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第二章 美談
第二十二話 勝利と慢心
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「東門に援軍を要請しろ!」
シントがいる正門の部隊は、10万を超える帝国軍を迎撃しつつ、東門に援軍を送ろうとしていた。しかし、帝国兵の数に比べれば正門の守りも万全とは言えない。
「ダメです! ここも人手が足りません!」
王国側は新兵器を持っているとはいえ、それはただの時間稼ぎにしかならず、兵士の体力も気力も魔力も消耗しつつあった。
「ねぇシントさん。私の好きなおとぎ話を読んでみない?」
ノールックで敵兵を仕留めつつ、マリーは『女神の星降り~古代魔法全集~』と記載されている本を手渡した。
こんな非常時に本なんて読んでる暇は無い。と思ったシントだったが、マリーの意図するところがすぐに分かった。
「僕に……できるのですか?」
「私にはできなかったけど、やってみる価値はありそうじゃない?」
今は、できるかできないかの段階ではない。
やるしか無いのだ。
側から見れば、戦場で読書なんて気が狂ったのかと思われるだろうが、それを気に留めるほどの余裕は彼らにはなかった。
シントは無作為に本を開き、そこに書かれた『魔剣ダクス』の一文を読んだ。
『戦中、多勢が無勢に迫りしほど、ひとりの幻術師が天より無数の剣降らせ敵を圧倒せり』
常識的に考えれば、魔力がどれだけあってもこれはただよおとぎ話。本当にあったのかも分からない古代魔法だが、今はひたすらに創造力を膨らませる。
無数の剣の一本一本が精巧でなければならない。
創造するのは、選ばれた騎士のみが扱える聖剣にも匹敵するほどの強度と魔力を持ち合わせた剣。それは天から無数に降り注ぎ、敵の鎧をも穿つ。
魔力は最低限を残して全て使い、ステータスからは有り余っている『器用』と『運』をトッピング。
「いきます! 前にいる兵は全員下がって!」
「『魔剣ダクス』」
何も起こらない、と思ったのも束の間、雲の狭間から光が見えたと同時に無数の剣が今や遅しと浮遊している。
「放て!」
魔剣ダクスは起動。
降り注いだ剣は、星降りのように煌めきながら帝国軍に風穴を開けていった。
朦朧とした意識の中、マリーだけが「良くやったね」と頭を撫でてくれた。その姿はまるで今は亡き母のようであり、あの時の姐さんのようだった。
◇◇◇◇◇
同時刻、東門では。
「もう保ちません。投降いたしましょう」
「そうだな……」
少数部隊ではあるが、全員が選りすぐりの兵たち。彼らにも帝国軍の強大な兵力にこの戦争を諦観しつつあった。
「あの光はなんだ?!」
その希望の光は、当然、その者たちの目にも届いていた。
「剣が、剣が空から降ってきております」
「こ、これが女神の星降りなのか……」
帝国兵の悲鳴にも似た咆哮がこだまする中、伝令が走った。
「伝令、シーランス公国の戦艦が間も無く参戦とのこと!」
「よし、勝てる……勝てるぞ!」
◇◇◇◇◇
「シント、シント。起きなさい」
「母さん」
またこの夢だ。
確か僕は起源術を使ってから、それから――よく思い出せない。
「また会えて嬉しいわ」
「僕もだよ母さん。僕は死んだのかな?」
「いいえ、あなたはまだ生きてる。気を失っているだけよ」
母さんは優しく僕の頬に手を添えた。またしばらく会えないからと、目に焼き付けるかのようにじっと見つめる。
しばらくすると、どこからかミュールの声が聞こえた。お別れを悟るように、母さんは涙を滲ませながら僕を抱き寄せた。
「さぁ、そろそろ戻る時間よ」
「うんまたね」
◇◇◇◇◇
重たい瞼を開けると、ミュールをはじめ、共に戦った兵士たちがシントを囲んでいた。
「やっと起きた!」
「ああ、上手くやったんだね」
ミュールは威張るように胸を張った。あの時指示したのはシントだが、この功績は紛れもなく行動を起こした彼女のものだろう。
シントは起き上がり、気を失っていた間のことを確認した。
帝国は魔剣とシーランス公国の戦艦により、ほとんどの師団が壊滅。残った兵士たちも投降したとのこと。
「一件落着ってわけか」
「いいえ、シントさん。西門に忘れ物があるわよ」
マリーの意味深発言は、そこにいた全員を凍りつかせた。
「西門には敵は居ないのでは?」
「すぐに分かるわ。ほら3、2、1……」
カウントダウンがされると、伝令兵が真っ青になって走ってきた。
「で、伝令! 西門側に大量の魔族と魔物の群が侵攻中!」
「さぁ皆さん行きますわよ」
スキップで西門に向かうマリーを見た兵士とシントたちは、開いた口が塞がらぬまま、彼女に着いて行った。
「シント殿とのお話はまた先延ばしになってしまったか」
「シーランス公、そんなこと言ってないで私たちも戦艦で向かいますよ!」
◇◇◇◇◇
魔物の襲来は参謀本部にも報告された。
「またモルトケの仕業か?」
「案ずるな。魔物ごとき蹴散らせばよかろうて」
「正門の部隊数名が西門に向かったと報告がある。あの少年の力があれば大事無いであろう」
◇◇◇◇◇
参謀本部の考えは、正に根拠のない楽観だった。
シントは既に魔力のほとんどを使い果たし、歩くのが精一杯だった。とてもじゃないが、戦える状態ではない。
魔族率いる魔物の群は、お構いなしに進軍し続け、やがて西門の城壁から見えるほどのところに陣取った。
「我が名は魔王軍大尉『魔人シュルク・ターク』バモナウツ王に話がある。畏まって門を開け!」
このシュルク・タークの要請を、参謀本部は詳細も聞かずあっさりと棄却した。
当然と言えば当然、怒った魔人と魔物たちは、バモナウツ王国に宣戦布告をした。
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シントがいる正門の部隊は、10万を超える帝国軍を迎撃しつつ、東門に援軍を送ろうとしていた。しかし、帝国兵の数に比べれば正門の守りも万全とは言えない。
「ダメです! ここも人手が足りません!」
王国側は新兵器を持っているとはいえ、それはただの時間稼ぎにしかならず、兵士の体力も気力も魔力も消耗しつつあった。
「ねぇシントさん。私の好きなおとぎ話を読んでみない?」
ノールックで敵兵を仕留めつつ、マリーは『女神の星降り~古代魔法全集~』と記載されている本を手渡した。
こんな非常時に本なんて読んでる暇は無い。と思ったシントだったが、マリーの意図するところがすぐに分かった。
「僕に……できるのですか?」
「私にはできなかったけど、やってみる価値はありそうじゃない?」
今は、できるかできないかの段階ではない。
やるしか無いのだ。
側から見れば、戦場で読書なんて気が狂ったのかと思われるだろうが、それを気に留めるほどの余裕は彼らにはなかった。
シントは無作為に本を開き、そこに書かれた『魔剣ダクス』の一文を読んだ。
『戦中、多勢が無勢に迫りしほど、ひとりの幻術師が天より無数の剣降らせ敵を圧倒せり』
常識的に考えれば、魔力がどれだけあってもこれはただよおとぎ話。本当にあったのかも分からない古代魔法だが、今はひたすらに創造力を膨らませる。
無数の剣の一本一本が精巧でなければならない。
創造するのは、選ばれた騎士のみが扱える聖剣にも匹敵するほどの強度と魔力を持ち合わせた剣。それは天から無数に降り注ぎ、敵の鎧をも穿つ。
魔力は最低限を残して全て使い、ステータスからは有り余っている『器用』と『運』をトッピング。
「いきます! 前にいる兵は全員下がって!」
「『魔剣ダクス』」
何も起こらない、と思ったのも束の間、雲の狭間から光が見えたと同時に無数の剣が今や遅しと浮遊している。
「放て!」
魔剣ダクスは起動。
降り注いだ剣は、星降りのように煌めきながら帝国軍に風穴を開けていった。
朦朧とした意識の中、マリーだけが「良くやったね」と頭を撫でてくれた。その姿はまるで今は亡き母のようであり、あの時の姐さんのようだった。
◇◇◇◇◇
同時刻、東門では。
「もう保ちません。投降いたしましょう」
「そうだな……」
少数部隊ではあるが、全員が選りすぐりの兵たち。彼らにも帝国軍の強大な兵力にこの戦争を諦観しつつあった。
「あの光はなんだ?!」
その希望の光は、当然、その者たちの目にも届いていた。
「剣が、剣が空から降ってきております」
「こ、これが女神の星降りなのか……」
帝国兵の悲鳴にも似た咆哮がこだまする中、伝令が走った。
「伝令、シーランス公国の戦艦が間も無く参戦とのこと!」
「よし、勝てる……勝てるぞ!」
◇◇◇◇◇
「シント、シント。起きなさい」
「母さん」
またこの夢だ。
確か僕は起源術を使ってから、それから――よく思い出せない。
「また会えて嬉しいわ」
「僕もだよ母さん。僕は死んだのかな?」
「いいえ、あなたはまだ生きてる。気を失っているだけよ」
母さんは優しく僕の頬に手を添えた。またしばらく会えないからと、目に焼き付けるかのようにじっと見つめる。
しばらくすると、どこからかミュールの声が聞こえた。お別れを悟るように、母さんは涙を滲ませながら僕を抱き寄せた。
「さぁ、そろそろ戻る時間よ」
「うんまたね」
◇◇◇◇◇
重たい瞼を開けると、ミュールをはじめ、共に戦った兵士たちがシントを囲んでいた。
「やっと起きた!」
「ああ、上手くやったんだね」
ミュールは威張るように胸を張った。あの時指示したのはシントだが、この功績は紛れもなく行動を起こした彼女のものだろう。
シントは起き上がり、気を失っていた間のことを確認した。
帝国は魔剣とシーランス公国の戦艦により、ほとんどの師団が壊滅。残った兵士たちも投降したとのこと。
「一件落着ってわけか」
「いいえ、シントさん。西門に忘れ物があるわよ」
マリーの意味深発言は、そこにいた全員を凍りつかせた。
「西門には敵は居ないのでは?」
「すぐに分かるわ。ほら3、2、1……」
カウントダウンがされると、伝令兵が真っ青になって走ってきた。
「で、伝令! 西門側に大量の魔族と魔物の群が侵攻中!」
「さぁ皆さん行きますわよ」
スキップで西門に向かうマリーを見た兵士とシントたちは、開いた口が塞がらぬまま、彼女に着いて行った。
「シント殿とのお話はまた先延ばしになってしまったか」
「シーランス公、そんなこと言ってないで私たちも戦艦で向かいますよ!」
◇◇◇◇◇
魔物の襲来は参謀本部にも報告された。
「またモルトケの仕業か?」
「案ずるな。魔物ごとき蹴散らせばよかろうて」
「正門の部隊数名が西門に向かったと報告がある。あの少年の力があれば大事無いであろう」
◇◇◇◇◇
参謀本部の考えは、正に根拠のない楽観だった。
シントは既に魔力のほとんどを使い果たし、歩くのが精一杯だった。とてもじゃないが、戦える状態ではない。
魔族率いる魔物の群は、お構いなしに進軍し続け、やがて西門の城壁から見えるほどのところに陣取った。
「我が名は魔王軍大尉『魔人シュルク・ターク』バモナウツ王に話がある。畏まって門を開け!」
このシュルク・タークの要請を、参謀本部は詳細も聞かずあっさりと棄却した。
当然と言えば当然、怒った魔人と魔物たちは、バモナウツ王国に宣戦布告をした。
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