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能力のコツ
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翌日、ある実験室で、三弥は朋と共にマットの上で目を瞑り、浅い呼吸を繰り返していた。精神を内外に向けることを繰り返し心理を徹見する。世界に対する自分の存在を色々な方角から見つめるところから始まり、無我の境地へとたどり着く。
事前に那美からプレコグニションの開発を進めるようにと言われ、朋からもそのコツを教わってはいたのだが、三弥はその先に進めてはいなかった。実際はコンマ数秒先の予知は出来るようになっていたのだが、あまりにも短い未来のため彼はその事に気づいていなかった。
一見地味なトレーニングだったが、三弥には好きなカリキュラムだった。混濁した数多のものが彼の精神の中で小さくなり、少しずつ澄んでいく感じがする。深く深く没入する。もう一段階先にいこうとしたところで、小さなチャイムが鳴った。すぐに現実に呼び戻される。
「もう2時間たったのか……」
2人とも一度深呼吸して目を開ける。
「ケーキ、食べよっか」
と笑顔で言った朋が、足がしびれてうまく立てないようだった。
鉛で囲まれた白い廊下を通って2人して自室へ帰る。すると三弥の机の上に桜の盆栽が置かれていた。時期がずれているにも関わらず、その桜は満開の花を咲かせていた。
「ははっ、一緒に見たかったのにな」
三弥のその言葉に、朋は隣で不思議そうな顔をしていた。
「ねえ、聞いた聞いた!? 明日、何か観測のサポートするんだって。何の観測かは良くわかんなかったけど」
「ああ、聞いたよ」
三弥の部屋で隼人たち三人は各々の好きな飲み物をテーブルに置いて話し合っていた。最近の三弥のお気に入りは、那美も好きなセージ茶ハチミツ入りだった。程よい温さになったセージ茶を啜る。体が自然と温まる。
「ところで三弥、ラダートレーニングが1200回を超えたんだって?」
「ああ、でも頭打ちだよ。那美さんの的確なアドバイスのおかげかな」
「ほんと、那美さんの超能力に対するアドバイスは的確だよな。俺も1400まで伸ばすことが出来たし」
「えっ! 1400!」
その反応に、隼人は得意げな顔を僅かに向ける。とりあえずプライドは保たれたといった顔だ。
「ねえねえ、テレポーテーションってどんな感じ?」
『動』の能力が使えない朋がブルーベリータルトを頬張りながら聞いてきた。
よく食べるな……。
「んー、例えが難しいな。んーとねー、紙の上に2つの点を描くだろ。そして紙を曲げてその点と点をくっつけるような感じだよ」
「ふーん」
口頭で説明されても全く分からない、といった表情で朋は言ってはならない話題をつい溢した。
「そういえば明日の観測、32号棟でやるんだって」
「観測?」隼人が眉を顰め尋ねる。
「そう。なんだかある物をプレコグニションで観察してほしいんだって」
「バカッ、朋っ!」
しまった! と言いたげな表情で朋は隼人の顔を見る。
「ということは、外に出られるってことか!? 外の様子が分かったら俺にテレパスで教えてくれ!!」
外の様子が分かると、隼人の能力を使って外に出入りする事が出来る。だから那美は三弥や隼人には内密にするように、と朋に念を押したのだった。
すかさず朋は隼人に触れ、意識を集中し記憶改竄を行った。
突然触れてきた朋に隼人は驚いたが、やがて何事もなくテレポーテーションの事についての続きを話始めた。
朋も結構えげつないな……。
三弥は半眼で朋を見ていた。
事前に那美からプレコグニションの開発を進めるようにと言われ、朋からもそのコツを教わってはいたのだが、三弥はその先に進めてはいなかった。実際はコンマ数秒先の予知は出来るようになっていたのだが、あまりにも短い未来のため彼はその事に気づいていなかった。
一見地味なトレーニングだったが、三弥には好きなカリキュラムだった。混濁した数多のものが彼の精神の中で小さくなり、少しずつ澄んでいく感じがする。深く深く没入する。もう一段階先にいこうとしたところで、小さなチャイムが鳴った。すぐに現実に呼び戻される。
「もう2時間たったのか……」
2人とも一度深呼吸して目を開ける。
「ケーキ、食べよっか」
と笑顔で言った朋が、足がしびれてうまく立てないようだった。
鉛で囲まれた白い廊下を通って2人して自室へ帰る。すると三弥の机の上に桜の盆栽が置かれていた。時期がずれているにも関わらず、その桜は満開の花を咲かせていた。
「ははっ、一緒に見たかったのにな」
三弥のその言葉に、朋は隣で不思議そうな顔をしていた。
「ねえ、聞いた聞いた!? 明日、何か観測のサポートするんだって。何の観測かは良くわかんなかったけど」
「ああ、聞いたよ」
三弥の部屋で隼人たち三人は各々の好きな飲み物をテーブルに置いて話し合っていた。最近の三弥のお気に入りは、那美も好きなセージ茶ハチミツ入りだった。程よい温さになったセージ茶を啜る。体が自然と温まる。
「ところで三弥、ラダートレーニングが1200回を超えたんだって?」
「ああ、でも頭打ちだよ。那美さんの的確なアドバイスのおかげかな」
「ほんと、那美さんの超能力に対するアドバイスは的確だよな。俺も1400まで伸ばすことが出来たし」
「えっ! 1400!」
その反応に、隼人は得意げな顔を僅かに向ける。とりあえずプライドは保たれたといった顔だ。
「ねえねえ、テレポーテーションってどんな感じ?」
『動』の能力が使えない朋がブルーベリータルトを頬張りながら聞いてきた。
よく食べるな……。
「んー、例えが難しいな。んーとねー、紙の上に2つの点を描くだろ。そして紙を曲げてその点と点をくっつけるような感じだよ」
「ふーん」
口頭で説明されても全く分からない、といった表情で朋は言ってはならない話題をつい溢した。
「そういえば明日の観測、32号棟でやるんだって」
「観測?」隼人が眉を顰め尋ねる。
「そう。なんだかある物をプレコグニションで観察してほしいんだって」
「バカッ、朋っ!」
しまった! と言いたげな表情で朋は隼人の顔を見る。
「ということは、外に出られるってことか!? 外の様子が分かったら俺にテレパスで教えてくれ!!」
外の様子が分かると、隼人の能力を使って外に出入りする事が出来る。だから那美は三弥や隼人には内密にするように、と朋に念を押したのだった。
すかさず朋は隼人に触れ、意識を集中し記憶改竄を行った。
突然触れてきた朋に隼人は驚いたが、やがて何事もなくテレポーテーションの事についての続きを話始めた。
朋も結構えげつないな……。
三弥は半眼で朋を見ていた。
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