3 / 14
第3話 変化
しおりを挟む
「何かあったらペンダントを壊して」
そう言い残して彼女は出て行った。
両親が死んでからはずっとひとりだったが、彼女にスカウトされてから僕の生活は完全に逆転した。2人だけの生活は楽しくも悲しくもない。ただ淡々と毎日を過ごしてきた。
大きな玄関に一輪咲いた黒百合の花だけが魔女の家らしさを感じさせている。
「暇になったな。商店街にでも行くか」
暇なのは日常だがせっかくなら満喫したい。僕はテュールフ家の家紋が入ったブレスレットとマントを身に纏い、町に出た。
街はいつも通り活気で溢れている。
「おお、エンタ様」
「お疲れ様です」
「エンタ様、今日はお一人ですか?」
「はい」
カリンの放任主義が功を奏して、この町はとても平和で繁栄している。町人たちは見ず知らずの僕のことも、とても暖かく向かえ入れてくれた。
「よろしければコレ持って行ってください」
「こんなに貰えませんよ」
「良いんですよ日頃の感謝の気持ちです」
バスケットいっぱいの野菜や果物をもらった僕は、そのまま散策を再開した。しばらく歩いていると、列をなしている飲食店を見つけた。
「あ! エンタ様!」
「こんにちは。繁盛しているようで何よりですね」
「ええ、おかげさまで。良かったら今度カリン様といらして下さいね」
もし、彼女と一緒だったら……。
「興味ない」
この一言で通り過ぎるだろう。町人からの信頼度は高いものの、何にも興味がないせいで怖がられることも少なからずあるようだし。
「ええ、僕からも言っておきます」
「是非そうしてください!」
もう少し人々に接してあげても良い気がするが、テュールフ家は代々こうやって栄えさせてきたのだから僕が口出しする必要もないだろう。
まだ全ては見られていないが、歩き疲れた僕は一旦帰ることにした。
「はあ、結局帰りにも貰ってしまった」
抱えきれないほどのお土産を倉庫にしまい、部屋へと戻る。まだカリンは帰っていないようなので、広々としたキッチンで夕食の準備を始めた。
彼女は一体いつになったら帰ってくるのだろうか。2人分の冷め切ったグラタンを見つめながらそんな事を考えていた。
とうとう空腹に耐えきれなくなった僕は、ひとりで夕食を済ませた。
「うん、美味い」
料理は幼い頃、父が宮廷の料理人だったということもあり自然とレシピを覚えていた。得意なわけではなかったが、ここに来てから確実に上達している。
皿洗いを済ませて寝巻きに着替え、ベッドに倒れ込んだ。
「今日は帰らないのかな……」
いつの間にか瞼が重く垂れてきた。
何かが割れる音で目が覚めた。広間の灯りは消えているが、キッチンの方から小さく光が見える。音の正体はここからのようだ。
ペンダントを握りしめながら扉を開けると、カリンがアワアワと片付けていた。
「カリン様?」
「あ、起こしちゃった? お皿洗おうとしたら割れちゃって」
「何それ可愛い……」
「え?」
「あ、いえ。食べてくれたんですね」
「うん。美味しかったわ」
危ない危ない。本音が漏れるところだった。いや、漏れてしまったが聞こえてはいないようだったのでセーフ。
「お皿でしたら僕がやりますので」
「そう? ごめんね」
流石の魔女も少し申し訳なさそうにしながら部屋へと入って行った。
「どこに行ってたんだろう……?」
キッチンの灯りが彼女のローブについた大量の血を照らしていた。
そう言い残して彼女は出て行った。
両親が死んでからはずっとひとりだったが、彼女にスカウトされてから僕の生活は完全に逆転した。2人だけの生活は楽しくも悲しくもない。ただ淡々と毎日を過ごしてきた。
大きな玄関に一輪咲いた黒百合の花だけが魔女の家らしさを感じさせている。
「暇になったな。商店街にでも行くか」
暇なのは日常だがせっかくなら満喫したい。僕はテュールフ家の家紋が入ったブレスレットとマントを身に纏い、町に出た。
街はいつも通り活気で溢れている。
「おお、エンタ様」
「お疲れ様です」
「エンタ様、今日はお一人ですか?」
「はい」
カリンの放任主義が功を奏して、この町はとても平和で繁栄している。町人たちは見ず知らずの僕のことも、とても暖かく向かえ入れてくれた。
「よろしければコレ持って行ってください」
「こんなに貰えませんよ」
「良いんですよ日頃の感謝の気持ちです」
バスケットいっぱいの野菜や果物をもらった僕は、そのまま散策を再開した。しばらく歩いていると、列をなしている飲食店を見つけた。
