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第8話 傷跡
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「ど、どうしたんですか?」
「ダメなの?」
「い、いえ……」
久しぶりに布団に潜り込んできた小さい身体は、絡みつくように僕を抱きしめた。苦しいが不思議と嫌ではない。
「チョコ、美味しかったです」
「そう」
「僕のために買ってきてくれたんですか?」
「だから言ったでしょ。たまたま用があっただけよ」
正直とても嬉しかった。チョコもそうだが、それだけではない。
「カリン様に嫌われたかと思ってました」
「どうして?」
「最近冷たかったじゃないですか」
彼女は聞こえていないかのように反対側に寝返りをうった。
「相変わらず変な人ね」
ぎゅっと握られた手はとても暖かく感じた。
それからは巡邏という名のデートをしたり、2人で食事をしたりと以前と変わらない毎日を過ごした。彼女と2人で過ごす日々は楽しくも、どこか物足りなさを感じていた。無い物ねだりなのはわかっていた。
「今日は遅くなるわ」
「分かりました」
「その顔は何?」
「いえ、なんでも……」
「可愛い人。じゃあね」
なんだ今の――惚れてまうやろ!
その日の晩、僕は胸の高鳴りを残しつつ夕食の支度をしていた。熱々のフライパンにステーキを乗せ、焦げないように見つめながら焼き加減を見極める。
突然、天井からガタガタと何かが転がるような音が聞こえ、驚いた僕は手を止めた。
「なんだ……?」
中庭に出て恐る恐る屋根を見上げたが、あるのは闇夜に浮かぶ星空だけ。
「気のせい、かな?」
少し安心して屋内に入ろうとした矢先、再びガタガタと音が鳴り何かが中庭へ転がり落ちてきた。
「うわああ!」
尻餅をついた僕の足元に倒れ込んでいたのはカリンだった。何があったのかは分からないが、頭部や腹部から出血している。
「カリン様! カリン様!」
「うううっ……」
彼女からの返答は無かったがまだ息はあるようだ。
僕は彼女を抱き上げ、急いで寝室まで連れて行き、町医者に至急のフクロウを飛ばした。
彼女の身体は熱された鉄板のように火照り、素人の僕から見ても予断を許さない状況だと分かるほどだった。
程なく医者が到着し、処置が始まった。彼の名はジル・フルール。ジルはテュールフ領でも一番の名医だが、カリンを一目見て顔色を変えた。やはり容体は切迫しているようだ。
「ここで待っていて下さい」
しばらく経った頃扉が開き、ジルが出てきた。
「ジルさん……」
「大丈夫。傷はそれほど深くなかったので、魔術によるものではなく刃物で切りつけられたものだと思います。傷はしばらく残るかも知れないが、熱は直ぐに治るでしょう」
「そうですか……ありがとうございました」
「看病はお任せできますね?」
「ええ、もちろん」
ジルは微笑むと屋敷を後にした。彼の乗った馬車を見送り、僕はカリンの寝室に入った。
眠った顔はとても清らかだったが、傷は痛々しく残ったままだ。
「カリン様……」
眩しい光が瞼の上から差し込み僕は目を覚ました。どうやらそのまま寝てしまていたらしい。
「おはよう」
彼女の影がこちらを向いている。
「どうして泣いてるの?」
「え……」
自分の頬を触ってみると確かに涙で濡れていた。泣いた記憶はないが、目を覚ました彼女を見て自然と溢れてしまったのかも知れない。
「泣いてません」
「嘘つき」
僕の意味のない強がりに、カリンは少し微笑んでみせた。
「死んだと思った?」
「いえ」
ふふっと笑いを溢した彼女の後ろからは、美しい朝陽が溢れていた。
「ダメなの?」
「い、いえ……」
久しぶりに布団に潜り込んできた小さい身体は、絡みつくように僕を抱きしめた。苦しいが不思議と嫌ではない。
「チョコ、美味しかったです」
「そう」
「僕のために買ってきてくれたんですか?」
「だから言ったでしょ。たまたま用があっただけよ」
正直とても嬉しかった。チョコもそうだが、それだけではない。
「カリン様に嫌われたかと思ってました」
「どうして?」
「最近冷たかったじゃないですか」
彼女は聞こえていないかのように反対側に寝返りをうった。
「相変わらず変な人ね」
ぎゅっと握られた手はとても暖かく感じた。
それからは巡邏という名のデートをしたり、2人で食事をしたりと以前と変わらない毎日を過ごした。彼女と2人で過ごす日々は楽しくも、どこか物足りなさを感じていた。無い物ねだりなのはわかっていた。
「今日は遅くなるわ」
「分かりました」
「その顔は何?」
「いえ、なんでも……」
「可愛い人。じゃあね」
なんだ今の――惚れてまうやろ!
その日の晩、僕は胸の高鳴りを残しつつ夕食の支度をしていた。熱々のフライパンにステーキを乗せ、焦げないように見つめながら焼き加減を見極める。
突然、天井からガタガタと何かが転がるような音が聞こえ、驚いた僕は手を止めた。
「なんだ……?」
中庭に出て恐る恐る屋根を見上げたが、あるのは闇夜に浮かぶ星空だけ。
「気のせい、かな?」
少し安心して屋内に入ろうとした矢先、再びガタガタと音が鳴り何かが中庭へ転がり落ちてきた。
「うわああ!」
尻餅をついた僕の足元に倒れ込んでいたのはカリンだった。何があったのかは分からないが、頭部や腹部から出血している。
「カリン様! カリン様!」
「うううっ……」
彼女からの返答は無かったがまだ息はあるようだ。
僕は彼女を抱き上げ、急いで寝室まで連れて行き、町医者に至急のフクロウを飛ばした。
彼女の身体は熱された鉄板のように火照り、素人の僕から見ても予断を許さない状況だと分かるほどだった。
程なく医者が到着し、処置が始まった。彼の名はジル・フルール。ジルはテュールフ領でも一番の名医だが、カリンを一目見て顔色を変えた。やはり容体は切迫しているようだ。
「ここで待っていて下さい」
しばらく経った頃扉が開き、ジルが出てきた。
「ジルさん……」
「大丈夫。傷はそれほど深くなかったので、魔術によるものではなく刃物で切りつけられたものだと思います。傷はしばらく残るかも知れないが、熱は直ぐに治るでしょう」
「そうですか……ありがとうございました」
「看病はお任せできますね?」
「ええ、もちろん」
ジルは微笑むと屋敷を後にした。彼の乗った馬車を見送り、僕はカリンの寝室に入った。
眠った顔はとても清らかだったが、傷は痛々しく残ったままだ。
「カリン様……」
眩しい光が瞼の上から差し込み僕は目を覚ました。どうやらそのまま寝てしまていたらしい。
「おはよう」
彼女の影がこちらを向いている。
「どうして泣いてるの?」
「え……」
自分の頬を触ってみると確かに涙で濡れていた。泣いた記憶はないが、目を覚ました彼女を見て自然と溢れてしまったのかも知れない。
「泣いてません」
「嘘つき」
僕の意味のない強がりに、カリンは少し微笑んでみせた。
「死んだと思った?」
「いえ」
ふふっと笑いを溢した彼女の後ろからは、美しい朝陽が溢れていた。
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