柳原雅也に、全てを伝えることを決意した。そして、二人は蓮見望の魂を解放するための方法を探し始めることとなる。
矢部は柳原雅也に会い、彼に「魂の螺旋」という絵と、柳原家の秘密の部屋で見つけたノートの内容を説明した。雅也は驚き、同時に家族の古くからの伝統に深い興味を抱くようになった。
「私たちの家族には、魔術や呪術の力を持つ者が多く存在していた。私自身も、祖父から多少のことは教わっていたが、こんなに強力な呪術が存在するとは思っていませんでした。」雅也は言った。
二人は、蓮見望の魂を絵から解放する方法を探るために行動を開始した。ノートには具体的な解放の方法は記されていなかったが、他にも手がかりとなる文献や道具が秘密の部屋にはあるかもしれないと考え、再び部屋を訪れることにした。
部屋に戻ると、今度は壁に埋め込まれた書棚に目をつけた。多くの古書や手紙、日記が収められており、中には柳原家の先祖たちが綴ったことが記されているものもあった。
矢部がある古への手紙を手に取った時、何か特別なものを感じた。手紙の差出人は、雅也の曾祖父、柳原紀之進であり、内容は彼の友人へ宛てたものだった。紀之進は手紙の中で「魂の螺旋」という絵の秘密と、それを解放する方法について触れていた。
手紙によれば、絵の中に封印された魂を解放するためには、絵の前で特定の呪文を唱える必要があった。しかし、その呪文は破られてしまい、何を唱えるべきかは不明だった。
「この呪文…どこかで見たことがあるような…」雅也が言った。彼は思い出すように、部屋の中を物色し始めた。そして、少し時間が経った後、一冊の古書を手に取った。
「これだ!」雅也は古書の中の一ページを指差した。そのページには、解放の呪文とされる言葉が記されていた。
二人は絵の前で呪文を唱えることを決意し、夜を待った。夜になると、二人は絵の前に立ち、呪文を唱え始めた。一度、二度と唱えるうち、絵の中の風景が動き始め、やがて蓮見望の姿が絵から飛び出してきた。
「ありがとう…」蓮見望は微笑みながら言った。そして、彼の姿は次第に透明になり、消えていった。
矢部と雅也は、蓮見望の魂を解放することに成功したのだった。そして、二人はそれぞれの道を歩むこととなり、この出来事は柳原家の歴史の中で語り継がれることとなった。
矢部と雅也は、蓮見望の魂を解放した後、柳原家の館を後にした。だが、事件の余波は二人に深い影を落とすことになる。
数週間後、矢部は雅也から一通の手紙を受け取った。手紙には次のように書かれていた。
「矢部さん、
蓮見望の魂を解放した後、奇妙な現象に見舞われるようになった。家の中で奇妙な音が鳴ったり、物が動いたり…。一度、深夜に目を覚ました時、自分の部屋の窓に紫の光が差し込んでいた。窓の外には、奇妙な形の生物が浮かんでいて、私をじっと見つめていた。以来、その生物を何度か見かけるようになった。何か悪意を持って私を狙っているようだ。これは、私たちが絵の中の魂を解放したことに何か関連があるのだろうか。
心配しています。何か情報や助言があれば、教えてください。
雅也」
この手紙を読んだ矢部は、何か大きな力が動いていることを感じた。彼は即座に柳原家を訪れることを決意する。
再び柳原家の館に足を運んだ矢部は、雅也に会い、彼の言葉を聞いた。雅也は、以前とは違い、やつれた様子で、深い恐怖を感じさせた。
「私たちが蓮見望の魂を解放したことで、何か別の存在が目をつけてきたようだ。」雅也は顔をしかめて言った。
矢部は、この新たな脅威に立ち向かうため、再び柳原家の秘密の部屋を調査することを提案。部屋の奥にあった古い棚から、一冊の書物を発見。その書物には、柳原家の先祖が封印した「禁忌の存在」と呼ばれる生物について詳細に記述されていた。
「禁忌の存在」とは、かつてこの地に住んでいた古代の生物で、人々を恐れさせていたという。しかし、柳原家の先祖によって封印され、長い間その存在は忘れられていた。しかし、蓮見望の魂を解放したことで、その封印が解かれてしまった可能性があるという。