「あ! エンタ様!」
「こんにちは。繁盛しているようで何よりですね」
「ええ、おかげさまで。良かったら今度カリン様といらして下さいね」
もし、彼女と一緒だったら……。
「興味ない」
この一言で通り過ぎるだろう。町人からの信頼度は高いものの、何にも興味がないせいで怖がられることも少なからずあるようだし。
「ええ、僕からも言っておきます」
「是非そうしてください!」
もう少し人々に接してあげても良い気がするが、テュールフ家は代々こうやって栄えさせてきたのだから僕が口出しする必要もないだろう。
まだ全ては見られていないが、歩き疲れた僕は一旦帰ることにした。
「はあ、結局帰りにも貰ってしまった」
抱えきれないほどのお土産を倉庫にしまい、部屋へと戻る。まだカリンは帰っていないようなので、広々としたキッチンで夕食の準備を始めた。
彼女は一体いつになったら帰ってくるのだろうか。2人分の冷め切ったグラタンを見つめながらそんな事を考えていた。
とうとう空腹に耐えきれなくなった僕は、ひとりで夕食を済ませた。
「うん、美味い」
料理は幼い頃、父が宮廷の料理人だったということもあり自然とレシピを覚えていた。得意なわけではなかったが、ここに来てから確実に上達している。
皿洗いを済ませて寝巻きに着替え、ベッドに倒れ込んだ。
「今日は帰らないのかな……」
いつの間にか瞼が重く垂れてきた。
何かが割れる音で目が覚めた。広間の灯りは消えているが、キッチンの方から小さく光が見える。音の正体はここからのようだ。
ペンダントを握りしめながら扉を開けると、カリンがアワアワと片付けていた。
「カリン様?」
「あ、起こしちゃった? お皿洗おうとしたら割れちゃって」
「何それ可愛い……」
「え?」
「あ、いえ。食べてくれたんですね」
「うん。美味しかったわ」
危ない危ない。本音が漏れるところだった。いや、漏れてしまったが聞こえてはいないようだったのでセーフ。
「お皿でしたら僕がやりますので」
「そう? ごめんね」
流石の魔女も少し申し訳なさそうにしながら部屋へと入って行った。
「どこに行ってたんだろう……?」
キッチンの灯りが彼女のローブについた大量の血を照らしていた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
俺様幼馴染の溺愛包囲網
吉岡ミホ
恋愛
枚岡結衣子 (ひらおか ゆいこ)
25歳 養護教諭
世話焼きで断れない性格
無自覚癒やし系
長女
×
藤田亮平 (ふじた りょうへい)
25歳 研修医
俺様で人たらしで潔癖症
トラウマ持ち
末っ子
「お前、俺専用な!」
「結衣子、俺に食われろ」
「お前が俺のものだって、感じたい」
私たちって家が隣同士の幼馴染で…………セフレ⁇
この先、2人はどうなる?
俺様亮平と癒し系結衣子の、ほっこり・じんわり、心温まるラブコメディをお楽しみください!
※『ほっこりじんわり大賞』エントリー作品です。
俺の旅の連れは美人奴隷~俺だって異世界に来たのならハーレムを作ってみたい~
藤
ファンタジー
「やめてください」「積極的に行こうよ」「ご主人様ってそういう人だったんだ」様々な女の子とイチャイチャしながら異世界を旅して人生を楽しんでいこう。
君に恋していいですか?
櫻井音衣
恋愛
卯月 薫、30歳。
仕事の出来すぎる女。
大食いで大酒飲みでヘビースモーカー。
女としての自信、全くなし。
過去の社内恋愛の苦い経験から、
もう二度と恋愛はしないと決めている。
そんな薫に近付く、同期の笠松 志信。
志信に惹かれて行く気持ちを否定して
『同期以上の事は期待しないで』と
志信を突き放す薫の前に、
かつての恋人・浩樹が現れて……。
こんな社内恋愛は、アリですか?
催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~
山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。
与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。
そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。
「──誰か、養ってくれない?」
この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる