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第十二話 奢ってもらうメシが一番美味い
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「残された魔力はここで途絶えているニャ」
ミアの索敵魔法に導かれ、大通りから一本外れた路地に辿り着いた。そこは少女たちと服を買いに来たブランド店からそう遠くない所に位置している。
こんな人けのない場所に連れてこられたのなら、人攫いであると見て間違い無いだろう。しかし、少女たちが逆らわなかった理由が分からない。いくら帝国兵だったとしても、ホイホイ着いて行くほど、彼女たちは人を信用していないだろう。知り合いだった可能性も捨てきれないが、奴隷として売られたのなら親族とは疎遠のはず。
「深く考えてもしかたないニャ。とりあえず帝国兵舎に戻ってから作戦を考えるのニャ」
「でもその間に国を抜けていたら……」
「それは安心するニャ。今日の朝からアタシたちが兵舎から出てくるときまで、帝国から出て行った商人は把握しているのニャ」
意外とシゴデキ猫ちゃんなのかもしれない。
とはいえ、帝国内でバラバラに売られてしまう可能性もある。だからこそ今は本業の人たちに任せておく方が無難だ。
帝国兵舎に戻ると、ちょうど会議を終えたアリアに会った。事情を説明すると彼女も手伝ってくれることになり、帝国の憲兵にも探してもらえるように頼んだ。
のだが――。
「奴隷の娘を助けるためだけに兵を出せだ? そんなもの無理に決まっているだろう」
奴隷制度が普通である帝国兵や民にとって、三人の奴隷を探すためだけに動くなんてあり得ないことだった。私を含め、アリアとミアも説得を続けたが、彼らの総意が変わることはなかった。
「あの子たちは奴隷になったわけじゃない。攫われてきただけなのに……」
もはや「帝国領に入れば、攫われてきた者は全て奴隷だ」と言われているような気分だった。悪気は無いのだろうが、奴隷の居ないことが日常の私にとっては信じられない出来事だった。
「私は一度帰還し、王国から帝国へ正式に捜索の要請と苦情を訴えるように進言してくる」
威勢良く馬に跨ったアリアもまた、怒り心頭であった。走らされる馬もなんだか怯えているように見える。
「さ、アタシたちは帝国内を探し回るのニャ!」
たった二人で見つけられるとも思えないが、何もしないでぼうっと過ごすよりは遥かにマシだ。
大通りから路地裏、公的施設や商店街まで、ありとあらゆる場所を探した。運動神経の良いミアは民家の家に登ったり高い塔から見回したりとアクロバティックな捜索をしていたらしい。
「だめニャ……」
「そう簡単には見つからないよね」
とりあえず「腹が減っては戦はできぬ」というわけで夕食をとることにした。場所はミアが勧めるステーキのお店。彼女の行きつけで、姉のアリアもかなり気に入っているらしい。
「ミアちゃんいらっしゃい」
「ただいま、なのニャ!」
王国騎士ともあろう者が帝国の飲食店に「ただいま」はまずいだろう。
ただ、店の扉を開けた時から肉とニンニクの匂いが漂ってきていた。朝から何も食べていない私にとって、食欲が爆発しそうなくらいの芳香だ。
「じゃあ、ガーリックステーキ二つお願いニャ!」
勝手に頼まれてしまったが、来たことのない店で食べる時は、店の看板メニューか常連のお気に入りを食べるのが正解だ。
数分後、ステーキが登場した。
やはり店内に充満する香りはこのガーリックステーキに間違いない。それに、添えられたお米にもニンニクのチップが入っているようだ。
「いただきますニャ」
「いただきます」
ステーキの左側をナイフで一口大に切り、口に入れる。その瞬間に広がった旨味に感動を覚える。そしてニンニクの風味が強過ぎず弱過ぎず絶妙だ。
肉は恐らく新鮮な鹿肉を使っているのだろう。噛めば噛むほど肉汁が絶え間なく溢れるようで、ニンニクとの相性も良く舌の上で踊るような味わいだ。