矢部と雅也は、この「禁忌の存在」を再び封印するための方法を探し始めた。そして、ついにその方法を発見するが、それは非常に危険なものであった…。
書物によれば、「禁忌の存在」を封印するための方法は、先祖が用いた封印の呪文と、特定の祭具を使用することだった。しかし、その祭具は現存しないと考えられていた。
「この祭具をどこで見つけられるか、また見つけたとして、どのように使用すればいいのか。」矢部は思案のしどころであった。雅也は少し考えた後、「祭具に関しては、先祖が使用したとされるものが、家の地下室に保管されているかもしれない。」と言った。
二人は地下室へと向かい、多数の古い箱や棚を探し始めた。しばらく探していると、雅也がある小箱を発見。箱の中には、銀色の小さな竪琴のようなものと、数枚の古びた紙が入っていた。
「これが…」雅也が紙を広げてみると、封印の呪文が記されていた。しかし、紙には一部が欠けており、完全な呪文を唱えることができなかった。
「何とかして、この欠けた部分を補完しないといけない。」矢部が言った。
二人は柳原家に伝わる古文書や記録を調べ始めた。長時間の調査の末、ついに欠けていた部分の呪文を発見。矢部と雅也は、すぐに地下室へと戻り、祭具と共に封印の儀式を開始した。
静寂が広がる地下室の中、矢部と雅也は呪文を唱え始めた。竪琴のような祭具からは、深い音が響き渡り、空気が震えるように感じられた。突然、地下室の壁から紫の光が溢れ出し、その光の中心に「禁忌の存在」が現れた。恐ろしい姿をしたその存在は、矢部と雅也に向かって迫ってくる。しかし、二人は怯むことなく呪文を唱え続けた。
とうとう、呪文の最後の部分を唱え終えると、地下室全体が白い光に包まれた。その光が消えた後、「禁忌の存在」の姿は消えていた。
「やった…。」雅也が安堵の表情を浮かべる中、矢部も深いため息をついた。
「これで、再び封印された。」矢部が言った。
「ありがとう、矢部さん。」雅也が感謝の言葉を述べた。
二人は柳原家の秘密を再び封印した後、それぞれの日常に戻った。しかし、その経験は二人の間に深い絆を生み、彼らの人生に新たな章を刻むこととなった。
数日後、矢部は仕事から帰る途中、急に不安な感覚に襲われた。彼の中で何かが訴えかけてきているようだった。家に帰ると、雅也からのメッセージが届いていた。
「矢部さん、どうかしています。再び何かが動き出しているようです。家に来てください。」
矢部は急いで柳原家に向かった。雅也の顔色は青ざめ、彼の背後には、紫色の煙が渦巻いているのが見えた。
「矢部さん、我々が封印したはずのものが、完全には封じられていなかったようです。」雅也の声は震えていた。
「何故、こんなことが?」矢部が言った。
「この家には、さらなる秘密が隠されていたようです。私の家系に伝わる、もう一つの伝説…」雅也は続けた。
それによると、禁忌の存在を完全に封じるためには、一つだけ祭具と呪文だけではなく、柳原家の者が直面する試練を乗り越えなければならないという。
「試練とは何か?」矢部は問いただした。
「それは…」雅也は少しの間を置いた後、「私の命を犠牲にすること。」
矢部は驚愕した。何故、そんな重大なことを先に言わなかったのか。しかし、雅也の顔には決意の色が浮かんでいた。
「私は先祖たちと同じく、家のため、そしてこの町のために命を捧げる覚悟があります。」雅也は力強く言った。
矢部は何とかして、雅也の命を救いたいと強く思った。彼は再び、古文書や書物を繰り返し調べ始めた。数日の研究の結果、ある可能性を見つける。それは、柳原家の先祖の一人が書き留めた、代替の方法であった。完全な封印のためには、強い絆と信頼を持った二人が、共に心を一つにして封印の儀式を行うこと。その際、封印の力は倍増し、命を犠牲にすることなく禁忌の存在を封じることができるという。
