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第一章 万華鏡

第十一話 助っ人

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「これでよし、と」

 全自動の魔力炉が4基、結界が6層。これが明日までに納品するアーティファクトの半分。結構な重労働だが、報酬の金貨5000枚を鑑みれば当然の仕事だ。

「ちょっと頑張り過ぎ」
「うん、休憩しなきゃだめ」
「そうするよ」

 双子が作ったクッキーを頬張りながら、今日の予定を確認する。
 悪霊発生装置と魔力炉に関しては、明日早く起きれば間に合うな。今日中に片付けなければならないのは、魔剣と魔槍を3本ずつ。

「名前付けないの?」
「うん、そのままじゃダサい」

 そう言えば、アーティファクトの名前を考えていなかった。物でも魔物でも『ネームド』は重宝されるのだ。魔剣にせよ、アーティファクトにせよ名前を付けることで魔力量が多少向上するらしい。しかし、その命名行為だけで魔力がごっそり持っていかれる。

「センス無いし魔力も必要だから、命名は軍の人たちに任せるよ」

 制作を再開してしばらく経った頃、窓際に吉報を乗せた鳩が舞い降りた。

「ミュールからか」

『シント・レーブル様。
 王国での貴殿の活躍は、東シーランスにも届いております。
 こちらはシント様のおかげで町に賑わいが戻りました。先日は役に立てなかった私ですが、是非とも恩返しをしたく、連絡差し上げました。
 この手紙が届いてから3日ほどでそちらへ着く予定ですので、よろしくお願いします』

 よろしくお願いします!と言われても困るんだけどな。しかし、サラマンダーの手も借りたいと思っていたところだ。是非とも彼女には錬金術師としての威厳を見せて欲しいものだ。



「確かに承りました。次の納品ですが、冒険者ギルドからの依頼になります」
「物はなんでしょう?」

 冒険者は危険な職業だ。そのおかげか、彼らの傲慢さと図太さは計り知れない。僕は覚悟を決めて依頼を受けた。


「初めまして、ミュール・シュビッツと申します!」

 ミュールは予定よりも一日早く到着した。僕は作業で忙しかったので、出迎えは彼女の尊敬するリシスと双子に任せておいた。

「君がミュールか。シントから話は聞いていたよ」
「は、話って……」
「とても才能がある錬金術師だとね」

 焦りを隠せないミュールだったが、僕は告げ口なんてしない。例え彼女がシーランス港で何の活躍も無かったとしてもね。

「ミュール早かったね」
「な、なんでリシス様が居るのよ!?」
「あれ? 言ってなかったっけ」

 と、折角なのでミュールにはこれまでの全てのことを話した。泣いたり笑ったり、実に感情の起伏が激しい彼女は、顔が腫れて大変なことになっている。

「シントも大変だったのですね……」
「まぁ今はそれどころじゃないけどね」

 僕は冒険者ギルドからの納品書を見せた。

『双魔剣20本、魔盾50枚。期日1週間後』

「えぇえ?! こんなの無理ですよ、ムリムリムリムリ」
「僕が徹夜しても魔双剣3本、魔盾1本が限界だ」

 完全にやる気が無くなってしまったミュールだったが、仕事を説明したらすぐに取り掛かってくれた。

 彼女の仕事は至って簡単。僕が創造した魔封石に魔力と呪いを付与するだけ。あとは魔石の取り付けや、不備の確認をしてもらう。

 多少なりとも僕の負担は減らせたのだが――。


「納期、明日ですね」
「あと魔盾が7枚かぁ……」

 時刻は午後6時を過ぎていた。双魔剣は数が多過ぎるので早めに片付けたが、盾の量もそこまで変わらないことに今になって気が付いた。

「骨組みはできてますけど、私たちの魔力量が足りませんよ」
「仕方ない、リシスに魔力を分けてもらうか」


「おぉ、シントかぁ。魔力が欲しいのかぁ。良いゾォ」

 完全に酔い潰れている。世界一の錬金術師が聞いて呆れるが、一番可哀想なのはミュールだ。

「最悪です」
「あはは……」

 この顔である。


「どうしましょう。間に合わなかったらナニかされちゃいますかねぇ!?」
「いや、そんなことは――」

『コンコンコン』

「おふたりさん、夕食ができました」
「うん、できました」

 双子の姿を見た途端、僕の脳裏に強烈な電流が走った。最高の名案が浮かんだのだ。


「これで良いの?」
「なんかくすぐったい」
「ちょっと我慢してくれ。魔力をちょっとだけ貰うだけだから」

 家や工房にあるアーティファクトを毎日使いこなしているこの2人なら、魔力量もかなりあるはずだ。

「これなら……」

 魔封石に込められた魔力は、魔盾7枚程度なら十分に作れそうなほどにある。

「ありがとう、天使たち!!」
「く、苦しい」
「うん、苦しい」

 翌日、僕たちは冒険者ギルドへ納品に向かった。 

「流石は国王直属の錬金術師だな」
「大したもんだ」

 屈強な冒険者たちに褒められるのも悪い気はしないな。ギルドの鑑定士が確認した後、僕たちは報酬を貰った。

「聞きたいことがあるのですが。どうして急に売れない魔盾なんて発注したんです?」
「それはな――」

 今から1週間前、ちょうどギルドから依頼があった日のこと。
 王都の壁外に魔物が大量発生し、冒険者が駆り出された。その時はなんとか食い止められたが、被害は甚大。

「勇者もなぁ……」
「シリエルが?!」

 勇者であるシリエルも『深淵の墓地』からの遠征から帰るや否や参戦。しかし、魔力も武器も消耗が激しく、相当な深傷を負ってしまったらしい。

「次に魔物が来たら王都に入り込まれちまう。だから強いアーティファクトが必要だったんだ」
「よく分かりました。それで、シリエルはどこに?」

 冒険者から居場所を聞いた僕は、王都で最大の病院として名高い、パラグラム神殿に訪れた。


「シリエル様への面会は関係者しか無理ですよ」
「そんな……」

「彼は私の友人だ。一緒に入るなら問題は無いでしょう?」
「アズボンド!」
「やぁ」

 久しぶりの友人との再開に心躍った。包帯で全身を覆われたシリエルを見るまでは。
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