更にお米の中に入ったスライスニンニクと合わせて食べることで、更に刺激的な味へと変化する。こうなったらもう箸を止めることはできない。まるで決められた動作を行う機械のように、肉とお米を口いっぱいに放り込んでいく。
「ご馳走様でした」
「もっと味わって食べるのニャ」
「早く食べないと置いて行くよ」
「待つのニャ!」
モグモグしながら何やら不満そうな顔をこちらに向けているが、私には関係ない。遅い方が悪い。
「ごちそうさまなのニャ!」
「はぁい、また来てね」
「当たり前ニャ。お代ここ置いておくニャ」
「まいどー」
なんと、この猫騎士は私の分も奢ってくれたのだった。猫はケチで意地が悪いと思っていたが、それはただの偏見だったようだ。
「私の分までありがとう」
「良いってことよ、なのニャ」
英気も養ったところで、私たちは捜索を再開した。
陽は完全に落ち、大通りの人もまばらになってきた。これからの時間は店も閉まるだろうし、この周辺を探しても見つからないかもしれない。
「夜に人が多い場所といえば……」
「そりゃ歓楽街しかないニャ」
昼間とは反転し、夜から明け方までを賑わす歓楽街。酒場やクラブ、娼館などが立ち並ぶ夜の街だ。そんな場所でこそ仕入れることができる話もある。なぜなら、帝国は風俗に厳しく、公営の場所を除き違法で運営されている場所も珍しくはないのだ。
その中には『情報屋』なるものがある。信じられるかは微妙だが、相応の対価を渡せばそれなりの情報をくれるのは確か。これは王国でも帝国でも同じく、以前に酒場で酔っ払いに聞いた話だけど。
「アタシは自分で探してみるニャ」
忘れがちだが彼女も騎士だ。緊急事態とはいえ、違法な取引を見て見ぬふりとまではできない。私は一人明かりの見えない路地に入りひっそりと待つ。酔っ払いの話が本当なら、向こうから来てくれるはず。
「どんな話が聞きたい?」
暗闇からヌッと姿を現した初老の男。服は商人のようだが、動きやすくはなさそうだ。
「奴隷の話よ」
「ほほう、いくら出す」
「金貨五枚でどう?」
「へへへっ……なめてもらっちゃ困るぜ『リブレイカー』いや、グレンジャーさん」
男の甲高い笑い声は、遠く歓楽街の闇へと吸い込まれていった。
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ミアの索敵魔法に導かれ、大通りから一本外れた路地に辿り着いた。そこは少女たちと服を買いに来たブランド店からそう遠くない所に位置している。
こんな人けのない場所に連れてこられたのなら、人攫いであると見て間違い無いだろう。しかし、少女たちが逆らわなかった理由が分からない。いくら帝国兵だったとしても、ホイホイ着いて行くほど、彼女たちは人を信用していないだろう。知り合いだった可能性も捨てきれないが、奴隷として売られたのなら親族とは疎遠のはず。
「深く考えてもしかたないニャ。とりあえず帝国兵舎に戻ってから作戦を考えるのニャ」
「でもその間に国を抜けていたら……」
「それは安心するニャ。今日の朝からアタシたちが兵舎から出てくるときまで、帝国から出て行った商人は把握しているのニャ」
意外とシゴデキ猫ちゃんなのかもしれない。
とはいえ、帝国内でバラバラに売られてしまう可能性もある。だからこそ今は本業の人たちに任せておく方が無難だ。
帝国兵舎に戻ると、ちょうど会議を終えたアリアに会った。事情を説明すると彼女も手伝ってくれることになり、帝国の憲兵にも探してもらえるように頼んだ。
のだが――。
「奴隷の娘を助けるためだけに兵を出せだ? そんなもの無理に決まっているだろう」
奴隷制度が普通である帝国兵や民にとって、三人の奴隷を探すためだけに動くなんてあり得ないことだった。私を含め、アリアとミアも説得を続けたが、彼らの総意が変わることはなかった。
「あの子たちは奴隷になったわけじゃない。攫われてきただけなのに……」
もはや「帝国領に入れば、攫われてきた者は全て奴隷だ」と言われているような気分だった。悪気は無いのだろうが、奴隷の居ないことが日常の私にとっては信じられない出来事だった。
「私は一度帰還し、王国から帝国へ正式に捜索の要請と苦情を訴えるように進言してくる」