矢部は雅也にこの方法を伝え、彼と共に儀式を行う決意を固めた。そして、再び祭具と呪文を用意し、最終的な封印の儀式を開始した。
矢部と雅也は、柳原家の最も古い部屋、封印が行われたと言われる部屋の中央に立ち、祭具を配した。部屋の雰囲気は一層重くなり、その中で矢部は雅也と手をつないだ。二人の間に流れる熱い絆と信頼が、この儀式の成功の鍵となるはずだった。
古文書に記されていた通りの手順で、矢部は呪文を唱え始めた。雅也はそれに合わせ、彼と心を一つにするように深呼吸を繰り返した。部屋の中に光が満ち始め、紫色の煙は徐々に消えていった。
しかし、封印の最中、突如強風が部屋の中を吹き荒れ、矢部と雅也は地面に投げ出された。何者かの怒りのような力が、儀式を阻止しようとしていた。
「諦めない!」矢部は雅也の手を強く握り、再び立ち上がった。二人は再び祭具の周りに集まり、前よりも強く、深い絆と信頼で心を通わせながら呪文を唱え続けた。
時はゆっくりと流れているかのように感じられたが、矢部と雅也の努力が実を結んだ瞬間が訪れた。強風は消え去り、部屋の中は再び静寂に包まれた。紫色の煙は完全に消え去り、何事もなかったかのような平和な空間が広がっていた。
矢部と雅也は、互いに手を握り、安堵の笑顔を交わした。禁忌の存在は完全に封じられ、柳原家と町の安全は守られた。
数日後、矢部は柳原家を訪れた。雅也は庭でお茶を用意して待っていた。
「矢部さん、ありがとうございました。おかげで我々の家の歴史は守られました。」
「いえ、私もあなたと共に、大切なものを守ることができて嬉しいです。」矢部は微笑んだ。
二人は庭でお茶を楽しみながら、これからの未来について語り合った。矢部と雅也の間には、封印の儀式を通じて築かれた深い絆が生まれ、それは二人の間に芽生えた新しい感情の始まりとなった。
禁忌の存在との戦いを経て、二人は新しい未来へと歩み始めた。その先には、未知の冒険や困難が待ち受けているかもしれないが、彼らは互いに手を取り合い、一歩一歩前進していくのだった。
柳原家の禁忌を解決した後、町の人々は矢部と雅也の勇気を称賛し、二人は地元の英雄として知られるようになった。特に、矢部と雅也の深い絆と共闘ぶりが町の人々の間で話題となった。
数ヶ月が経ち、矢部は新たな情報を手に入れて雅也のもとを訪れた。
「雅也、新たな情報が入ったんだ。」矢部が真剣な面持ちで言った。
「どういうこと?」雅也は驚きの表情を浮かべた。
「近くの山奥に、古代の文明が眠るという遺跡があるらしい。それと同時に、そこには何か大きな力が封じられているとも言われている。」
雅也の目がキラリと輝いた。「また新しい冒険が待っているのね。」
「正確な場所や詳細はわからない。ただ、行くとしたら危険も伴うだろう。だが、僕たちなら何とかできるはずだ。」
雅也は矢部の目を真っ直ぐに見つめた。「私も行くわ。二人なら、何も怖くない。」
矢部はほっとした笑顔を見せた。「ありがとう、雅也。」
翌日、二人は必要な装備と食料を準備し、山へと向かった。遺跡を目指して山を登りながら、二人は自然の美しさや動植物に感動した。しかし、同時に未知の危険も待ち受けていた。
夜になり、二人はキャンプを張った。星空の下、雅也は矢部に近づき、低い声で言った。「あの、矢部さん。私、矢部さんのことが…」
矢部は驚きの表情で雅也を見つめた。しかし、その瞬間、地響きと共に大きな影が二人の前に現れた。それは、遺跡の守護者とも言える巨大な生物だった。
「雅也、気をつけて!」矢部は雅也を後ろに引き、剣を構えた。
巨大な生物は獰猛な眼差しで二人を見つめ、そのまま襲い掛かってきた。
矢部と雅也は、以前の経験を生かし、息を合わせて戦った。彼らの絆と連携は、巨大な敵に立ち向かう力となった。
戦いの最中、雅也は矢部に告白する勇気を振り絞り、彼の耳元でささやいた。「矢部さん、私はあなたのことが好きです。」
