桜舞う星の下で

北丘 淳士

文字の大きさ
上 下
17 / 17

桜舞う星の下で

しおりを挟む
「看守?」
 三弥が頷くと同時に那美を抱えた三弥と2人は402実験室内にあるクリアボードの前に立っていた。
「ふぇっ!」
 朋が頓狂な声を上げる。
 クリアボードは、まだ誰かの帰還を待つかのように光っていた。
「入れるよ。大丈夫」
「入れるって?」
「説明するより見た方が早いかも」
 三弥は那美を抱えたまま体を捻じり、来訪者とは逆にクリアボードに入っていった。
 それを見た2人も固唾を飲んでクリアボードに手を伸ばした。指の先が温かい。徐々に体を進め顔がクリアボードを抜けると、バスケットコートほどの殺風景な真っ白い空間に出た。天井はそれほど高くない。地球よりも少し強い重力を二人は感じた。左右に来訪者と同じ姿のアンドロイドが計9体、立哨している。隼人は一瞬構えたが動く気配はない。背後を確認するとクリアボードが計4枚壁にかかっていて、出てきたクリアボードの光は徐々に薄れていった。
「大丈夫なの?」朋が身を縮めて問う。
「うん、大丈夫、戻れるよ。それよりも2人ともあまり俺から離れないで。空気調整と宇宙線反射を兼ねているから」
「ここは、いったい……」
 そう隼人が呟くと、那美がようやく意識を取り戻した。
「……み、三弥君?」
「やあ那美さん、おはよう。那美さんの謎がやっと解けますよ」
「謎……、ここは?」
「立てます?」
 那美は戸惑いつつも頷くと三弥はゆっくりと足から下ろした。そして那美は自分の体が青いことに気づくと慌てて容貌を人間の姿に戻した。
 それを見た隼人は腕を組み、口を開く。
「那美さん、説明してもらいましょうか」
 視線を落とし、しばらく黙っていた那美は3人の目をそれぞれ一瞥して話し出す。
「私はね……、多分地球人じゃないの」
「そりゃそうでしょ!!」
 朋が間髪入れずに突っ込む。
「アフガニスタンの遺跡で、ミイラ化した状態で待っていたの。多分」
「待っていた? 多分?」
「死にたいのに死にきれなかった。そしてあなたたちを、私と人間のハイブリッドを造って……」
「外に出て話しませんか? そっちのほうが分かり易いかも」
 那美は怪訝な表情で三弥の顔を見上げる。
「ついてきてください。あ、あまり俺から離れないで」
 そう告げた三弥はその部屋の中央を真っすぐに進み、突き当りにある黒い線が入った掌サイズの枠に手を翳した。
「こんな感じかな?」
 三弥の手が先ほどの那美のような青く人差し指と中指が長い形に変形する。
「気持ち悪っ!」
 隼人が思わず口にした。
 三弥は、やや悲しげな表情を返した。
 数舜して目の前の壁が消え、星が煌めく空が4人を見下ろしていた。植物のようなものが繁茂し、数多の摩天楼のような建物は半壊して朽ち、青と白の2つの月が優しい光を湛え地表を照らしていた。
「わぁ、綺麗~」
「ここは……、何か懐かしい感じが……」
「この星が那美さんの生まれ故郷ですよ」 
「故郷?」
「さっきの来訪者をサイコメトリーして分かりました。那美さんはこの星の住人で、地球を流刑地とされていたんです。刑期は約12万年。死ねない体を与えられ、遠い地に飛ばされた。そしてそれを苦にした那美さんは自らをミイラ化して刑が終わるまで待っていたんです」
 その言葉を聞いた隼人は「……なんて酷い」としか言葉が出なかった。
「そう……、そうだったのね。一度ミイラ化して記憶が無くなっていたようね」
「ただこの星には、もう知的生命体はいない。看守として作られたアンドロイドが機能しているだけで、それで刑期を終えた那美さんを連れ戻しに来たんです」
 気が遠くなる話だと朋と隼人は思う。
「那美さん」
「ん?」
「この星に残りますか?」
 那美はすぐに首を振った。
「無理。私しかいないなんて」
 その時、風が吹き、上空から桃色の物質が小雨のように舞い降りてきた。4人は空を見上げる。監獄として機能していた建物の上部に植物のようなものが生え、それが風に乗って生命を遠くに飛ばしているかのようだった。知的生命体はいずとも、生命が続いている姿を4人実感を持って見ている。
「本物の桜じゃないけど、これもいいものですね」
「……うん。……私はあとどれぐらい生きられるのかしら。わかる?」
「ええ、分かります。でも内緒です。それに俺もそんなに長くない。だから一緒に生きていきましょう」
 那美は三弥の手を握り、その景色を眺めていた。


あとがき

最近いくつかあるパソコンの整理をしてましたら、書きかけのこの小説を見つけました。
今も二つほど小説を書いているのですが、シリアス系なのでアクションの書き方を忘れないように加筆したら、まあまあ読めるものが出来ましたので、えいっとアップしました。
先ほど書きましたが、次回、次々回はシリアス系です。
転生ものをと以前書きましたが次々回の次になりそうです。
次回は社会問題になっていることで、個人的に、んん? と思っているので、調べに調べて小説にしてみました。
宜しければ、お付き合いください(*- -)(*_ _)ペコリ。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