威勢良く馬に跨ったアリアもまた、怒り心頭であった。走らされる馬もなんだか怯えているように見える。
「さ、アタシたちは帝国内を探し回るのニャ!」
たった二人で見つけられるとも思えないが、何もしないでぼうっと過ごすよりは遥かにマシだ。
大通りから路地裏、公的施設や商店街まで、ありとあらゆる場所を探した。運動神経の良いミアは民家の家に登ったり高い塔から見回したりとアクロバティックな捜索をしていたらしい。
「だめニャ……」
「そう簡単には見つからないよね」
とりあえず「腹が減っては戦はできぬ」というわけで夕食をとることにした。場所はミアが勧めるステーキのお店。彼女の行きつけで、姉のアリアもかなり気に入っているらしい。
「ミアちゃんいらっしゃい」
「ただいま、なのニャ!」
王国騎士ともあろう者が帝国の飲食店に「ただいま」はまずいだろう。
ただ、店の扉を開けた時から肉とニンニクの匂いが漂ってきていた。朝から何も食べていない私にとって、食欲が爆発しそうなくらいの芳香だ。
「じゃあ、ガーリックステーキ二つお願いニャ!」
勝手に頼まれてしまったが、来たことのない店で食べる時は、店の看板メニューか常連のお気に入りを食べるのが正解だ。
数分後、ステーキが登場した。
やはり店内に充満する香りはこのガーリックステーキに間違いない。それに、添えられたお米にもニンニクのチップが入っているようだ。
「いただきますニャ」
「いただきます」
ステーキの左側をナイフで一口大に切り、口に入れる。その瞬間に広がった旨味に感動を覚える。そしてニンニクの風味が強過ぎず弱過ぎず絶妙だ。
肉は恐らく新鮮な鹿肉を使っているのだろう。噛めば噛むほど肉汁が絶え間なく溢れるようで、ニンニクとの相性も良く舌の上で踊るような味わいだ。
更にお米の中に入ったスライスニンニクと合わせて食べることで、更に刺激的な味へと変化する。こうなったらもう箸を止めることはできない。まるで決められた動作を行う機械のように、肉とお米を口いっぱいに放り込んでいく。
「ご馳走様でした」
「もっと味わって食べるのニャ」
「早く食べないと置いて行くよ」
「待つのニャ!」
モグモグしながら何やら不満そうな顔をこちらに向けているが、私には関係ない。遅い方が悪い。
「ごちそうさまなのニャ!」
「はぁい、また来てね」
「当たり前ニャ。お代ここ置いておくニャ」
「まいどー」
なんと、この猫騎士は私の分も奢ってくれたのだった。猫はケチで意地が悪いと思っていたが、それはただの偏見だったようだ。
「私の分までありがとう」
「良いってことよ、なのニャ」
英気も養ったところで、私たちは捜索を再開した。
陽は完全に落ち、大通りの人もまばらになってきた。これからの時間は店も閉まるだろうし、この周辺を探しても見つからないかもしれない。
「夜に人が多い場所といえば……」
「そりゃ歓楽街しかないニャ」
昼間とは反転し、夜から明け方までを賑わす歓楽街。酒場やクラブ、娼館などが立ち並ぶ夜の街だ。そんな場所でこそ仕入れることができる話もある。なぜなら、帝国は風俗に厳しく、公営の場所を除き違法で運営されている場所も珍しくはないのだ。
その中には『情報屋』なるものがある。信じられるかは微妙だが、相応の対価を渡せばそれなりの情報をくれるのは確か。これは王国でも帝国でも同じく、以前に酒場で酔っ払いに聞いた話だけど。
「アタシは自分で探してみるニャ」
忘れがちだが彼女も騎士だ。緊急事態とはいえ、違法な取引を見て見ぬふりとまではできない。私は一人明かりの見えない路地に入りひっそりと待つ。酔っ払いの話が本当なら、向こうから来てくれるはず。
「どんな話が聞きたい?」
暗闇からヌッと姿を現した初老の男。服は商人のようだが、動きやすくはなさそうだ。
「奴隷の話よ」
「ほほう、いくら出す」
「金貨五枚でどう?」
「へへへっ……なめてもらっちゃ困るぜ『リブレイカー』いや、グレンジャーさん」
男の甲高い笑い声は、遠く歓楽街の闇へと吸い込まれていった。
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