矢部は驚きながらも、雅也の手を取り、力強く握り返した。「私も、雅也。」
その言葉に勇気をもらった二人は、巨大な生物を退けることに成功し、遺跡の中に足を踏み入れることができた。そこには、古代の文明の名残と、封じられた大きな力が眠っていた。
しかし、二人はそれを手にすることはせず、ただ町の人々に報告するために戻ることに決めた。彼らの目的は、大きな力を手に入れることではなく、互いに深まる絆と共に冒険を楽しむことだったからだ。
帰路についた二人は、山の中での出来事を振り返りながら、これからの未来について語り合った。矢部は雅也に、自分の感じていること、考えていることを正直に伝えた。「雅也、あなたに出会って、私の人生は180度変わった。今まで冒険や探求の中心にあったのは物の価値や名誉だった。でも、あなたと一緒に過ごす中で、人との絆や愛情の大切さを感じるようになった。」
雅也も矢部の目を見つめながら、感謝の気持ちを伝えた。「矢部さん、私も同じです。一緒にいると、自分が強く、勇敢になれる気がします。これからも、私たちの冒険は続いていく。」
町に帰った二人は、遺跡の発見と巨大な生物との戦いの経緯を町の人々に伝えた。その話は、町の人々に大きな感動をもたらし、多くの人々が矢部と雅也に感謝の意を表した。
日常に戻った二人は、それぞれの生活を送りながらも、密かに次の冒険の計画を練り始めた。そして、ある日、雅也は矢部に一つの提案をする。
「矢部さん、私たち、冒険家としての活動を正式に始めてはどうでしょうか?」
矢部は驚きの表情を浮かべたが、すぐに笑顔になった。「いいと思う。私たちの絆や冒険の経験を、もっと多くの人々と共有したい。」
そして、二人は冒険家としての活動を始めることを決意し、町の人々にその意向を伝えた。町の人々は、矢部と雅也の新しい活動を熱心に応援し、彼らの冒険は新たな節目を迎えることとなった。
その後も、矢部と雅也は多くの冒険を重ね、数々の困難を乗り越えながら、互いの絆を深めていった。彼らの物語は、多くの人々に勇気や希望、愛の大切さを伝え、永遠に語り継がれていくこととなった。
最終章:絆の果て
矢部と雅也の冒険が続く中、彼らの名は広まり、数々の伝説とともに語り継がれていった。しかし、冒険の先には常に未知の危険が待ち構えており、二人はそのたびごとに試練と向き合わざるを得なかった。
ある日、彼らが新たな遺跡の探索に挑んだ時、突如として暗黒の力に襲われる。その力は、人々の心を操り、町を混乱に陥れた。矢部と雅也は力を合わせ、暗黒の力との壮絶な戦いを繰り広げた。
戦いの末、二人は暗黒の力を封じ込めることに成功する。しかし、その代償として、矢部は重傷を負ってしまう。雅也は矢部を背負い、町へと急いだ。矢部の意識は朦朧とする中、雅也の声が聞こえてきた。「矢部さん、僕と一緒にもっと冒険をしよう。あなたがいないと、僕は進めない。」
矢部は微笑みながら、雅也に語りかけた。「雅也、ありがとう。でも、私の冒険はここで終わりだ。君はこれからも、新しい冒険を続けてほしい。」
雅也の目から涙がこぼれ落ちた。矢部の手を強く握りしめながら、彼の冒険の終焉を看取った。
あとがき
この小説をお読みいただき、ありがとうございます。
矢部と雅也の物語は、絆や友情、冒険の中での挑戦と成長を描いてきました。人生の中で数々の試練に直面することはあるかと思いますが、そんな中でも大切な人との絆を深め、共に乗り越えていくことの大切さを伝えたかったのです。
矢部の死は突然でしたが、彼の冒険の精神は雅也を通じて永遠に続いていくでしょう。読者の皆様も、自身の人生の冒険の中で、大切な人との絆を大切にしていただければ幸いです。
再び、この作品を手に取ってくださったこと、心から感謝いたします。
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