0と1

枢木柊瑠
SF
これは、ある未来の話。近年、発達しすぎた科学を人間たちが扱いきれず暴走の末、死者を出してしまうという痛ましい事故が多発していた。また、非行少年少女の多くが、過去に両親を失って経歴を持っていることから両親のいない寂しさから非行に向かうと考えた有識者の意見により、非行少年少女対策の一環として国がある制度を始めた。 「新しい制度」と向き合い戦う少年たちを描いたSF。 もし、近い将来AIが親の代わりをするといわれたら、あなたはどうしますか。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

BUTTERFLY CODE

Tocollon
SF
東京中央新都心--シンギュラリティを越えた世界へ振り下ろされる古(いにしえ)の十字架。 友達の九条美雪や城戸玲奈からユッコと呼ばれる、13歳の少女、深町優子は父、誠司が監査役として所属する国家公安委員会直属の組織、QCC日本支部の設立した、外資系の学校法人へ通っていた。 そんな中、静岡県にある第3副都心で起こる大規模爆発の報道と、東京都豊島区にあるビルのシステムがハッキングされた事による、人々から任意に提供される記憶情報の改竄…現れた父により明かされる驚愕の真実--人類には、もう時間が無い。水面下で仕組まれた計画に巻き込まれ、翻弄される中でユッコと、その仲間達は直面する逃れられぬ呪いへと、立ち向かう。 人工知能に対する権限を失った世界と衝突する、もう1つの世界。2つの世界が繋がった時、それぞれの交錯する運命は1つとなり、想像を絶する世界へのゲートが開かれた。 父、誠司の脳裏へ甦る14年前の記憶--わかっていた。不確実性領域--阿頼耶識。起源の発露。定められた災厄の刻が訪れただけだ。記憶から立ち上る熱に目を閉じる誠司…古の十字架から逃げ惑う、かつての、同僚であった研究所の人々、血の海へ沈む所長、そして最愛の妻、沙由里の慟哭。宿命から逃れ続けた人類の背負う代償…その呪いを、希望へ変える為に闘うべき時が来たのだ。 定められた災厄へ向かい、音を立てて廻り始める運命の車輪。動き出す地下組織。そして主人公、ユッコの耳へ届く、呪いの慟哭へ僅かに混じる、母の聲…ママ。微かな希望へ光を灯すため、一歩を踏み出す、ユッコ。 そしてその手をとる、それぞれの想いを、残酷な世界の真実へ託す仲間達…出会い、運命、そして宿命。その全ては、1つとなる刻を、待っていた。 そうだよ、ユッコ。力を合わせれば、乗り越えられる。辿り着ける。私達は同じ世界で、同じ想いを持って、ここまで来たんだ。 行き着いた世界の果てに彼女達が見るものとは--。

フォルスマキナの福音

れく
SF
いじめられていた主人公・時風航汰はある日、夜の学校に呼び出され、そこで現実とは思えない光景を見てしまう。近未来の七賀戸町で起こる機械生命体と突然変異種との戦い。 ※処女作「幽霊巫女の噂」と同一舞台・近未来設定のお話です。

「メジャー・インフラトン」序章5/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節 JUMP! JUMP! JUMP! No2.

あおっち
SF
 海を埋め尽くすAXISの艦隊。 飽和攻撃が始まる台湾、金門県。  海岸の空を埋め尽くすAXISの巨大なロボ、HARMARの大群。 同時に始まる苫小牧市へ着上陸作戦。 苫小牧市を守るシーラス防衛軍。 そこで、先に上陸した砲撃部隊の砲弾が千歳市を襲った! SF大河小説の前章譚、第5部作。 是非ご覧ください。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

法術省 特務公安課 ‐第0章‐『法術概論』

秋山武々
SF
ー2045年、誰でも魔法使いになれる日常が訪れるー ※この章は本編へ繋がる補完的物語です。 2020年、大気圏上での二つの隕石の衝突。人類は世界の終末を迎えようとしていたが、衝突した隕石は地球に衝突することなく散開。最小限の災害で事なきを得る。 それ以降、世界各地で火、水、風、地などの自然現象を意図的に発生させることが可能な人間、謂わゆる超常現象と呼ばれていた非科学的且つ説明不可能の現象を創造できる人間が増加していく。 国連は人間が発生させる、もしくはその事象に関連する行為・行動を「法術」と規定し、該当する人間を強制的に保護観察下に置いていくが、人権を求めた者や法術を悪用したテロリストは様々な法術事件を発生させ、国連への反発と批判は高まってしまったことで後に三大法術事件が起きてしまう。 人間の体内に法術に関連する細胞が存在することが発表され、全人類に遺伝子IDの発行と登録の義務化がされたことで各国での法術を利用した犯罪は抑止され鎮静化を迎えた。 2040年以降、世界は法術が日常となりつつあり、今や国の産業となっている。 先進国は法術利用に重点を置いた産業開発、資源開発、軍事開発に国の財を投資するようになっていた。 国内では官公庁に新たに法術省が新設され、以前までの官公庁の業務や事案にですら間接的に関与することが許可され、法術が国家に不可欠なものになっていた。 法術をデジタル化し、素質など関係なく適正さえあれば誰でもダウンロードができ、人生を豊かにできる。 世界では法術ダウンロード可決への賛否が騒がれていた。 人が魔法を使う。そんな話はもはや空想の話ではなくなっている。 しかし、法術犯罪も凶悪化の一途を辿るのだった。 法術省特務公安課の磐城は法術テロの被害者であり、弟を昏睡状態にさせたテロの重要参考人である「ブラックグローブ」を日々追い求めていた。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...